THE SABO2021 〜立山カルデラルポ (後編)〜
立山カルデラルポは、いよいよ後編です!後編は5現場からお届けします。
※是非とも【前編】をお読みいただいてから、後編にお進みください!
https://www.kensetsu-labo.com/article/2866
4.多枝原谷下流砂防堰堤工事
施工=株式会社干場建設
後編、最初の現場です。こちらは堰堤を造る工事ですが、現場の土質が悪いとのこと。取材に伺った日は“作業の安全を確保”するために法面の補強が行われていました。土砂の落下を防ぐために、法面に金網を張り、モルタルを吹き付けて土砂を固めています。
現在はまさに掘削が終了したところ。今後3基の堰堤を造るため、完成までに7〜8年かかるそうです。この現場でも大きな岩など、障害物の負荷がかかれば自動で止まるように、ガイダンス付きのバックホーが使われ、ICT施工での工事が進められていました!
現場代理人の田中光文さんにお話を伺いました。「掘削するとすぐに巨大な石が出てきて、その度にバックホーで拾い上げたりしています。全く先が読めないですね。雨も急に降ってくるので工事の進捗が読めないのが非常に難しいです。そんな苦労がある反面、普段の街の工事では体験できないようなことも学べるのでとても刺激を感じています」。
5.金山谷基幹砂防堰堤工事
施工=辻󠄀建設株式会社
今年度から開始された金山谷の堰堤工事。豪雨時の土砂崩れのリスクを防ぐために、今年から約10年かけて全長300m、幅15mの巨大な堰堤を完成させます(完成すれば水谷協力推進会の中で一番大きな堰堤になるそう…!)。
堰堤は小さければ小さいほど工事が大変!小さい堰堤は重機が入らない狭い現場であることが多く、巨大な堰堤よりも施工が難しいそうです。
初年度の今年は、木材の伐採(23,000㎡)と堰堤の掘削作業を行うため、上流・下流から入る工事用道路を作っています。水が地面に染みて地盤が弱い場所のため、コンクリートではなく、セメントを改良土で中詰めする「鋼製堰堤」を採用し、工事で発生した土を再利用しているんです…!道路の盛り土は、3Dデータに基づき、ICT建機とコンバインドローラーを使って行われています。UAV(無人航空機)を使用した起工測量など、「安全」を確保するための無人化施工も随所に取り入れられています。
現場を担当する佐伯勉さんは、「これだけの自然を相手に、限られた工期で大規模な工事を行うのは非常にやりがいがある仕事。他の建設会社と連携を取り合い、お互い“イイものをつくろう!”という雰囲気があるのも山工事ならでは。去年、今年はコロナで中止していますが、例年は全社揃っての花植えや運動会など、イベントもたくさんあって楽しいですよ」と話してくれました。
現場を切り盛りする山尾亮介さんは「設計上の数字と実際の現場では、これだけの自然が相手なのでやはり誤差が生じます。現場でいかに対応出来るかが大事」と話してくれ、立山砂防の仕事について聞いたところ、「山だけじゃなくてどの現場もそうですけど、この立山砂防は土石流が発生する危険な場所。今日の雨も危険な雨量が降るようだったら、早めに判断して工事をストップしなければなりません」と、現場代理人としての使命感を伝えてくれました。
6.湯川第13号砂防堰堤工事
施工=丸新志鷹建設株式会社
丸新志鷹建設さんに勤めて7年目。累積の山工事歴約40年(!)の監理技術者の笹岡菊水さんと、現場代理人の大黒孝之さんらでこの堰堤工事の現場を切り盛りしています。
この現場は様々な谷筋が集中する川で、山奥にありながら川の広がりも大きく、コンクリートの総量30,000㎥を超える大規模な工事。今工事は13年目に突入。15年計画のため、あと2〜3年で完成予定です!
大黒さん曰く、「去年は天気が悪く一週間ずっと工事が出来なかった時もありました。毎年、雪が降る前の10月末までと工期は決まっているので焦りも出てきますし、何より雨が続くと土砂災害の危険性もあるので、しっかりと全員で対策をして臨んでいます!」とのこと。
笹岡さんは「平日は温泉が楽しみ。そして週末は孫に会うのが楽しみなんだよ」と嬉しそうに話してくれました!
ラボ
大黒さんは、立山カルデラで実際に危険な目に遭ったことはありますか?
大黒さん
私自身、今のところはないですね。ただ、先輩からは突然水が出てくるとか、土石流が発生したことが過去にあったことは聞いています。土石流対策として警報装置、ワイヤーセンサーを設置したり、昇降路を設けてすぐ避難できるよう、安全対策は一番気をつけていること。高い箇所での作業場も手すりをつけて、乗り出しても落下することがないようにしています。
7.新湯第2号砂防堰堤工事
施工=新栄建設株式会社
“新湯”の名の通り、温泉が湧く湯川の最上流で行われている堰堤工事。現段階での工事進捗はまだ4割ほどで完成時期はまだ未定とのこと。通常は8名体制で工事を進め、型枠を組みコンクリートを打設することで堰堤を構築している。堰堤工事は、河川の急流勾配を緩やかに降雨等による流出土砂を防ぐため、「落差」を作ることがポイントになります。
※落差で河川急流勾配がなだらかになる!
監理技術者の中林善太さんは、「川より低い場所での作業は、非常に危険を伴うため、随時水位を確認しながら行なっています」と注意点を話してくれました。
8.滝谷第2号砂防堰堤工事
施工=松本建設株式会社
さて、立山カルデラルポの最後の現場です!水谷地区で最も標高が高く(6月でも雪が残っているほど!)、最も険しい工事と言われているのがこちらの滝谷第2号砂防堰堤工事。ここで土砂崩れがあったら水谷地区全体に被害が及ぶため、詰所では、「土石流監視員」が常にモニターをチェックし、山と天気の状態を見守っています。現場には何かあった場合にすぐに高台へ逃げられるよう、非常階段も設置されています。
標高の高い上流には堰堤がなく、土砂を遮るものがありません。細心の注意を払いながらの工事になります
昨年までは別の会社が担当していましたが、今年から松本建設が引き継ぐ形で工事を行なっています。現場代理人の高橋健人さんは、今年で入社10年目。「昨年から現場代理人として山に上がっていますが、発注者への対応などがまだ不慣れで、現場以外の業務に四苦八苦しています(苦笑)。現場の真ん中に川が流れていて、土石流が流れてくるとまともにくらう可能性があります。本当に危険と隣り合わせなので、毎日気を引き締めて工事を行なっています」。
ラボ
突然ですが…高橋さんはご結婚されていますか??
高橋さん
結婚5年目で、子供が2人います。週末は必ず家に帰りますね!
ラボ
パパは平日家にいないの?ってお子さんに言われたりしていないですか?
高橋さん
まだ小さいので、直接は言われたことないですけど、もしかしたら言っているかもしれませんね(笑)。ただ、富山の平野部の安全を守っている意識があるのと、構造物(堰堤)が出来れば、その分安全性が増すので、この現場で懸命に仕事をしています。実を言うと、自分はどうしても建設業でなければいけないってことではなく、仕事が出来れば職種は何でも良かったんです。でも今は、地図に残る仕事にやりがいを感じているので、学生さんにもぜひ建設業を目指してもらえればと思います。
高橋さんと共に現場で汗を流す水尾太紀さんは、今年で入社3年目。「山に配属されたのは今年が初めて。合宿生活なので、日常とは全く違う世界です。最初は不安もありましたが、空気も美味しいし、貴重な経験ができてありがたいですね」と話してくれました。
ラボ
水尾さんが建設業界に入ったキッカケを教えてください!
水尾さん
高岡工芸高校建築科を卒業しているのですが、進路の先生に松本建設を勧められて決めました。正直、どんな仕事をするかわからずに入社しました(笑)。
ラボ
建築科卒で土木の仕事に就かれたんですね??
水尾さん
建築科の先輩で当社に就職した人も多いと聞いていましたし、仕事は土木でも良いなと思っていたので。ホームページを見て当社の雰囲気が良さそうだったのが決め手になりましたね。
ラボ
建設業を志している高校の後輩や今の学生さんに一言お願いします!
水尾さん
僕自身、特に下調べせずにこの業界に入ったので、あえて言うと、給料や休日、仕事内容はちゃんと調べたほうがいいです!!
ネットやパンフレット、現場見学会など色々なものに触れるだけで、仕事の内容がわかると思います。僕自身、仕事は現場で作業する技能者だろうと思って入社したら、現場監督や指示をする側の技術者でした(笑)。結果的には良かったんですけどね!
さて、1泊2日で計8箇所を回った今回の立山カルデラ砂防工事ツアー。私たちの日常が守られているのも、この水谷協力推進会の皆さんが日々一生懸命、「命をかけて戦ってくれているからこそ」。これを実感しました。※もちろん、万全の安全対策はあってのことです。
何よりも印象的だったのでは、現場の壮大さ、そして会社は違えど、立山カルデラに立ち向かう同士として、会社の垣根を超えて協力し合っていること。技術的なことはお互い情報を共有することもあるそうです。危険を伴う山工事ならではの「山の男のコミュニティ」を見せていただきました!
おまけ
2日目は、国の重要文化財「白岩堰堤砂防施設」を案内していただき、下山しました!
今年度の立山カルデラの工事も残りわずか。取材時より工事が進んでいる来年は、今年とまた違った景色を見れそうです。改めて、富山平野を守る男たちに感謝とエールを贈りたいと思います!
取材協力
〜Special Thanks〜
高田組 松嶋建設 辻󠄀建設 丸新志鷹建設 新栄建設 干場建設 岡部