建築家 沼俊之・上野宏岳✖️現場代理人 谷川竜太「活動が溢れる場所」
地域社会の発展に貢献した優秀な建築作品を表彰する富山県建築文化賞。53回を迎え、栄えある賞にノミネートされた作品の中から、見事受賞された方々にインタビューを敢行。
今回は、「一般部門」で見事優秀賞を獲得した「花水木ノ庭 −広場路の長屋−」の建築主であり、設計も自ら手掛けられたdot studio代表の沼俊之さんと、同じく設計を担当されたdot studioの上野宏岳さん、施工を担当された前田建設の谷川竜太さんの3名に、対談形式でお話を伺いました!
「花水木ノ庭」建築概要
所在地 | 富山市南田町1-4-3 |
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設計・監理 | 合同会社dot studio 一級建築士事務所 |
施工 | 前田建設株式会社 |
構造 | 木造 |
敷地面積 | 360.33㎡ |
建築面積 | 258.39㎡ |
延床面積 | 317.65㎡ |
階数 | 2階 |
ラボ
この度は富山県建築文化賞優秀賞の受賞おめでとうございます! 建築主であり、自ら設計も担当された沼さんから受賞の感想をお聞かせください。
沼さん
花水木ノ庭は、自邸として建設しました。ただ、今回の出品は住宅部門ではなく一般部門で出すことになり、自分自身ビックリしているというのが最初の感想です(笑)。
例年、一般部門の受賞は大きな公共施設などが多くて、僕の手の届かないところかなと思っていましたが、富山に根付いた暮らし、そこに新しい提案を加えたことを評価されたのが嬉しかったですね!
上野さん
この賞は、いろいろな方が受賞されているのでとても光栄です。受賞後、東京に行った際、沼さんや僕が通っていた法政大学の教授に会う機会があり、受賞の報告を出来たことが嬉しかったですね。
谷川さん
今回の受賞は、建物のコンセプトが評価されたんだろうなと感じます。ただ、施工者として賞を受賞するような建物に携われる機会はなかなかありません。素直に嬉しかったですね。
ラボ
施工を前田建設さんに依頼されたキッカケ・理由を教えてください。
沼さん
以前、一度施工をお願いしたことがあり、安定感のある素晴らしい仕事をしていただいたので、今回もぜひ谷川さんにと!
初めにタッグを組んだプロジェクトがお寺の庫裡(寺院の台所兼集会所にあたる部分)の施工でしたが、住職さんや地元の方から様々な意見をいただきました。
谷川さんはその苦労を分かち合い、一緒に乗り越えた仲間ですね。庫裡の他に住宅も一緒に手掛けています。
谷川さん
花水木ノ庭のお話をいただいた時、RC造だと思い込んでいたのですが、蓋を開けると「谷川さん、木造でいきます」と言われて「えっ?」マジかよと…(笑)。すぐに、建物の防水と外の階段をどうしようかな…と具体的に考え始めましたね。
dot studioさんからのご指名であれば、「なんとかしないと!」の使命感が先行します。木造での建物はあまり経験がなかったので前途多難な雰囲気はありましたが、シンプルに面白そうだなと思いました。
ラボ
前途多難…(苦笑)。工期はどのくらいだったんですか??
谷川さん
この建物に集中して取り組みたかったので、基礎工事が終わってから少し検討の期間をいただいて、再スタートをしました。実質は8ヵ月くらいでした。
沼さん
そうですね。ただ、構想は3年ほど掛かっています。自邸なので仕事の合間に考えながら。
最初は両親との2世帯住宅を考えていただけでしたが、土地を求めていたらこの場所に行き着いて。ここに決めてから、住居+店舗と賃貸を加えるアイデアに辿り着きました。
ラボ
「住居+賃貸+店舗」の複合施設ですよね?富山ではなかなかお目にかかれないです!
上野さん
沼さんから複合施設のプランを聞いて、事務所のみんなで最初から考えていきました。賃貸に関してはいくつ部屋を作るかはまだ決まっていなかったので、1ルームでも3LDKでもいいし、スタディして決めていきました。
富山市内に都会的な賃貸がないので、それを作ろう!というのはみんなの共通意見でした。最終的にプランは20を超えました。
沼さん
立地が街中なので、建築基準法の兼ね合いが大変でした。上野君には行政との協議を密にして、dot studioの解釈を伝えながらうまく進めてもらいました。
上野さん
以前勤めていた設計事務所で、行政との事前相談はバリバリやっていたのでお任せを(笑)。
ラボ
一番のこだわりポイントはどこですか?
沼さん
長屋か共同住宅か?共用スペースはどうするか?と考えた結果、ここは長屋にこだわりたいなと。
なぜ長屋にこだわりたいと思ったのか?
それは、賃貸も含めた4戸の住居がそれぞれ独立した一戸建て住居であり、花水木通りと建物に引き込んだ広場路からアプローチするという構成にこだわったからです。
各戸の専有部からはみ出たところが、花水木通りの延長として住む人や集う人の活動が溢れる場になって欲しいとイメージしました。
インテリアのようなピロティにしたのもこだわりの一つ。あとは、車と住む人の関係を身近にしたい、住人同士がコミュニケーションを楽しめる空間にしたいなと。
ラボ
施工で特に大変だったり、苦労されたところを教えてください!
谷川さん
隣接する建物との距離が人が入れないほど狭くて…。沼さんにお願いして10cmほど広げてもらいました(笑)。
本当に細部までこだわられた設計で、例えばトイレのドアには枠を設けずに壁のように見せたいとか。それに対してクラックが出ないように、チリが出ないようにと、一つひとつ方法を模索しながら進めていきました。あまり目立たない、一見地味な箇所にこだわりが詰まっているので大変でしたね!
上野さん
そもそも「建て方」が大変でしたよね?
谷川さん
はい、そうです(笑)。3段階で上棟を行いました。計画地前の道路のすぐ側に電線が走ってるので、奥から順番に建て方を進めていき、約1ヵ月かけて建て方が完了しました。
上野さん
家を3軒ずらして建てた感じですね(笑)。
谷川さん
まず最初に、構想段階でかなり頭を使いました。構造的なことはもちろんですが、塗装についてもこれまで使用したことのない塗料を指定されたので、そこは苦労しました。
下地との相性が未知数でしたので、そこは設計のdot studioさんが言われるのだからと割り切りました(笑)。出来る限りのことはやれたかなと思っています。
沼さん
塗装は自分のこだわりでもありますが、経験したことがないことを人や今後の施主に勧められないので、実験的に自宅でトライしてみました。
上野さん
沼さんの自邸でなければ「それはやめよう!」って言っていたと思います(笑)。
沼さん
「前田建設さんって、ここまで情熱的に工事をしてくれるんだ」って近所の人が感心するくらい、谷川さんが挑戦してくれました(笑)。
ラボ
竣工から3年が経過しようとしていますが、設計者⇄施工者としてお互いの印象を改めて聞かせください。
沼さん
やっぱり谷川さんはすごい安心感がありますね。構造や防水のことも、予めリスクを想定してくれていたので、本当に谷川さんに頼んで良かったなと改めて思いますね。
上野さん
谷川さんは、施主や設計者の立場を「自分ごと」として考えてくれる数少ない現場監督です。
通常だったら「設計が指示したからこうしたんだよ」と言われても仕方がないところなんですが、谷川さんは絶対言わない。施工の前段階から色々と議論ができる希少な方です!
谷川さん
(今回は建築主でもありましたが)設計者の沼さんとしては、僕がやったことがないようなことをやらせてくれるので、ある意味面倒臭いけど、一方でとても楽しい。
dot studioさんとの仕事は、僕の成長にもつながっているなと。出来上がってみるとやっぱりスッキリしているし、良い感じになるのだなと感じます。ワクワクと不安が同居する刺激的な仕事です。達成感と疲労感がすごいので、ちょっと時間を置きたいなというのが正直なところですけど(笑)。
沼さん
また、タッグ組んでやりたいですね。よろしくお願いします!