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THE SABO2021 〜立山カルデラルポ (前編)〜

THE SABO2021 〜立山カルデラルポ (前編)〜

土木

立山カルデラってなに?

「立山カルデラ」という場所を知っていますか?立山カルデラは、立山黒部アルペンルート(弥陀ヶ原台地)の南側に位置し、立山火山の崩壊と侵食作用によってできた大きな“くぼ地”です。

上空から見た立山カルデラ

1858年(安政5)に越中、飛騨周辺を襲った「安政の飛越地震」によって大鳶山と小鳶山が崩壊し、大量の土砂が富山平野を襲いました。

それからも、常願寺川下流域でたびたび起こる水害対策として、富山県が立山カルデラでの「砂防工事」を開始しました。砂防法改正により1924年(大正13)に国の直轄事業として行われるようになり、現在に至ります。

これが砂防堰堤(さぼうえんてい)。階段状の段差は水や土砂の急な流れを穏やかに。土砂や石もせき止める

カルデラでは、なかなかお目にかかれない動物たちにも遭遇するそう

 

富山平野を土砂から守る「砂防工事」

現在もカルデラ内には堆積した土砂が、“数億㎥”あり、この土砂が富山平野にすべて流れ出ると、数メートルの土砂で富山平野が埋まってしまうと言われています(恐ろしい…)。

富山県内16の会社で作る「水谷協力推進会」は、力を結集し、土砂の流出を防止する砂防堰堤や、山の崩落を止めて緑化する法面工事を行うことで、多くの人々が暮らす富山平野の安全を守ってくれています。

富山平野を守る水谷協力推進会のメンバー

ラボ取材班は、雪が降らない6月〜10月いっぱいにかけて行われる立山カルデラの現場8ヵ所に取材へ!人知れず、山の中で富山平野の安全を守るために働く熱い男たちに密着です!


 

立山カルデラの砂防工事は、「水谷協力推進会」で各工事を行っています。前会長の橋場洋平さん(高田組)と、現会長の脇坂和宏(松嶋建設)さんにご案内いただきました。(本当にありがとうございました!)

全ての現場に同行いただいた橋場さん

立山カルデラ歴20年超えの大ベテラン、会長の脇坂さん

 

立山カルデラへ出発!

さて、ラボ取材班一行は立山カルデラに向かって出発!カルデラに行くためには、「有峰有料林道」を通らなければいけません。しかし、折立連絡所から一般車両は✖️。したがって、立山カルデラは誰でも入れる場所ではないんです…!(今回は取材のため特別に許可をいただきました)

有峰有料林道折立連絡所。工事関係車両のみ進入が許される

車内でもヘルメット着用が義務化!

 

1.真川第3号砂防堰堤工事

施工=株式会社高田組

まず最初の現場は、真川地区で今年9年目となる砂防堰堤工事。堰堤(えんてい)工事は、河川の水をせき止めるための構造物を造るもので、現場では約20名が常時作業されています。レッカーでコンクリートを流し込みながら、現在の高さから10m程積み上げるそう。工事を進めるために、水の流れを左右切り替えながら建てていく大掛かりな工事です。

コンクリートの構造物が堰堤に

工事の進捗によって川の流れを変えるそう。川の流れって人の力で変えられちゃうの…!?

抜群のリーダーシップで現場を牽引する橋場さん

この現場では3Dデータを使った測量を取り入れ、設計データを取り込んだ端末を見ながら、自分がどの高さにいるか位置情報を確認し、正確に作業を進めています。

橋場さんは「ICTにはほとんどの会社が取り組んでいます。少ない人数でも作業効率が上がり、新入社員でも正確に測量することが出来る。とても助かっています」とICTを駆使。

入社1年目で“砂防工事組”に抜擢された竹内健人さんは、金沢工業大学の土木工学科出身。「型枠の勾配を決める仕事を任されています。少しでもズレると全部やり直し。責任重大ですが、上手くいった時はやっぱり嬉しいです。最初は想像以上に大変でしたが、自分のつくったものが目に見えて形になっていくのでやりがいを感じます」と話してくれました。

フレッシュな竹内さん!

職人さんとコミュニケーションを取りながら慎重に作業を進める

竹内さんの先輩、浅野啓五さんは今年で入社5年目。「砂防工事を担当して3年目になりますが、現場代理人になり仕事量も責任も増しました。ですが、街中の工事とは違って近隣への配慮も特に気にする必要はないですし、自然の中で作業できるのはとても気持ちいいです」と山の魅力を語ります。

今年度から現場代理人を務める浅野さん

週末になると車で音楽をガンガンかけて、ウキウキで山を下りるそうです

ラボMEMO
立山カルデラに行く=山に「上がる」。平野部に行く時=山を「下りる」。この「山語」を聞くだけで、立山カルデラに来たことを実感します。

 

2.有峰地区渓岸対策(二の谷)工事

施工=株式会社岡部

次なる現場は土砂崩落の恐れがある“危険化地域”。なんと、なんと、この現場は重機をリモコンで操作する「無人化施工」行われています!(生で見たのはラボ取材班も初!興奮!)

無人化施工、遠隔操作仕様の重機

1.4万㎥の未開の地を、無人のバックホー(油圧ショベル)で平らにならしていきます。端と端から徐々に工事を進め、最終的には堰堤を造るとのこと。今年度は工事用の道路を整備しています。操縦するリモコンは、200m先までは楽に操作できるそうで、さらに長距離の現場になると中継車を介して進めることも。

もはや、超巨大なラジコンじゃん…

無人化施工は、このような人が進入出来ない危険な地区で大活躍しています。工事は何よりも安全が第一!無事に作業を終えて山を下りることより優先されるものはありません。現場の皆さんには、下(平地)で帰りを待つ「大事な家族」がいるのです。

現場付近にある土砂崩れから身を守るための土嚢


 

3.有峰下流左岸山腹工事

施工=新栄建設株式会社

山の斜面から流れ出る土砂を防ぐ山腹工事の現場です。法面(のりめん)の雑木だらけの急な斜面を伐採し、切土(傾斜を平らにするため、地面を削りとって地盤面を低くする)して、安定勾配を作ります。まさに危険と隣り合わせの過酷な工事です!

慎重に作業を進める職人さん

山から崩れた土砂が川を堰き止める恐れがあるため、それを食い止めるのが山腹工事。雨が降っても表面の土砂が流れ落ちないよう、わざと草を生やすために、切土した斜面に種混じりの液体を散布していきます。

突然の雨で霧が

また、崩れることを防ぐため、3m間隔でアンカーを打ち土壌を補強。1シーズンに800〜1000本は打つそうです!

現場代理人の小林皓貴さんは、今年で山工事4年目。「確かに危険な工事ではありますが、私たちの造る構造物が安全を支えていることにはやりがいを感じます。なかなか人が入ることのできない場所で作業できるのは面白いです」と話してくれました。

同じ現場で汗を流す唐島田さん(左)、小林さん

反対側の山を見回すと、土砂崩れの箇所を発見。会長の松島さんに聞いたところ、こうした箇所もいつの日か工事の対象になるそう。「立山カルデラは一生終わることのない工事」と聞いていましたが、実際に山に上がり、身をもってその意味を理解した瞬間でした


 

けっこう快適!?山の合宿生活を公開!

現場の皆さんは一日の仕事を終えると、昔のトロッコ用の狭いトンネルを車で通って、「水谷平」にある各社の事務所兼宿舎に戻ります。

これが極狭のトンネル。トンネルを通らないと宿舎に行けません

狭すぎ…車のミラー軽く擦ったかも泣

シーズン中は、この一帯に工事関係者約200名が寝泊まり。この事務所兼宿舎のプレハブは、工事が始まる前に専門業者が建て、10月の工期を終えると解体するそう。毎年、建設と解体を繰り返しています。

各社の事務所兼宿舎

水谷平では高田組さんの現場事務所にお邪魔しました。3Dデータの見直しや書類作成など、帰ってからもデスクワークが待っています。そして相部屋かと思いきや、一人ひとりに個室があって思ったより快適!?

高田組さんの現場事務所兼宿舎

点群データによる3D図面

朝昼晩の食事は、各宿舎の料理担当のおばさんが作ってくれます。これがまた美味しい!緊張感のある現場で失われた栄養補給もバッチリです。こちらは松嶋建設さんと丸新志鷹建設さんの宿舎の食堂。

食堂。山で食べる「金ちゃんヌードル」は超絶美味いでしょう

現場で働く男の胃袋を支える料理。私たちの夕飯はなんと、鰻をいただきました!(たまたま土用の丑日でした)

宿舎から車で数分のところに、工事関係者貸切の露天温泉「天涯の湯」があります。晴れた日は、すぐ近くに迫る綺麗な星空を見ながら、ゆっくりと…。これも山工事ならでは!夜にお邪魔したところ、お風呂で談笑する若手技術者の方と遭遇。話を聞くと、同じ高校の同級生で就職先は別々になったものの、立山カルデラで再会したそうです。なんかイイなぁ〜。

男・女風呂、両方あります

取材の疲れが一気に癒える

宿舎から見える絶景

後編につづく。後編は干場建設、辻建設、丸新志鷹建設、新栄建設、松本建設さんの現場へ!