つくり手と巡る!富山のケンチクの楽しみ方 −TOYAMAキラリ(後編)–
前編に引き続き、富山市の「TOYAMAキラリ」をご紹介します!
※キラリは富山市立図書館、富山市ガラス美術館などと併設する複合ビル
前編→ https://www.kensetsu-labo.com/article/5280
いよいよキラリの建物の中へ。ケンチクの目線から見る“楽しみ方”が今回も盛りだくさんです!
内観ポイント①「土地の記憶を紡ぐ案内板」
齋田さん
入口すぐそばに設置されている木の案内板を見てください。案内板には、元々ここに建っていた百貨店「大和」の建物の基礎で使われていた木材を綺麗に加工して再活用しています。以前の街の風景を知っている人にとっても愛着が湧くような、記憶が蘇るような場所になるといいなと考えました。
ことちゃん
いろんな色合いがあるのは再活用された木材だからなのですね。木は土の中に長く埋まっていると黒くなっていくと聞いたことがあるので、この土地の歴史を感じられます。
内観ポイント②「交わりを意識した設計」
齋田さん
キラリの中は、図書館と美術館が吹き抜けを挟んで配置されています。どちらかというと図書館は街の人、美術館は外から訪れる人の利用が多いと思います。キラリの計画を立てていた当初、フロアごとに用途を変えて2~3階を美術館、4~6階を図書館にしようという話がありました。
しかし、富山市の関係者の方々や隈さんの想いでもあるのですが、街の人や外から訪れる人たちが、館内でなるべく交わるようにしたいということでこの配置に設計しました。また、下の階からそれぞれの目的の場所へエスカレーターを使って向かっていく動きがあると面白い場所になるんじゃないかと話していました。
ことちゃん
たしかに真ん中に大きな吹き抜けがあるので、上から見下ろすとそれぞれの目的の場所に目掛けて動く人の流れが見えますね。美術館と図書館とでは人の動きが静と動で変わっていることがわかって面白いです。
違う目的で訪れている人たちの目線も交わりやすいのかも!
内観ポイント③「“富山っぽい”吹き抜け」
齋田さん
吹き抜けのデザインは、最初は斜めの連続した幾何学的なものを提案しました。しかし、隈さんが「富山っぽくないから歪めなさい」と指示をくれたんです。
吹き抜けの形は、少しずつ歪めて違ったデザインにしています。見上げた時に、自然が生み出した山の斜面のような雰囲気になるようにしました。構造的に無理があって、設計がかなり大変だったんですけどね(苦笑)。
ことちゃん
同じ形で少しずつ方向を変化させているのかと思っていました。それにしても隈さんのコメント、かっこよすぎませんか??隈さんは立山連峰に強くインスピレーションを受けていらっしゃったんですね。
齋田さん
そうですね、隈さんの口から「立山」という言葉がたくさん出てきました。隈さんは、比喩などのあいまいな言葉でいつも指示を出します。
それは、設計メンバーの表現に限界値を作ってしまわないようにするためです。想像以上に良いものを生み出せるかもしれないですしね。
内観ポイント④「県産木材ルーバーは多彩な役者」
齋田さん
内観にも、隈さんの代表的な手法である「小さな面の集合体」が木のルーバー(羽板)で表現されています。場の用途に合わせてルーバーの粗密や奥行きなど配置の工夫を施しています。
美術作品が置かれている場所はルーバーの密度を高めて光を遮るようにしたり、デスクがあるところはルーバーの高さを低くして向こう側を見えやすくしたりしています。
ちなみにルーバーの木材は県産材ですが、燃えにくいように不燃加工をしました。当時は県内に不燃加工をできる業者さんが無かったので、東京の工場まで運びました。
ことちゃん
え!この膨大な量を全部?!大変な作業ですね。外壁の石と同様、軽やかに見える技術の裏側には壮大な手間と工夫が施されているのですね・・・。
齋田さん
ところで…吹き抜けのルーバーよりも、天上のルーバーのほうが明るく見えませんか?
「ルーバーを天井に配置することで空間が明るく見える」と、照明デザイナーの岡安泉(おかやすいずみ)さんにご提案いただきました。
一般的に図書館の設計では、手元の明るさを確保するために蛍光灯をズラリと並べがちです。キラリでは均一な照度の蛍光灯ではなく、スポットライトを配置しています。
人の目は明暗順応するので、人が本を読む場所だけを照らそうと。現在ではよく見る照明の使い方にはなりましたが、キラリの設計当初ではまだ新しい手法でした。
ことちゃん
新しいチャレンジだったのですね。蛍光灯よりもやわらかい光の空間なので落ち着きます。
齋田さん
場所によっては、窓も無くスポットライトだけだと暗くなる所もあるので、パーテーションを光らせて手元を照らしています。こちらも岡安さんのデザインです。
ことちゃん
おしゃれ・・・!贅沢なスペースですね。
齋田さん
また、ルーバーに角度をつけることで音を拡散させています。普通にお話しても許される図書館ってあんまりないと思いませんか??エスカレーターの音もそんなに気にならないですよね。
ことちゃん
たしかに!言われてみればそうですね。静寂すぎてピリッとした空気感がないですね。ルーバーの役割が多彩すぎる・・・。
齋田さん
ルーバーが上手く役割を果たしていますし、吹き抜けがあるからこそ成立している図書館です。隈さんは本当に柔軟性のある建築家だと思いますね。
内観ポイント⑤「スケルトンを意識したデザイン」
齋田さん
キラリはガラス美術館を併設しているということもあって、“透き通る”を意識しています。でもガラスで透明性を表現していません。透ける=スケルトンの解釈で、様々な素材で表現しています。
ことちゃん
内観にガラスを使っていないですね。白い壁に使われている和紙は富山県内の和紙職人、川原隆邦さんの作品ですか?
齋田さん
はい。川原さんは日本で一番薄い和紙を漉くことができる職人さんです。和紙の薄さが際立つように、壁を灰色に塗りました。その上に和紙を貼り合わせ、和紙の厚みのグラデーションを魅せています。
ことちゃん
和紙の壁も“透き通る”の一つの表現ですね。
齋田さん
2階のカフェとの仕切りも、壁ではなくカーテンにしました。当時、隈さんはファブリックのデザインにハマっていて、意外と可愛いカーテンを作ってくれましたね。
齋田さん
座席の足元を隠すためのカーテンは、建設現場などの囲いに使うメッシュのシートをプリーツ加工して作っています。
ことちゃん
建設現場で見ると無機質な素材に見えましたが、ここではやわらかく光を通す印象ですね。
内観ポイント⑥「“透き通る”が生み出した、思わぬ生き物」
齋田さん
館内にいくつもある大きな柱は、存在感を無くすために鏡張りにしています。全て鏡を使っているのではなく、ステンレスパネルと鏡とを入り混ぜています。
ことちゃん
2つの素材で作られているなんて、気づかなかったです。
齋田さん
キラリの内観は、ガラス作品が際立つように少ない素材でガラスと対比のある素材を使うことを意識しています。キラリは大きな建物ですが、実は木か白壁か鏡面しかありません。
齋田さん
また、“透き通る”のコンセプトに合わせて、パイプを曲げて作ったサインや案内マップもあるのですが・・・。竣工式の日、小さな子供がお母さんに「見て!イカがいるよ!」って言ってて。
ことちゃん
・・・イカ??
齋田さん
案内マップを後ろから見てみると…。いるんですよ。
ことちゃん
(爆笑)・・・もうイカにしか見えません。面白すぎます。
齋田さん
隠れキャラですね(笑)。他にもいくつかいます。
ことちゃん
イカを見つけてみてくださいってね。最高ですね!
内観ポイント⑦「待ち合わせはキラリで」
ことちゃん
齋田さんは、皆さんにキラリをこんな風に利用して欲しいという理想はありますか?
齋田さん
ぜひとも“待ち合わせ場所”に使ってもらいたいですね。地元の人同士でも、外から訪れた人とも。敷居が高くない場所でありたいです。
ことちゃん
キラリで待ち合わせって、なんだかかっこいいですね。
齋田さん
キラリの設計に携わったおかげで、いろんな人とのご縁ができました。僕だけじゃなく、ここを中心にいろんな人たちが出会い、繋がれる場所になるといいなと思います。
キラリの建設当時、現場を見に来た時にご近所の人たちが、目の前の平和通りに椅子を並べて花火を見ていたことがありました。この街の人たちの通りの使い方、街の使い方がとても素敵だなと感じましたね。
キラリも街の延長線として、みなさんが街を使っているセンスで育ててくれたらいいなと思っています。外と中が触れ合う空間になると嬉しいです。
細やかなデザインの力が集まり、人と人とが交わる種をたくさん散りばめたTOYAMAキラリ。
みなさんもぜひ「待ち合わせはキラリで」を合言葉にしてみませんか?齋田さん、ご案内ありがとうございました!
「TOYAMAキラリ」建築概要
所在地 | A棟 富山県富山市西町5番1号 B棟 富山県富山市太田口通り1丁目2番7号 |
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設計・監理 | RIA・隈研吾・三四五共同企業体 |
施工 | 清水建設・佐藤工業共同企業体 |
沿革 | 平成25年5月 富山市西町南地区第一種市街地 再開発事業施設建築物起工式 平成26年10月 再開発組合がビルの愛称を「TOYAMAキラリ」と決定 平成27年5月 竣工式 |
構造 | 鉄骨造(付加制振構造) |
敷地面積 | 4,144.67 ㎡ |
建築面積 | 3,422.97 ㎡ |
延床面積 | 26,792.82 ㎡ |
階数 | 地下1階 地上10階 |
外部仕上 | PCカーテンウォール(御影石・アルミパネル打込み) 押出成形セメント板 フッ素樹脂塗 |