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建築家 荒井好一郎✖️大工 吉本宏明 ✖️木材 尾久吉一  「職人の一人ひとりが主役」

建築家 荒井好一郎✖️大工 吉本宏明
✖️木材 尾久吉一 
「職人の一人ひとりが主役」

建築

地域社会の発展に貢献した優秀な建築作品を表彰する富山県建築文化賞。51回を迎える栄えある賞にノミネートされた一般部門10点・住宅部門各13点の中から、見事受賞された方々にインタビューを敢行!今回は、「住宅部門」優秀賞「インナーパティオのある家」の設計を手掛けた荒井好一郎さん(荒井好一郎建築設計室)、施工を担当した吉本宏明さん(有磯建築 左吉)、木材を供給された尾久吉一さん(尾久木材工業)の3名にお話を聞いてきました!

第51回富山県建築文化賞 住宅部門
優秀賞 「インナーパティオのある家」
竣工 2018年3月
構造 木造軸組構法2階建て
設計 荒井好一郎建築設計室(荒井好一郎代表)
施工 オープンシステムによるCM分離発注方式

 

ラボ

受賞された率直な感想を教えてください!

荒井さん

自分のものづくりの価値観では、「作品」として建築を作っているわけではなく、デザインの仕事であってアートではありません。依頼があって求められて、問題を解決するためのデザインを提供するもので、お施主さんやクライアントあっての仕事です。ですから、お施主さんからの評価は凄く大事ですし、一緒に仕事をしている職人さんともそれを分かち合いたい。ただ、改めてこうした賞をいただくと率直に嬉しいです。内輪だけで「イイものが出来たね」の自己満足ではなく、外から見ても富山の建築文化に寄与する賞として評価を受けたことが嬉しいです。

荒井さん。インタビューでは建築に対する熱い想いが溢れる

吉本さん

基本的に施主さんと設計士さんとの想いを形づくることが仕事です。時間が掛かったところは多々有りました。和室の天井など、普通の一般住宅では見ない仕様が入っていてやりがいのある住宅でした。作っている時は複雑かなと少し思いましたが、完成してみるとシンプルでスッキリしたかなと思います。

大工の吉本さん。富山だけでなく県外でも多くの仕事を抱える

荒井さん

職人さんは吉本さんのように、みんな良い意味でも悪い意味でも控えめなんです(笑)。今回は施工が分離発注方式なので、職人さん一人ひとりが主役で受賞者です。

尾久さん

住宅を建てたい人は「木の雰囲気を味わいたい」と思う人が多いように感じます。一方で、建築屋さんが本物の木を扱うことにリスクを恐れて、印刷した「木みたいなもの」を使う傾向があり、設計事務所さんが無垢材を使ってもらえることは有り難く、大変嬉しいです。一流のシェフが厳選した食材を選ぶように、木も一本一本違う表情をしています。材料供給業者として、こうした環境と役目を果たさせてもらえることに嬉しさを感じています。

材木のプロ尾久さん。30年以上、大工と共に歩んできた

ラボ

今回受賞された「インナーパティオのある家」のコンセプトを教えてください!

荒井さん

お施主さんからの要望は「終の住処」でした。お施主さんからすると、この家で、「自分たちの人生を終えたい」とのことでした。これは責任重いです(苦笑)。

まず考えたのは、自分だったらどんな空間が気持ち良いのか。空間にどんな素材のものが使ってあると気持ち良いのか。これを深く、突き詰めて考えました。年月を経て美しく、体に馴染むような素材で空間を作ろうと決めました。

インナーパティオと名付けられた中土間

ラボ

タイトルにもある「インナーパティオ」とはどんなものですか?

荒井さん

お施主さんのご夫婦は八尾町出身で、町家で育った奥さまと、少し山手で育ったご主人。お話を聞いていくと、お二人に共通し、デザインのキーポイントとなるのは「土間」でした。日本は玄関で靴を脱ぐ習慣があり、土間や玄関は中と外をしっかり分ける空間。ただ、お施主さんから「靴を脱ぐ玄関はいらない。土足のまま家の中に入ってもらえる、そんな土間がいい」とご要望を受けたんです!土間を取り入れた住宅はこれまでも何度か手掛けましたが、家の中心まで土間が広がる住宅は初めてでしたね。

来客の際もこの土間に通されてお茶で一服。もちろん土足のままで

ラボ

このインナーパティオは、お施主さんの要望通りになっているわけですね。

荒井さん

お施主さんからは、朝起きてこのインナーパティオで体操したり、新聞を読んだり、生活の中で凄く気持ちの良い空間になっていると聞いています。このインナーパティオが見かけだけでなく、生活に必要であり重要な部分になっていることが大切です。

ラボ

吉本さん、施工面で工夫や苦労されたところはありましたか?

吉本さん

図面を見てから考えさせられたのは、和室周りです。和室の天井が方形(ほうぎょう)に近い真四角なピラミッドを下から見るような形だったので、どう納めようか、どう料理しようかと考えましたね。苦労した点は少しありますが、まあそんなに苦労はないですね(笑)。この天井を納めることは、恐らく10年…いや、一生ないかも(笑)。

方形型の勾配天井が印象的な和室

細かな部分に吉本さんら職人の技術が詰まっている

荒井さん

最後の最後にこの天井を残されて、吉本さんが誰にも触らせず、一人で仕上げてくれました。その想いが嬉しい。吉本さんは、どうすればお施主さんが喜んでくれて、仕上げることが出来るのか。ここに話の照準を持ってきてくれます。「そんな事は知らない」「これはムリ」などの言葉は一切出てきません。

ラボ

尾久さんは建材を供給するお立場ですが、荒井さんとは施工前にどんなお話をされたんですか?

尾久さん

荒井さんからは県産材をふんだんに使いたいと言われました。構造材はほとんど県産材です。荒井さんの意図するものを私が解釈し、加工して用意しました。この住宅のイメージと雰囲気を壊さないように材料を用意する。これが面白いようで難しいです。

古民家のような暖かさを感じる

荒井さん

全て綺麗な木材で揃えるのは、値段が高くなりますが、いたって簡単なことです。尾久さんには「材木は節があるものでも構わない」とお願いしました。綺麗な木材だけで施工するのは本質的に県産材を活用したとは言えないと思います。富山県美術館のような、魚で言う「トロ」の部分をふんだんに使うことは住宅ではムリです(笑)

ラボ

そしてこの住宅は、富山の産業技術がふんだんに使われているそうですね!

荒井さん

高岡の瀬尾製作所さんのステンレス製鎖樋、城端の松井機業さんの城端しけ絹ふすま紙を使ったり、いわゆる伝統産業と言われるものはよく使います。富山の素材を使ったり、伝産を盛り上げることが重要である一方で、私は「富山の建築技術をしっかり使うことが出来ているのか」、これを一番重要だと考えています。伝産を使うことが流行りや一過性でなく、生活に必要であることが凄く大事です。

城端しけ絹ふすま紙。室内の光を柔らかくし上品な空間を演出

建築や庭に溶け込ませたステンレス製鎖樋

ラボ

富山の建築技術と言いますと…?

荒井さん

例えば、今は左官屋さんの仕事が本当に少ないんです。富山の左官業者として技術を廃れさせないためには、富山でどんな住宅を作っていけばいいのか。こうした視点の住宅づくりはあまり行われていません。大工さん、左官屋さん、板金屋さん、材木屋さんの技術を余す事なく使って住宅を建てる。ハウスメーカーのような量産は出来ませんが、使う側や住み手側、文化的に捉えてみて、こうしたクローズアップも必要だと思います。

世の中に必要とされる技術の継承が大事

ラボ

施工が分離発注方式??とありますが…詳しく教えてください!

荒井さん

元請け工事会社がいなくて、お施主さんが専門業者(職人)に直接仕事を発注します。

分離発注方式を図でわかりやすく

ラボ

それはつまり、現場に現場監督がいないってことですか??

荒井さん

設計監理者を務める私が全ての工程を監理します。口で言う程簡単ではありませんが(笑)。分離発注はお施主さんが全ての工事業者の名前を知っていて、顔が見える関係ができるんです。住宅は誰に建ててもらったかで喜びの感じ方が違うと思っています。職人さんも、元請け会社に仕事をもらうわけではなく、お施主さんから直接仕事をもらいます。そうすると、職人さんはお施主さんのために全力を尽くすので、熱意と仕事の質が違ってくるのではないかと感じています。

今回は21社の分離発注。職人への想いがヒシヒシと伝わる

荒井さん

建物の寿命を延ばすためには、住まい手さんの建物への愛着を深めることが不可欠。住宅だけでなく、一般建築でも人に愛されない建物は簡単に壊されていきます。分離発注工事では、建て主さんが職人さんと顔の見える関係を築くことができ、工事により深く関わることになるので、建物への想い入れがより強くなると思います。こうして建物が大切に使われ、受け継がれて長寿命になる。そんなことにも期待しているんです。

吉本さん

ガウディの建築っていいですよね、極端な話ですが(笑)。多くの人が後世に残したい建築だと思います。100年後に残したい建築を職人として、大工として建てることができるのか。自分の仕事が砺波のチューリップ、氷見の寒ぶりのように、第一次産業の活性化に繋がればいいかなと思っています。

尾久さん

大工さんは生涯食べていけることが見えにくい業界になっています。大工さんに進むのであれば、棟梁に教わった技術、お客様の要望が多岐に渡ってきているので、それに応えることができる仲間を作ること、これらがないと生涯仕事として大工をやっていく事は難しい。仲間づくり、チームづくりは非常に大事です。

吉本さん

今、尾久さんが言った事は、大工の私が言わなきゃいけない事ですね(笑)。

「インナーパティオのある家」 施工業者の皆さま
解体工事・外構工事 (株)多賀興業
地盤改良工事 (有)K A K U
基礎工事 加藤建設
仮設足場・美装工事 (株)ビコー
プレカット・木材 尾久木材工業(有)
大工工事 有磯建築 左吉
断熱工事・建材・住設機器 コーケン(株)
瓦工事 四十崎瓦店 
金属工事  (有)司巧舎
板金・樋工事 (有)ミツワ板金工業
アルミサッシ工事 (株)広浜
木製サッシ工事 キマド(株)
木製建具工事 神谷木工(有)
左官・タイル・石工事 山下左官(株   
塗装工事 良久工業(株)
  内装工事 クリエイトタカイチ
畳工事 上野たたみ店
シーリング工事 岡田コーキング(株)
電気設備工事 (株)ケイ電工
給排水衛生設備工事 ダイエー設備工業(株)
家具工事 (有)中嶋工芸社
キッチン工事 (株)米三
造園工事 山﨑広介箱庭設計
ペレットストーブ工事 (有)インスペクションシステムズ
ダストボックス・仮設トイレ  木村産業(株)

PROFILE

荒井好一郎建築設計室

〒939-3506
富山市水橋辻ヶ堂262-1
http://arai-arch.net

有磯建築 左吉

〒939-0075
富山市相生町2-22
https://www.sakichi-k.jp/index.html

尾久木材工業有限会社

〒930-0021
富山市今木町5-20