つくり手と巡る!富山のケンチクの楽しみ方 Vol.1 −高岡御車山会館(前編)–
みなさんこんにちは!毎日「富山のことをもっと知りたい!」と富山愛が止まらない“富山オタク”ことちゃんです。
建築めぐりを趣味とする私が、設計者さんのご案内のもと“富山のケンチクの楽しみ方”をお伝えしていきます!今回ご紹介するのは、高岡市の「高岡御車山会館」です。
歴史都市高岡の過去と今を繋ぐシンボル、御車山(みくるまやま)。高岡の町を開いた前田利長が1609(慶長14)年に高岡城を築くにあたり、御車山を町民に与えたことがはじまりとされています。金工・漆工・染織などの優美な工芸技術の装飾がほどこされており、高岡の職人たちの高い工芸技術に護られながら現在へと伝承されています。
国の重要有形民俗文化財・無形民俗文化財の両方に指定されている「高岡御車山」を通年見ることが出来る展示施設が2015年に「高岡御車山会館」としてオープンしました。
早速、設計を手掛けた創 建築事務所の德田義弘さんにケンチクの目線から見る“楽しみ方”をご案内いただきます!
ことちゃん
おはようございます!良いお天気で散歩日和ですね。山町筋観光駐車場に車を停めて、町並みを楽しみながら歩いて来たのですが、高岡御車山会館を一度通り過ぎてしまいましたよ。
德田さん
ははは、そうでしょ。高岡御車山会館は山町筋の町並みに馴染むように、伝統的な建築「土蔵造りの家」を忠実に再現していますから。モデルにしているのは、山町筋の町の中で一番大きくて立派な「菅野家」という住宅です。重要文化財に指定されています。
ことちゃん
確かに似ている!素晴らしい再現力ですね。高岡御車山会館の伝統的な建築のポイントを教えていただけますか?
德田さん
外観だけでも盛りだくさんですよ。覚悟してください(笑)。まずはレンガの防火壁です。
外観ポイント①「レンガの防火壁」
ことちゃん
黒っぽくて綺麗なレンガが組み合わさっていますね。ところで防火壁って何ですか?
德田さん
1900年に起きた大火でこの辺り一体の町は一度焼けてしまっているのです。大火以降、炎が燃え広がらないようにレンガを組んだ防火壁を家と家の間に作るようになりました。この美しいレンガは、大きな窯の中でかなりの高温で焼き上げています。ひとつの大きな窯の中には温度差も出てくるので、焼きむらが表れています。
ことちゃん
ほんとだ!きれいな色の配置で組まれていて、職人技を感じますね。
外観ポイント②「アルミ鋳物」
德田さん
高岡の伝統産業の技術もふんだんに使われていますよ。例えば、屋根に備わっている“けた”は何で作られていると思いますか?
ことちゃん
木・・・?ですか?
德田さん
これはアルミ鋳物の技術で作られています。木で作るよりも、型をひとつ作ってしまえば同じものをたくさん作り出せます。生産スピードも早いですよね。
ことちゃん
おお~!アルミ鋳物の表現の幅の広さを感じます。
德田さん
雨どいの金具も、既製品ではなく、高岡の職人さんにスケッチを元に作ってもらいました。形は菅野家のものを真似ています。
ことちゃん
菅野家リスペクトですね。屋根の上の飾りも菅野家のものと同じですね。これは何ですか?
德田さん
雪割りといいます。屋根に雪が積もりすぎないようにする装飾です。
ことちゃん
雪が降る地域ならではの工夫も、美しい職人技で表現されているのですね。
外観ポイント③「実はひとつじゃない建物」
德田さん
ところでことちゃん、正面から見て御車山会館はいくつの建物に見えますか?
ことちゃん
・・・2つですか?高さが違う建物が並んでいるように見えます。
德田さん
そう、2つですよね。この御車山会館は正面側から見て2つの建物、裏側に1つの建物の、合計3つの建物の敷地を使って建てられているんですよ。裏へ回って確かめに行きましょう。
ことちゃん
正面から見ているだけでは、広い敷地があるとは想像がつきにくいですね。まさか最初に中に入らず裏に回り込むとは思ってもみなかったです!
外観ポイント④「由緒ある佐渡家住宅」
德田さん
裏側の建物は、もともと「佐渡家」という由緒あるお医者さんのお家がありました。高岡御車山会館の建設場所を考えていた時に、敷地を使ってくださいとお声かけ頂いたことで今の御車山会館が実現しました。感謝の気持ちを込めて、佐渡家住宅を再現しました。
現在は御車山を組み立てる時の作業場所や休憩スペースとして活用されています。
ことちゃん
裏側まで回り込むことはなかなかないとは思いますが、みなさんにも是非見て欲しいですね。木目の立派な看板は、もしかして井波彫刻ですか?
德田さん
そうです!木彫刻の名人 南部白雲さんにお願いしました。表の高岡御車山会館と書かれた大きな看板も南部白雲さんの作品ですよ。
外観ポイント⑤「町に開かれた会館」
ことちゃん
佐渡家住宅とは雰囲気がガラッと変わって、ガラス張りの大きな建物がありますが、こちらは何ですか?
ここは御車山を組み立てるスペースです。裏側なので普通は鉄板で覆いたいところですが、町に開かれた場所でありたいと考えてガラス扉にしました。奥行きが出るでしょ。扉は一枚あたり約1トンの重さがあるので、建具の設計が難しかったですね。
また、外壁はアルミ鋳物で作られています。波打つようなやさしいデザインなので、見る角度や明るさで表情が変わるのも楽しんでもらいたいですね。
ことちゃん
表側と打って変わって、建物の高さがありますね。
德田さん
そうです!表側は重要伝統的建造物群保存地区に指定されている山町筋の町並みなので、建物の高さに制限があります。
一方、裏側の敷地は別の町なので高さの制限は厳しくありません。御車山の高さは10メートル近くあるので、表側では建物への出し入れが難しいのですが、裏側からは出入りが容易になっています。
ことちゃん
表側と裏側で町が違うから実現できた構造なのですね!面白い!高岡御車山会館の裏側もこだわりが満載ですね。
外観ポイント⑥「そんなところに?!太陽光パネル」
德田さん
ちなみに屋上のほうにチラリと見えるルーバーは、太陽光発電パネルなんですよ。現代的要素もしっかりと取り入れています。
ことちゃん
なんと!!太陽光パネルに見えなかったです。かっこいい!知らないと完全に気づかないまま通り過ぎてしまいますね。
德田さん
しっかり見てみると面白いでしょ!でもまだ外観だけしか見ていませんからね。ふふふ。さあ、会館の中へ行きましょう。まだまだ見どころはたくさんありますよ。
町の景観との溶け込みを意識しながらも、新しい技術を取り入れていく。伝統への敬意と次の時代へ継承するための挑戦心を感じました。
次回は、高岡御車山会館の内観をご紹介します。後半へつづく・・・!