施主 永山敬健✖️建築家 富田愛子✖️現場代理人 塩嶋博「狭小地の新たな手法」
外観は地域社会の発展に貢献した優秀な建築作品を表彰し、富山県内の建築賞で最も歴史がある『富山県建築文化賞』。
52回を迎えた栄えある賞を見事受賞された方々に、インタビューを敢行!
今回は住宅部門優秀賞「街なかのライトコートハウス」の施主の永山敬健さん、設計を担当された富田愛子さん(富田愛子建築設計事務所)、施工を担当された塩嶋博さん(五十嵐建設)にお話を伺ってきました!
第52回富山県建築文化賞 住宅部門 | |
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優秀賞 | 「街なかのライトコートハウス」 |
所在地 | 富山県富山市下新町 |
敷地面積 | 160.58㎡ |
延べ面積 | 172.72㎡ |
構造 | 木造 |
竣工 | 2018年10月 |
建築主 | 永山敬健 |
設計 | 富田愛子建築設計事務所 |
施工 | 五十嵐建設 |
ラボ
この度は、富山県建築文化賞の受賞おめでとうございます。まずは率直なお気持ちから教えてください!
富田さん
事務所を構えて8年目ですが、この賞は建築家としての登竜門のような印象があって、先輩方はもちろんの事、同世代の建築家も受賞されていて、避けては通れないといいますか、いつか私も頂ければいいなぁと思っていました。
私の手掛ける『無垢の木組みの大らかな空間で、自然素材を使った居心地の良い住まい』というのは、洗練されたデザインだとか独創的なアイデアといった表現とは少し離れています。一昨年はありがたい事に、とやま県産材コンクールの住宅部門で賞を頂くことができましたが、この建築文化賞はもっと恒久的な建築の本質や価値を問われる審査だと思っているので、なかなか挑戦できる機会はありませんでした。
その中で、今回の「街なかのライトコートハウス」は、住まい手の永山さんから、木造のダイナミックな空間をそのままに「面白いものをつくりたい」と強い要望があり、それを受けてお互いの相乗効果でよいものが創れたと思っていて、それを皆様に認めていただけた事が一番嬉しいです。
ラボ
富田さんのお知り合いの方も受賞されているのですね!
富田さん
そうですね。やっぱり「この賞をとらないと前に進めない」みたいな感覚はありました。師匠である水野ご夫妻(上市町:水野建築研究所)や、応援して下さる先輩方に恩返しではないですが、少しは顔向けできるようになったかなと(笑)。
ラボ
ありがとうございます。それでは、施工者の塩嶋さん、よろしくお願いします!
塩嶋さん
ありきたりかもしれませんが、受賞した建築に携われたことが凄く嬉しいですし、富田さんの一ファンとして嬉しいです(笑)。
ラボ
設計者と施工者の関係だけでなく、ファンなんですね(笑)。
塩嶋さん
私だけでなく、当社のみんなが富田さんのファンです!当社はゼネコンさんの下請けで仕事をすることが多く、様々な設計事務所さんや建築家さんと仕事をする機会があります。
これまで携わらせて頂いた建物自身はどれも素晴らしいものですが、建築は設計士さんの感性や人間味が建物にプラスαされるものだと思っています。富田さんの手掛ける建築が素晴らしいのはもちろんのこと、人としても凄く素敵で魅力的な方なので、ファンなんです(笑)。
富田さん
塩嶋さんと仕事をさせてもらうようになって長いお付き合いになります。私の独立当初から塩嶋さんに現場を担当していただき、これまで7件ほど一緒に仕事をさせていただいています。
ラボ
ナイスコンビなんですね!施主の永山さんについては、ご自宅が受賞されました。ご感想をお願いします。
永山さん
この家に住み始めて3年ほど経過しているので、受賞の一報を聞いた時はあまり実感が湧かず、「そうなんだぁ〜」くらいにしか思っていませんでした。この家を建てるまでに私のワガママを沢山ぶつけてきましたが、その度に富田さんは新しい形で返してくれました。スキップフロアはこうしたやり取りの中、閃きで生まれたもの。自分の要望を反映して頂いた素晴らしい家です。
ラボ
今年は住宅部門で唯一の受賞ですね!
富田さん
そうなりましたね、もう思い残すことはないです(笑)。
塩嶋さん
富田さん、先ほど登竜門とおっしゃっていましたよね(笑)。
ラボ
「街なかのライトコートハウス」の設計から施工までの経緯を教えてください!
永山さん
当初は住宅メーカー4社ほどに相談し、提案(図面)を受けました。私的には「普通すぎる」「面白味がない」と感じて、友人の奥様である富田さんに相談することになりました。胸が踊り、ワクワクするような家を求めていました。
富田さん
永山さんの経緯は会う前にお聞きしていて、実際にお会いした開始早々に、永山さんから溢れんばかりの想いと特殊?な要望をたくさん頂きまして……。皆さん聞いてくれますか?!(笑)。
一同
(笑)
ラボ
特殊な要望…ですか??
富田さん
例えば、2台のインナーガレージで、しかも家の中から愛車を眺めたい。プロジェクターで映画鑑賞がしたい。玄関は吹き抜けで鉄骨階段がいい。メインの空間も広い吹き抜けで…などなど。一番ビックリしたのが「Vランドキッチン」のご指定です。私自身、Vランドキッチンを知りませんでしたから…。
永山さん
子供が2人いるので、人がキッチンに集まるような家にしたかったんです。
富田さん
Vランドキッチンは、広い面積が取れるのであればどれだけでも可能です。しかし、この家は敷地が48坪。かなりの狭さです。インナーガレージ2台の要望も受けていますから、限られている面積でものすごく工夫しないといけなくて。
私は、ご要望は全て叶えて差し上げたい!というスタンスなんですが、「Vランドキッチンだけは無理かもしれません」と当初は他の形で提案をしていました。一般的な快適性や利便性の要望も当然ベースにありましたので、永山さんはただ単に「面白ければいい」という奇抜な人ではなく、ちゃんとした人なんです(笑)。
永山さん
ん〜、トッピング全部乗せですね。ただのワガママです(笑)。
富田さん
いえ(笑)。「独創的な空間」を求めすぎると、住宅の本質が満たされていなくても成り立ってしまう事があります。永山さんはそうではなく、その形にする意味やそれを採用する効果など一つひとつ厳しく見定められたので、どの部分も何度も考えて提案しました。毎回が真剣勝負という感じです。
難しい建物ではありましたが、永山さんには明確な芯がありましたから、一緒につくりながら逆に私の方が力を引き出して頂いた側面もあります。面白い提案には面白がってもらえたり、一緒に悩んだり、盛り上がって進めていくこともありました。
ラボ
打ち合わせはどのくらいの期間でしたか?
永山さん
少し空いた時もありましたが、約1年ですね。結婚式と同時並行だったので、家のことばかり考え過ぎと奥様に怒られました(笑)。
富田さん
工期は約9ヵ月…長いです。スキップフロアなど構造的に難易度が高く大変でした。
永山さん
(塩嶋さんを見ながら)工事は大変でしたか??
塩嶋さん
はい。そりゃもう(笑)。
あまりの大量のボルトの数に、「このボルトの数って間違いですよね?」と富田さんに質問したことがあります(笑)。初めて使う建材も結構ありました。
富田さん
ボルトは大変な数でしたね。敷地の間口がわずか10mなので、車2台とアプローチをとると耐力壁をとれる部分がわずかしか残らないんです。高耐力の二重壁を6ヵ所も設けていますが、さらに中庭がコの字に抜けていて、そこにスキップフロアが構成されている。施工的に相当複雑です。何気な~く建って見えますが、見えない部分に現場の苦労がいっぱい詰まっています。
ラボ
塩嶋さん、施工面で苦労されたところを教えてください。
塩嶋さん
この住宅に関しては、ワンフロアごとにコンセプトも仕上げも収まりも、全てが違います。富田さんは図面を細かくわかりやすく書いていただける方なんですけど、ワンフロアごとに全然違うので、図面をしっかりと確認したり、富田さんの想いを汲み取ることにかなり時間を費やしました。
フロアごとに仕上げが違えば、施工する職人さんも違ってきます。敷地は三方建物に囲まれていて、入り口が道路側の一つしかない。工程の組み立てや施工管理は、いつも以上に頭を悩ませました。
富田さん
フロアごとに空間の雰囲気を変えたのは、スキップフロアの構成を際立たせたかったからです。ステージが変わる度に印象が変われば、心に変化が起きて、永山さんは楽しんでくれそうだなと。
外観については、私はデザインから入る方ではなく、プランから出てきた形で素直にデザインするようにしていますが、今回はボリュームが前に出ていて圧迫感があるかなと感じたので、目の前にある神社の歴史的な空気と一体となるように、外壁は鹿児島のシラス台地から作られた「そとん壁」で荒々しい土っぽさを出しました。他に鉄・木・石といった素材感を出して、原始的にシンプルにつくることで、街との調和にも配慮しています。
永山さん
富田さんから良いものをつくりたい!との想いがすごく伝わってくるので、何でも富田さんにお任せして…私もファンの一人ですね(笑)。
塩嶋さん
どこかで聞いたことあるセリフ(笑)。
ラボ
名称にもある「ライトコート」(中庭)をつくった理由を教えてください。
富田さん
私は、どの敷地にも良い環境が必ずあり、それを最大限に活かしたいと考えています。上手に活かす事ができれば、毎日の暮らしに恵みを与えてくれ、住まい手の幸せにつながる。その考えが今回のライトコートの提案につながりました。
通常LDKは、採光の為には南側に配置するのが良いとされますが、この敷地の南側は隣地が接近しており、セオリー通りにプランしても気持ちの良い空間は得られません。採光や風通しもただ単に中庭をとるのでは上手くいかない。
逆に北側には建物が建っておらず、視界が広く抜けてとても解放的でした。合わせて神社の緑や近隣の庭の景色が心地よく、メインのLDKは北側が良いと判断しました。それを実現させる為に、ライトコートの存在が必要だったんです。ライトコートからは光が燦燦と入り、風も抜けてとても気持ち良い自然環境が得られています。北側を南面化させてくれるツールとしての「ライトコート」は、新しい発見でした。
永山さん
中庭は気持ちいいですね。今は人工芝を敷いて子供が裸足で遊んでいます。子供はリビングか、ライトコートか、階段を登ったところで遊ぶか。遊ぶ場所がいくつもありますね。
富田さん
要望のあった2台のインナーガレージは、1台をオープンガレージに。2台ともインナーガレージだとシャッターが外観になってしまうので、「街」と遮断され閉ざされた空気感になると思いました。これからお子さんも成長され、地域との関係性を考えた時、自分達からオープンになることで交流も生まれたりするのかなと。
永山さん
1台をオープンにして大正解。夏場は子供達がプールで遊んでいます。インナーガレージだと無理でしたね。
ラボ
写真を拝見していると、とても機能的で敷地が狭いように感じません…!
塩嶋さん
住宅は和や洋、コンセプト次第で建物が一色になってしまうことが多いですが、この家はスキップフロアや中庭にいる感覚、道路やガレージから見た感覚。全て違った風景と感性を受けます。美術館まで言うと言い過ぎかもしれませんが、見る方向や高さが変わると違ったものが見えてくる、そんな住宅ですね。
富田さん
私も塩嶋さんと同じ感覚でこの住宅を見ています。コレ!といった主役が目立つのではなくて、全ての場所に見所があり「つながりと遊び」がある。むしろそのように作り込んだ部分があって、それが「住んでいて楽しい!」につながるのではないかと。
塩嶋さん
工事中に富田さんが、「私はこう考えているけど…。永山さんはどうだろう?どう思うだろう?」とよく言っていました。そこから永山さんも入って現場で打ち合わせが始まり、色を一色決めるだけなのにものすごーく時間がかかるんです(笑)。それほどまでにこだわりをお持ちの施主さんと建築家さんですね。
富田さん
設計士も様々なスタイルがあると思いますが、私色に染めたいなんて気持ちは一切ありません。お施主さんの好きなものを最大限に引き出したい。
皆さん自分の考えを全部が全部、言葉に出して伝えられないですよね。「そうそう、実はこういうのが良かったんだ」と一緒に探って、たくさん発見してもらえれば嬉しいです。
永山さん
住み始めて一番思うことは子供が楽しそうで、子育てがしやすい家だなと。もうすぐ3人目が生まれますが、子供と一緒に成長していける、そんな家ですね。さらに大人が楽しめる要素として、ウッドデッキからプロジェクターで映画を見ることができます。将来、子供と一緒に映画や音楽を楽しみ、お酒が飲めたら最高ですね。
富田さん
お子さんの遊ぶスペースは常にオープンで、キッチンからその様子が自然に見えると奥様から伺っています。Vランドキッチンの実現がとても良い効果を生みました。強い想いが実現の流れを奇跡的に繋げ、この住宅への情熱が全てを導いていったと思っています。
ラボ
富田さんと塩嶋さんがタッグを組み、様々な建築を手掛けてこられたと思います。施工者としての塩嶋さんの印象を教えてください。
富田さん
一番助かっているのは、設計者の意図を汲もうと凄く努力してくれるところです。これは手間と時間がかかるので中々出来ることではないです。自分の立場の意見だけではなく、施主、現場、設計の三者の立場を尊重して発言してくれるので信頼できます。あとは施主さんと打ち解けるスピードが半端じゃないです(笑)。
永山さん
自宅に打ち合わせに来られた時も、ピンポン鳴らさずに「こんにちはー!」とご挨拶いただき、奥さんがビックリしていました(笑)。
塩嶋さん
すいません、それは鳴らさないとダメですね(笑)。建築家さんは自分の意見が全てとする方、施主さんの意見を尊重する方、職人寄りの考えをお持ちの方など、その建築家さんによって考え方が違うと思います。
どの考え方が良いかはわかりませんが、富田さんは明らかに自分の意見を持ちながらも、施主さんの事も考え、職人さんの仕事のしやすさ、計算には現れてこない理にかなった施工方法なども取り入れられる柔軟さを持っています。
私(現場代理人)の仕事は、全ての意見をまとめる中間の立場にいること。富田さんには、現場にとってベストだと思える意見を正直に話すことが出来ます。逆に「ここは絶対にこうしなきゃいけない」と私が理解できるまでしっかりと説明していただけるので、私自身が納得して職人さんに話を出来ます。
ラボ
最後に受賞のポイントを教えてください!
富田さん
審査の中で、「狭い敷地の解決策として、一つの手法になり得るね」と言っていただいたことが印象に残っていますね。
このプランの導き方には一番頭を悩ませました。心から納得し、満足してもらうにはどうしたら良いか。こちらから一方的に提案しても伝わらないと思い、全ての構成パターンを提示して、その全ての図面を描いてお見せしたんですね。
そして、同じ目線で一つひとつ整理しながら、一番理想の形を探る作業をしました。永山さんと想いを共有しながら進めたその過程が大事だったと思います。
もう一つは、北側LDKをライトコートと組み合わせる事により、狙い通りの良い効果を得られたことです。これは敷地環境の読み取りから導き出すことが出来ました。
突飛な面白さや奇抜さは、年を経ると体に馴染まなくなる事も多いです。長い暮らしの中で本当に幸せと感じるのは、良い空間の中で空の青さや差し込む陽といった自然の恵の美しさを感じる時ではないでしょうか。形態としてのアイデアの妙ではなく、この場所にとって一番の良い回答は何なのか。しっかりと基本を実現させたうえで、楽しく住まう形を乗せていきました。
オープンガレージのアクティビティ、ライトコートを中心として家族がつながる空間、スキップフロアで交差する家族の交流のかたち…、どれも永山さんご家族ならではの、生き生きとした日常の風景が想像できます!
永山さん
…本当に受賞できて良かったです(笑)。そのおかげで、「こうしておけば良かった」みたいなことは一つもないですね。
富田さん
手探りの苦労はありましたが、正解がなかったので楽しかったですよ。
ラボ
完成までのお話をたくさんお話しいただきました。最後に永山さん、富田さんと塩嶋さんに一言あればお願いします!
永山さん
ありがとうございました。本当にご苦労をかけたなと思います(笑)。二人のために受賞できてホッとしました。
さ、次は何を建てますか??!
「街なかのライトコートハウス」施工業者の皆さま | |
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