藤井和弥×横山天心 教育者2人の共同設計プロジェクト
藤井邸「街のヴォイドに開く町屋」
1.街のヴォイドに開く町屋
昨年、高岡市中川園町の文教地区に新しい住居が建った。これは本当に住居なのか。そんなワクワク感と高揚感を抱かせてくれるような洗練されたデザインの住居で、見れば見るほど施主の想いが存分に伝わってくる。
施主は、富山工業高校建築工学科科長の藤井和弥教諭。そして設計は、藤井教諭と交流が深い富山大学芸術文化学系の横山天心准教授との共同設計プロジェクトなのだ。暮らし始めてから約1年が経過しているそうだが、8月8日、9日に内覧会が開かれた。今回はラボ取材班による藤井邸のレポートをお届けする。
住居の名称は「街のヴォイドに開く町屋」という。藤井教諭によると、ヴォイドは空隙や吹き抜けを意味する。
「高岡も含めて地方都市は、どんどん人口が減って空き家が増えて、解体されて空き地になっていく時代の流れがありますよね。隣家と共有する場所がなくなり、空き地が増えることによって、本来は見えるはずじゃない家の部分が見えるようになります。A宅とB宅が連なって建っていれば、家同士が隣接する外壁は顔を見せることがありません。しかし、A宅が空き家となり解体されてしまうと、B宅の見えるはずでなかった殺風景な外壁面が見える。こうして、まちが段々と歯抜けになってコミュニティも希薄になり、衰退の一途を辿ってしまう。街の『ヴォイド』をいかに使った家を作れるか、ヴォイドをポジティブに捉えることができる家を作りたかった」と話す。
2.藤井教諭のこだわり
こだわりが沢山詰まった住居だけに、完成までにかなりの時間がかかった。基本設計に2年、実施設計に3カ月。工期は半年ほど延びて1年弱かかったと藤井教諭は苦笑いする。
藤井教諭は一級建築士の資格を持っており、学生時代は建築学を専攻していた。教育者同士がタッグを組んで住宅設計を手掛けることは極めて稀で、それを証明するかのように、内覧会には多数の来場者が訪れた。県内の建築設計に携わる面々や、二人の教え子、はたまた二人とは特に面識のない人まで訪れていた。
藤井家は藤井教諭の妻、小学校6年生の長男、4年生の長女の家族4人暮らし。玄関は打ちっ放しのコンクリート土間で、家の中と外が繋がっているような感覚に陥る。
1階はキッチン、リビング、洗面所、パントリースペース。中央の螺旋階段を上がれば、2階は家族それぞれの就寝スペース、テラス、窓際のカウンターは子供たちが読書、勉強するスペースになる。「家の中には行き止まりがなく、勝手口2つに玄関があって掃き出し窓もある。外も含めて回遊性を持たせることを意識しました」と藤井教諭は話す。
3.住居のこと
キッチンについては、「半分は土間で半分はフローリング。土間空間にキッチン設え、台所を踏襲している。現代の暮らしのダイニングと、昔の暮らしの土間空間を横に並べることで、新しい空間を目指しました」と話す。
子供部屋は、「個室空間を取っていないので狭いところでいかにリッチに過ごせるか。マットレスは子供の年代にしては少し大きめのセミダブルにして、漫画喫茶の個室みたいに寝転がって好きなものに囲まれて過ごすことができる。自分の子供の頃を思い返すと、好きなモノに囲まれて過ごす。これは最高だなと思います(笑)」と笑みをこぼす。
4.横山准教授
横山准教授との共同設計については、「自分で家を建てたいと思っていたのですが、設計の実務経験がないので横山先生に相談したところから始まりました。お互いに教育に携わる立場として良いかなと。元々、私の教え子で今横山先生の元で学んでいる中島晃一さん(富山大学院2年)、高橋智章さん(同)が打ち合わせに入って、設計の案も出してもらい、竣工の最後まで付き合ってくれました」と感謝を口にする。
一方、横山准教授は「ようやくこの時を迎えられた感じですね(笑)。自分的には、それぞれの空間を行ったりきたりできる螺旋階段と外部のようで内部のような玄関周りのスペースが好きですね。(共同設計は)自分ばかりが設計してしまうと、藤井先生のためにならないので、基本的には藤井先生が主体で作業できる環境を整えていく感じでした。アイデアや案出しはお互いでやりましたが、基本的には藤井先生に出してもらいました。藤井先生からA案とB案どちらにしますか?などの提案は、自分の考え方を意見することもあったので、それは反映されています」とプロジェクトを振り返る。
5.建築・ものづくりを志す若者へ
藤井教諭は、建築士の資格を持っているが決して建築士を仕事にはしていない。あくまで学校の先生といった立場になる。「設計やものづくりは凄く大変だけど、めちゃくちゃ楽しい。地域や地方のことを考え、人と違うことをやってみてトライして欲しい。そもそも住宅の設計は私の本業ではないですが、頑張って色々な人の協力を得れば、やってやれないことはない!そう感じています」と建築を学ぶ学生らにエールを送り、「機会があれば自邸以外の設計にも携わってみたい」と最後に意気込みを話してくれた。