THE SABO2022 〜富山平野を守る男たち(前編)〜
昨年に続き、今年も立山カルデラで富山平野を守る「水谷協力推進会」の男たちに密着取材を敢行!
「立山カルデラ」ってなに?(おさらい!)
立山カルデラは、立山黒部アルペンルート(弥陀ヶ原台地)の南側に位置し、立山火山の崩壊と侵食作用によってできた大きな“くぼ地”。1858年(安政5)に越中、飛騨周辺を襲った「安政の飛越地震」によって大鳶山と小鳶山が崩壊し、大量の土砂が富山平野を襲いました。
それからも、常願寺川下流域でたびたび起こる水害対策として、富山県が立山カルデラでの「砂防工事」を開始しました。砂防法改正により1924年(大正13)に国の直轄事業として行われるようになり、現在に至ります。
富山平野を土砂から守る「砂防工事」
現在もカルデラ内には堆積した土砂がなんと“数億㎥!”あり、この土砂がすべて流れ出ると富山平野が数メートル土砂で埋まると言われています(何とも恐ろしい…)。
「水害から街を守り続けて90年」。水谷協力推進会は、16の会社が力を結集し、土砂の流出を防止する砂防堰堤や、山の崩落を止めて緑化する法面工事を行うことで、多くの人々が暮らす富山平野の安全を守ってくれているのです。
【水谷協力推進会H P】
今回は7ヵ所の現場を巡り、それぞれの工事を取材させていただきました!!
1.真川上流流木対策工事
施工:砺波工業株式会社
真川の上流地区で今年からスタートした流木対策の堰堤工事です。堰堤(えんてい)工事とは、河川の水をせき止めるための構造物を造る工事。山では水や土砂だけではなく、流木との戦いもあるのです。
この流木対策の堰堤は、コンクリートを流し込んで鋼製フレームを設置することで、流れてくる木を堰き止めて、水だけを流下させる仕組み。完成まではおよそ5〜6年がかりの工事となる予定です。
工事係員の前田竜男さんは、「いつ大雨によって水が溢れるかわからない。最悪の事態を想定し、作業後は毎日機械を上に戻すなど、安全を期すことを徹底しています」と、山の現場ならではの対策を教えてくれました。
入社2年目ながら現場代理人の志鷹遼太郎さんは、「自宅を離れて山での泊まり生活に最初は戸惑いました。土砂崩れの怖さと隣り合わせで、天気と睨めっこをしながらの作業は難しいです。ただ、夏も涼しくて過ごしやすく、徐々に良い面も見えてきました。数ヶ月が経ち、図面がどんどん形になっていく様子が目に見えるので、とても嬉しくやりがいがあります」と語ってくれました。
ちなみに…この後取材班の一人はミツバチに刺され、激痛&指がパンパンに腫れるという洗礼を浴びました。この「オニヤンマ」(おもちゃ)は、アブなどの虫から身を守るための大事なアイテムだそうです!田んぼの「かかし」みたいな感じでしょうか?
2.真川上流第1号砂防堰堤工事
砺波工業株式会社
標高1,400m、真川上流の本堰堤と副堰堤の工事です。副堰堤はまさに掘削中。ここでは最先端のICT(情報通信技術)施工が実施されており、現場に目印(丁張り)を立てることなく、機械に読み込んだ図面のデータをもとに、バックホーが的確な深さまで掘削をしていきます。熟練の操縦者でなくても機械を操れる!
本堰堤は今年中に仕上がり、副堰堤は完成まであと3年ほどの予定です。堰堤は横幅24m、5mの深さを掘る壮大な作業です。
現場にいらっしゃったのは、現場代理人の島川賢治さんと、工事主任の川向鷹也さん。
川向さんは入社4年目、山歴は3年目だそう。「いきなり山の担当と言い渡された時は、正直ビックリでした。大変そうだな…との印象は、あながち外れてはいませんでしたね(笑)。大雨が降ったら、その日工事したものが流されて次の日は一日かけて復旧作業。これも日常茶飯事。ただ、その反面やりがいも大きいです。最初、山に来た時はまだ半分程度だった本堰堤も、自分で測量して、どんどん出来てくる様子を目の当たりにするとやっぱり嬉しいです」と語ってくれました。
3.真川・ホトロ谷合流点処理工事
高尾建設株式会社
今年で4年目となる真川・ホトロ谷の合流地点の処理工事。今年は、上流の護岸工事とホトロ谷と工事用道路の補強工事が行われています。堰堤で補強をして最終仕上げとなりますが、完成まではあと3年ほどの予定です。
250mの堰堤を作るため、石を積んで仮の護岸をしながら、“壊しては造る”作業を繰り返して、徐々に完成に近づけていくとのこと。この日は、残存型枠を組んで、溶接をする作業が行われていました。
「会社に入って21年。10年以上は山にいますね」と話す超ベテラン、現場代理人の野尻俊寛さん。ナイスキャラでありながら仕事に入るとスイッチが入ります。「正直、建設業の仕事はあんまりオススメ出来ません…(笑)。でも、この立山カルデラでは、他社との深いつながりができ、仲間意識があり、助け合い支え合っています。それが魅力の一つですね」と語ってくれました。
水を流すために道の下にもコルゲートを通す工事などは、トラックが通らない土日に作業を行うこともあるとか。大変な作業も皆さん、明るく取り組んでいる姿に感銘を受けました(涙)。
昨年に引き続材のナビゲートをお願いした松嶋建設株式会社の脇坂和宏さん(右)と、株式会社高田組の橋場洋平さん(左)。水谷協力推進会の現会長&元会長の強力ツータッグの仕事ぶりには本当に頭が下がりっぱなし。
この“山の神”(勝手に命名)がいるからこそ、富山平野が守られていると言っても過言ではありません!
コロナ禍ということもあって今回は日帰り取材。楽しみにしていた山の宴はお預けとなりましたが、行き帰りの山道では、たくさんの猿が私たちを出迎えてくれました。こうした出会いに「やっぱり山は楽しい!」とテンションが上がる取材班。
つづく後編もお楽しみに!