地域社会の発展に貢献した優秀な建築作品を表彰し、富山県内の建築賞で最も歴史のある『富山県建築文化賞』。
52回を迎えた栄えある賞を見事受賞された方々に、インタビューを敢行!
今回は、「一般部門」で見事優秀賞を獲得した「海王丸パーク駐車場トイレ」を設計された青山建築計画事務所の青山善嗣さんにお話を伺ってきました!
一般の部 優秀賞「海王丸パーク駐車場トイレ」
第52回富山県建築文化賞 一般部門 |
優秀賞 |
「海王丸パーク駐車場トイレ」 |
所在地 |
富山県射水市海王丸15 |
敷地面積 |
367.36㎡ |
延べ面積 |
157.60㎡ |
構造 |
鉄骨造・一部鉄筋コンクリート造 |
竣工 |
2017年12月 |
建築主 |
富山県 |
設計 |
青山建築計画事務所 |
施工 |
牧田組 |
ラボ
優秀賞の受賞おめでとうございます!今回の設計を担当された経緯をお聞かせください。
青山さん
今回のトイレはプロポーザルで設計者を決めるということで、内容が興味深く応募しました。幸いにも私の案が選定され詳細設計を経て、2017年に工事が完成した経緯があります。
プロポーザル(提案型コンペ)には参加したくても「参加資格要件」を満たすことが出来ず忸怩たる思いをすることが多いのですが、今回の海王丸パーク駐車場トイレのプロポは(幸い)その参加資格要件が緩くて応募することが出来ました。
審査委員長が金沢工業大学の森俊偉先生(当時)だったこともあり、建築家としても実績のある森先生が審査委員長であれば、誰よりも魅力的な提案をすれば選んでいただけると思い参加しました。そう思ったのは私だけではなかったようで、県内の主だった設計事務所12社が参加し、アイデアを競い合いました。そんな中で私の案が選ばれた事は率直に嬉しかったです。
2年連続8度目の受賞。富山の建築設計界を牽引されてきた青山さん
ラボ
「海王丸パーク駐車場トイレ」は、2017年竣工で4年が経過しています。昨年、建築文化賞に応募されたのには何か理由があったのですか?
青山さん
実は、この建築を建築文化賞に出すつもりはありませんでした。公園の中のオアシスのようなトイレという計画を立て、樹木に囲まれたトイレを目指していたのですが、それが実現しなかったことで周辺環境まで含めた建築としての完成度が低いと思い、応募しませんでした。
しかし、建築専門学校の講師をされている友人で作家の加藤則子さんが、生徒に“印象的な県内の建築物を選んでレポートする”との課題を出したところ、一人の生徒が好きな建築として「海王丸パークトイレ」を題材にレポートを出したそうなんです。
それを加藤さんからお聞きし、嬉しくなって「じゃあ建築文化賞に出してみようかな」と。キッカケはそれです。あとは、プロポーザルに参加した12社の作品はどれも力作ばかりで、その人たちの想いも背負って応募することにしました。
ラボ
今回、優秀賞の受賞にあたって、審査委員長の蜂谷俊雄さん(金沢工業大教授)の講評に、「建築デザインの要件が揃っている」との言葉がありました。設計された際のコンセプトやこだわりをお聞かせください。
青山さん
こんな小さなトイレ建築をそんな風に言っていただいたことに、驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。
まず最初は、「どんな敷地なのか?」と見に行ってきました。その時に感じたのは「海王丸や新湊大橋は存在感が圧倒的」だけど「公園」としてどうなのか?と。観察してみると楽しさや、それぞれの場の魅力を作り出すデザインに統一感が感じられませんでした。主役を生かす公園全体の場としての魅力がなく「もったいないな」と思ったんです。
今回ここに付け加わる公衆トイレは、この公園の中においてとても小さな存在ですが、少しでもこの公園の魅力が増すようにしたいなとアイデアを練り始めました。
そこで2つのアイデアを思いつきます。1つ目は現在は開発されていないトイレの後方も今後開発される可能性があると聞き、正面と後方の2方向から入れるトイレというアイデア。2方向から入ることができるトイレはプランの制約もあって実例が少ないのですが、(応募された他の案に2方向出入りのアイデアのトイレはなかった)両面から出入りできるトイレは、公園のどこからでも使用可能な全方位トイレとなり、提案の核となるような大きな特徴となっています。
2つ目はトイレというより、「休憩できる憩いのスペース」にしたいと思ったこと。この公園には日差しを遮る休憩場所が見当たらなかったのです。夏は日差しが燦々と照りつける場所なので砂漠のオアシスのようにちょっと休憩できる場所があればいいな、と。
また、提案に加えた回廊は、夏に日影のある空間を提供し、雨のときは雨宿りできる場となってトイレに用のない来場者にとっても少し休める場所を提供したいと思ったのです。結果、自転車を停めて話し込んでいる人たちをよく見かけるのでヨシヨシと思って見ています(笑)。
ラボ
公園のトイレは、どこか暗くて怖いイメージがあります…。
青山さん
既存のトイレも暗く臭いがこもる建物でした。新しいトイレは「汚い・暗い・臭い」の3Kから脱したトイレを作りたいなと。
海王丸の白い帆船をイメージして、壁や柱には白色を多く採用し、天井の木はデッキをイメージ。男子トイレの便器周りに張ったガラスタイルは、水面のブルーをイメージするなど海王丸パークの“場所性”を感じてもらえるようにデザインを進めました。
汚くならないように、清潔感と開放感が感じられる工夫を施し、暗くならないように、真ん中に中庭(光庭)や外周部に開口部を設けました。臭くならないように、外周の上部にスリットを設け中庭下面にもスリットを設け、周囲全体から臭いが抜けるように工夫しています。
もちろんプライバシーにも気を遣い、開放感と安心感の両方を満足するような「見えそうで見えない」寸法にも配慮しています。
採光と通風が清潔感と快適性を向上させる
船の甲板デッキの板張りをモチーフとした屋根
ラボ
外見も非常にスッキリとしていて、洗練された印象があります!
青山さん
大きなテント(帆船)の下にあるようなトイレにしたかったのでフレーム(骨組み)は鉄骨造としました。一般的な鉄骨造の梁や柱の接合は、施工が容易という理由でボルトを使って行うのですが、接合部が多いと相当数のボルトが目立ってスッキリとした印象の建築にはなりません。
今回はフレームを海王丸のマストのようにスレンダーで美しい形にしたいという想いがあったので、この接合部を溶接することにしました。そうすることでフレームの形がより軽快でスッキリと見えると思います。
溶接結合は難しく、施工段階では関係者が施工品質を高めるため注意深く計画を練り、手間と時間をかけてこの難題を乗り切りました。鉄工所の皆さん、ありがとうございました。
内観では天井の木格子が大きな特徴ですが、外観ではこの鉄骨フレームのスレンダーな構成が特徴となっています。海王丸へのシンパシーをトイレでも感じて欲しいという大胆な?発想でした。
わざわざイラストに!ありがとうございます
こだわりが詰まったフレーム。え?これトイレ?と疑うくらいスタイリッシュ
青山さん
海のそばなので、風が強く塩害や降雨対策が欠かせません。木部は風雨が厳しいので一般地より早く黒くなりやすく、防腐防火塗料の被覆を施すことで美観維持に対処しています。
鉄部はサビ対策として溶融亜鉛メッキの上に塗装しています。コンクリートは水セメント比を小さくすることで、中性化を遅らせ塩害に対処しました(コンクリートの中性化は鉄筋の錆びにくさを示す一つの指標です)。
また、中庭に面した手洗いコーナーには大きな鏡を張り、光を反射して明るくしたり室内が広く感じられるようにしました。実は鏡には防犯の意味合いもあります。鏡によって明るく開放感が演出されているだけでなく、他の人の動作を感じる効果が大きな鏡にはあります。
トイレの3K(汚い、暗い、臭い)を無くするだけではなく、「安全」にも配慮した設計というわけです。
それから、夜になると室内の灯りが建物周囲のガラス面から洩れて周囲を照らすようにしました。この公園は夜になると暗くなってしまうのですが、トイレができたことで夜間の安全対策にもなっているのです。
トイレだけのために海王丸パークに寄ってしまいそう
ラボ
これだけ完成度の高いトイレを作るのに苦労した点はどこでしょうか?
青山さん
それがないんだよね(笑)。完成度が高いかどうか?はわからないけど苦労したという感じはないなぁ。自分の仕事は、設計という仕事を通して現実の様々な環境の中で、お客様の要望との“ベストミックスは何か”を探るというスタイル。
ベストミックスとなるような良いアイデアを実現する仕事を続けていないと先々の仕事は受注できないし、コンペにも勝てません。そういう風にアイデアを考えることを苦労と思ったことはなくて、自分の中で“これだったらイケる”と思うところまでアイデアを詰める作業はとても楽しいです。コレって変?
ラボ
今回で青山さんご自身、8度目の受賞となります。改めて感想をお聞かせください。
青山さん
このたびも賞をいただくことができて大変喜んでいます。建主さんも喜んでいただきましたし、工事関係者の皆さんもとても喜んでいます。
計画をスタートしてから工事が完成するまでに、様々な方々と協力して完成した建物は、難題を解決した数が多ければ多いほど愛着が湧くものになります。ある意味苦労を共にした関係者にとって、他の人から評価されてお祝いを受けることは本当にありがたく「やってよかった!」という思いですね。
ただ、私自身は賞をとったり雑誌に掲載されるようなことを狙って仕事をしているわけではありません。あくまでも設計担当の職人のようなスタンスで、専門家として発注者の方のお手伝いをしているだけ。
ですから、自分を作家だと思って作ったものを「作品」と呼ぶことには抵抗があります。たくさんの専門家が協力しあって一つの仕事を完成し、それが賞として評価されるということは、関係者全員を評価していただいているという意味でとても嬉しいです。今後のモチベーションにもつながりますね。
ラボ
青山さんありがとうございました!改めて受賞、おめでとうございました。