建築主 佐伯徳順✖️建築家 齋田武亨✖️施工 細井良憲
「想いは連鎖する」
地域社会の発展に貢献した優秀な建築作品を表彰する富山県建築文化賞。51回を迎える栄えある賞にノミネートされた一般部門10点・住宅部門各13点の中から、見事受賞された方々にインタビューを敢行。第2回目は、「一般部門」入選の「郷の納骨ロッカー」を建築された建築主の慈興院大徳寺・佐伯徳順さんと、設計を担当された齋田武亨さん、施工を担当された宝来社の細井良憲さんの3名にお話を伺いました!
第51回富山県建築文化賞 一般部門 | |
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入選 | 「郷の納骨ロッカー」 |
竣工 | 2018年7月 |
施主 | 慈興院大徳寺(代表・佐伯徳順氏) |
設計 | 本瀬齋田建築設計事務所(代表・齋田武亨氏) |
施工 | 宝来社(荒井洋平代表取締役社長) |
ラボ
この度は入選おめでとうございます!新しいお墓の形「郷の納骨ロッカー」を作ることになったきっかけを教えてください。
佐伯さん
2017年の夏、北海道のお寺さんに講話で呼ばれた際に、そのお寺さんが本堂の横に納骨ロッカーを作られていました。それまでは自分もやりたいけどお金がかかりそうだな…と漠然と思っていましたが、実際に詳しく話を聞いてみて現実味を帯びてきたのでやってみようと思ったんです。
ラボ
そこで、齋田さんに依頼をされたわけですか?
佐伯さん
いえ…。実を言うと、最初は自分で道具を買ってDIYで作ろうと思ったんです。しかし、早い段階で「これは無理だな」と気がついて諦めました(笑)。
イメージとしては、蛍光灯の光で殺伐とした寂しい感じにはしたくありませんでした。「お墓にベンチを作りたい」という門徒さんもいらして、まさにその通りだなと。お骨は怖いものじゃなくて、すごく温かくて、ぬくもりのあるもの。納骨堂でのんびりするとか、少しお話しして手を合わせたいと思えるような、例えるならカフェのような空間にしたかった。そこで、知り合いを通じて齋田さんに依頼することにしたんです。
斎田さん
最初にお話を頂いた時は、仏教やお寺としてのトラディショナルなモチーフを取り入れながらつくるのは難しいなと思っていました。しかし、佐伯さんは大晦日に「除夜のカレー」を企画されるような方で(笑)。伝統的な形式に囚われ過ぎずに、人が集まる場所を作ろうと新しい取り組みをされていたので、これは面白いなと思いました。実際お寺を見てみると、大正天皇の葬儀に使われた建物の部材が使われている特賜殿(とくしでん)など、伝統文化を尊重しながら提案できる素敵な場所がいくつもあったんです。
細井さん
齋田さんから当社にお話をいただき、現場を見に行ったのが7月の夏盛りの頃でした。住職のお母様にアイスキャンディーを度々いただきました(笑)。浄土真宗や阿弥陀如来さんなど、云われなどを色々聞いて実測も行いました。当社はイベント会場の設営や立山博物館などの展示場整備を手掛けているので、一般の建築物件よりも今回のようなお話はある意味ではピッタリかなと思いました。
ラボ
齋田さんが宝来社さんにお話をされたのも、こうした観点からですか?
斎田さん
納骨堂なので、内装工事や什器のセレクトがメイン。その中でも隈研吾建築都市設計事務所時代に、「TOYAMAキラリ」でご一緒した宝来社さんがイイなと頭に浮かび依頼しました。
佐伯さん
宝来社さんがキラリや立山博物館の展示場整備などを手掛けているのは以前から知っていて、「この納骨堂は凄い会社がやってくれているんだ」と嬉しくなりましたね。
ラボ
齋田さんが「郷の納骨ロッカー」で提案されたコンセプトを教えてください!
斎田さん
神々しさを表現しようとすると、どうしてもお釈迦様の顔と昔怖かったイメージがありました。仏教モチーフを使わずに、「ただ大切なものがここにある」というメッセージを大切にするにはどうすればいいか。日本の文化で大切なものは、桐のタンスや箱にしまうことだと考え、納骨ロッカーを桐で作ることにしました。現代のリビングのようにアットホームではなく、昔の茶室をイメージし、凛とした雰囲気がありながらも身近な存在を目指しました。
佐伯さん
齋田さんから提案を頂いた時、予想を遥かに上回るものだったので本当に驚きました。特に骨壺の桐箱をイメージしたロッカーは、もの凄く刺さりました。光の具合も私の意図をしっかりと汲んでもらい、間接照明や柔らかい光を上手く使って温かみのある雰囲気があります。大満足です。
斎田さん
宝来社さんはイベント照明の技術や知識が豊富なので、コンセプトを伝えた後は細井さんの言う通りにしました(笑)。
ラボ
天井から吊るされた簾も印象的です!
斎田さん
ただロッカーの棚を作るだけではなく、もう少し空間的にも「ここは格式の高い場所」と伝えるために、簾を吊るすアイデアが浮かびました。この簾はお寺の由緒正しい、反りのある屋根と端正な垂木を生かしながら、お寺に多用されている杉材を使って現代的にアレンジしました。
細井さん
簾を上から吊るす設えは、一番苦労した箇所です。ワイヤーだと回転してしまうのでどう止めるのか、どんな方法が良いか会社で試験を何度も繰り返しました。最終的にはイメージ通りのものが出来上がりました。
ラボ
窓からの光ともマッチしていますね!
細井さん
明るい雰囲気を出すために、柔らかい光を取り入れようと、背後の窓には縦の線が多い障子にしました。湿気で反りやすかったり、これもまた難しかった(笑)。地域性を熟知している地元の山本建具さんと協力して施工しました。
光を透過し、冬は粉雪が降っているように、夏は日差しが木漏れ日のように舞い降りてきて、静寂した雰囲気が感じられるように。下からの間接照明と上からの自然光が舞い降りるバランスを大切にしました。
斎田さん
パースを描いた側としては、イメージ通りのものができるかドキドキしましたが、本当に出来上がった。「え、すごーい」という感じです(笑)。
佐伯さん
提案通りのもので、こちらもびっくりです。阿弥陀様の厨子も古く、建て付けが斜めになっている箇所もあったのですが、人力でグッと真っ直ぐに直してくださったり、職人技を垣間見ました(笑)。
細井さん
本堂から(納骨ロッカーのある)特賜殿までの渡り廊下は、杉材のフローリングに張り替えました。20mの廊下を歩いた先、徐々に光が見えてきて…。そこにまた期待感があり、特賜殿の雰囲気にマッチしたと思います。
斎田さん
良い仕上がりになったのは、細井さんがすべて楽しんで施工してくれたおかげです。
細井さん
イベント屋ですから(笑)。
ラボ
最後に改めて受賞された感想を聞かせてください。
佐伯さん
純粋に嬉しかったですね。保守的な地域において、私なりに覚悟を決めて攻めた部分がありました。この納骨堂に「賛否両論が出るかな」と迷う部分もありましたが、自分の考えを優先し、建築文化賞として評価をいただき、本当に良かったです。工事に携わられた皆さんが職人魂をフルに見せてくれたお陰です!
斎田さん
私は「TOYAMAキラリ」の設計を機に、このまま富山で仕事がしたいと思って東京から移り住んだ身です。富山に来て「いいな」「カッコイイな」と思う風景や景色を取り入れて、その場所に相応しいものを作りたいと思っています。今回こうして評価を頂いたことは、私自身にとってとても価値のあるものになりました。
隈事務所時代は、それこそ有名な建物を数多く手掛けましたが、逆に面白そう、楽しそうだけど事務所の規模として手掛ける事が出来ないものもたくさんありました。今はその枠が外れ、小さくても良いものづくりを楽しめています。
細井さん
ただ、引き渡して、会社に利益を残して…それで終わりでは面白くない。齋田さんの作品を形にした時に、自分にとっても一つの作品になります。施主さん、設計士さんのイメージをより良いものに仕上げることを常々大事にしていますが、この賞を受賞してそれが間違っていなかったということを再確認できました。想いは連鎖すると私は思っていて、皆さんの想いから良いものができますし、その想いは納骨ロッカーに入られる方にも連鎖するのではないかと感じています。
「郷の納骨ロッカー」 施工業者の皆さま | |
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造作木工事 | 能登建築 |
造作木工事 | (有)協越建工 |
家具工事 | 高木家具製作所 |
装飾木工事 | 浅井工芸 |
金物工事 | (株)カネマサ |
建具工事 | (有)山本建具 |
畳工事 | 黒崎畳店 |
電気工事 | はじめ電工 |
美装工事 | (株)北清社 |