建築家 法澤龍宝×法澤由佳「建物をリレーする」
地域社会の発展に貢献した優秀な建築作品を表彰する富山県建築文化賞。53回を迎えた栄えある賞にノミネートされた作品から、見事受賞された方々にインタビュー。
今回は「住宅部門」で優秀賞を獲得した滑川市にある「クラハウス」の設計・施工者であり、施主でもある法澤建築デザイン事務所の法澤龍宝さん、法澤由佳さんにお話を伺いました。
「クラハウス」建築概要
所在地 | 富山県滑川市常磐町 |
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設計・監理 | 有限会社法澤建築デザイン事務所 |
施工 | 有限会社法澤建築デザイン事務所 |
竣工 | 2020年8月30日 |
構造 | 木造 |
敷地面積 | 502.79㎡ |
建築面積 | 156.45㎡ |
延床面積 | 216.35㎡ |
階数 | 2階 |
外部仕上 |
令和の増築屋根:フッ素カラーGL AT葺 |
ラボ
自ら設計・施工をされたご自宅が住宅部門で優秀賞を受賞されました。本当におめでとうございます! まずは、率直な感想をお聞かせください。
法澤龍宝さん
報せを聞いた時は素直に嬉しかったですね。賞を獲れたこともそうですが、審査委員をされていた富山大学芸術文化学部の萩野(紀一郎)先生のコメントが私にとってはすごく嬉しかったです。私たちの設計活動に対するスタンスが評価されたのではと感じています。
このクラハウスは、旧北陸道にある海沿いの古い土蔵のリノベーション。新築や造成地の案件が多い中で、「この場所でやらなきゃ」という使命感みたいなものもありつつ、私たちにとっては実験的なものでした。
法澤由佳さん
「家をつなぐ」が私達の一つのコンセプトでした。以前の家主の方から、私たち、そして子どもたちへ繋いでいく−。歴史のある家に「ポジティブに住んでいる」ことが評価されて嬉しいです。
元々あった蔵をただ保存しているわけではなくて、魅力ある部分を残しつつ、周りの街並みとはちょっと雰囲気の違う明るい青を採用したり、新しいリノベーションを形にできたかなと思っています。
ラボ
明治・大正・昭和を経てきた蔵のある古民家をリノベーションされたクラハウスですが、お二人にはお子様もいらっしゃいます。実際に住む選択は難しくなかったですか?
龍宝さん
最初は軽いノリで、「リノベしちゃう?」みたいな感じでした(笑)。知り合いの方がこの家を持っていらっしゃって、その時から雨漏りの修理などをしていたので、家の状態はある程度把握していました。
ある時、いつものように雨漏れの調査をしていると、付属建築物の屋根下地がボロボロで修理の施しようがないことがわかりました。
その事を家主さんにお伝えしたところ、とても困ってしまわれて…。それであれば「売ってください」とお伝えしました。
由佳さん
私もすぐに「欲しい!」と思いました。明治と大正、それぞれ違う時代に建てられた二つの蔵が繋がっているので、素材も表情も当然違いましたし、木組なども普通の住宅にはない、蔵ならではの造りに魅力を感じました。
構造に使われていた「アテ(能登ヒバ)」の艶感もすごくキレイだなと思っていました。
龍宝さん
最初の蔵は明治40年、もう一つの蔵は大正10年の建造です。どちらも鉄道なんて到底ない時代なので、能登半島から船で材料を運んでいたそうです。
由佳さん
当時にタイムスリップした感覚になり、色々と木材や石などを調査しました。その時代にしかなかった基礎の石積みもそのまま生かしているんです。
龍宝さん
基礎は何カ所も損傷していました。せっかくなら、同じ石を使いたいと思って車に石を積んで採石場や石屋さんに聞いて回りました。けれど、「色が違うから、これじゃない、あれじゃない」とか。
北海道から北前船で運んだのかなと思って調べましたが、それも違う。散々調べて回った結果、年代や背景、石の色や形状からしても「小松市の滝ヶ原石」が有力だろうと判明したんです。
由佳さん
まさにロマンでしたね。どの石なのかを探す時間がそれはもう楽しすぎて…(笑)。
ラボ
石一つにもお二人のこだわりが詰まっているんですね!設計の際に気を使ったポイントはありますか?
龍宝さん
まず、蔵の扉をメインに。そのためにパズルを組み立てた感じです。間取り的には少々ぎこちないけれど、この蔵を使うならば(新築した)三角の部分は建物の中だけど、外のイメージです。蔵の余った空間は収納や寝室にして工夫しました。
龍宝さん
明治と大正、それぞれの蔵の壁をぶち抜いて動線にし、その長い廊下の先にはギャラリーを設けています。蔵の廃墟感がとてもステキだったので、外周部の土壁はほとんど手をつけず、新設の耐震壁を内部に設けました。
由佳さん
事前に雨漏りや隙間風と付き合っていかなければいけないことはわかっていたので、何が起こっても基本は楽しんで対処しています。ダンゴムシも隙間から入ってきますが、それも面白いですね(笑)。
昔の人たちは、これを当たり前に生活していたわけで、そう考えるとポジティブに暮らせるんです。完璧に守られている家は、私には逆に「窮屈」に思えるんじゃないかなって。
ラボ
歴史ある建物のリノベーション。施工時のことを教えてください!
由佳さん
基礎工事の時に、石積みが途中で壊れてきたり…。施工は苦痛なことが多かったかもしれません。ちょっと進んだと思うと、他のところが崩れてきたりして(苦笑)。
龍宝さん
そうですね。現場対応がほとんどでした。ここに手をつけないためには、どこを見せてどう隠すかとか、現場で話し合いながら、進めていきましたね。
ラボ
今後も「クラハウス」のリノベーションは続けていくのですか??
龍宝さん
まだ手付かずの離れがあるので、そこはワークスペースとして使えるようにと考えています。さらに自分たちだけではなく、まちの人のためにもクラハウスを開きたいという想いと構想はあります。「お茶でも飲んで行かれよ」と地域の人たちに場所を提供できるような。
ちょっとしたイベントを開いたり、会合に使える空間にできたらいいなと思っていて、「建物をリレーする」=「サステナブル」だと私たちは考えています。
この建物は歴史のバトンのようなもので、どういうふうに次世代へ繋いでいくか。これが私たちの使命でもあり、これからの楽しみでもあります。