松原建設「ICT施工」のリアル
富山県内の土木・建設工事を幅広く担う松原建設は、今から6年ほど前、当時はそれほど認知されていなかった「ICT施工」にいち早く着手し、北陸ではどの会社よりも早く設備導入&技術取得に磨きをかけてきました。土木・建設の新しい時代を拓くであろうICTの今を探ってきました!
そもそも「ICT」ってなぁに?
きつい・汚い・危険の「3K」と言われ、いわゆるガテン系のイメージが強かった土木・建設業界。次代の担い手や若手入職者の不足を受け、施工の効率化などを図り、こうした課題に風穴を開けるべく登場したのがICT施工技術です。ドローンやVRを使ったITを活用して、調査、設計、施工、監督、検査、維持管理の各生産工程において高精度・高効率、そして高い安全性を実現した画期的なシステムなのです。
1.オフィスで現地チェック&図面づくり
3Dデータ作成は女性も活躍
以前は“白図”の状態から膨大な知識と労力を使って作られていた工事図面も、ICTを導入してからは、ドローンなどを使った現場の測量データを元に、施工時に必要な3D設計データの作成が行われます。重機のセミオート操縦の肝となる重要なデータですが、経験の少ない女性でも短期間で作図ができるようになるのもICTの魅力。普段は事務を担当する折戸早希さん(入社2年目)も先輩達に指導を受けながら、技術習得を目指しています。
臨場感ハンパない!VRで現場チェック
ドローンでの撮影データをもとに、現地に行かずして現場の状況を細かく確認できるVR。崖の上から見下ろすと足が震えるほどの臨場感。登ることができない緯度・経度・高さの計測や、施工時に注意するべき箇所がないかなど、VRですべてチェックできるので、大幅な効率化につながっています。
2.いざ施工現場へ!
この日取材にお邪魔したのは、富山市内に新設される総面積6haにおよぶ大型施設の建設現場。松原建設はこの現場でICT建機を使い、造成工事を行っています。
あらかじめ作成した3Dデータを重機に取り込み、操縦席のモニターに映し出されます。基地局からデータを衛星に飛ばし、GPSによって緯度・経度を感知して自動で重機を操縦します。オペレーターが操作するのは、前進後退と排土板の上げ下げ程度で、あとはほぼオート。無線で補正データも確認しているので、誤差は5~6mm程度という、まさに圧巻の精度です。
施工が完了した後には、ドローン測定や3Dレーザースキャナーを活用してVR検査が行われます。ここで、補修工事が必要になることはほとんどないとか。
現場を離れて松原建設本社にお邪魔し、松原悠大社長、久木地平統括部長、松原彩さんにインタビュー!
ラボ
現在のお仕事の内容を教えてください。
松原彩さん
今回の現場では、管理技術者を任されているので、今はVR検査の準備を行なっています。普段は、土地の計画調査や3Dデータの設計も行なっています。
ラボ
ICT施工の導入は難しかったですか?
松原彩さん
機械の購入が先だったので、工事に必要な3Dデータを誰かがどうにかして作らなければいけないという状況でした。当時(6年前)はメーカーもそれほど知識がなくて、聞いてもちゃんとした返答がなく…。3カ月かけてほぼ独学で習得しました(汗)。
ラボ
すごいですね…。特に印象に残っているエピソードは?
松原彩さん
「山にゴミの処分場を作るための造成図面が欲しい」という仕事が入り、等高線だけが入った白図を元に、等高線に3,000点ほど地道にプロット(打点)して、12haの敷地の3D図面を作った時は本当に大変でしたね。ただ、メーカーにそのことを伝えると、「翌月に自動でプロットするシステムが出来ました」と言われ、その時の苦労はなんだったのかと…(笑)。
ラボ
導入当初の苦労があってこその今なんですね。
松原彩さん
そうですね。今はかなり多くのことが自動化され、作図のスピードも格段に上がりました。3Dデータの作成は、基本的にPC一つあれば未経験の女性でも作れるようになります。社内での仕事の分担もしやすいですし、こうした仲間が今後増えていけばいいなと思っています!
次に、ICT施工導入のキーマンである松原社長と、久木統括部長にお話を伺いました。
とりあえず「やっちゃえ」
ラボ
当時は業界にそれほど浸透していなかったICT施工に取り組んだきっかけはなんですか?
松原社長
私は元々違う業界から入ってきたので、土木や建設にも必ずITを活かせるシステムがあるだろうと探していました。情報を聞きつけて実際のICT施工のセミナーに参加した帰りには、部長陣に「やるぞ!」と伝えていました。
ラボ
即決ですね。将来を見据えた時に必要になると?
松原社長
そうですね。コマツからICT施工に対応した重機が出たと聞き、ブルドーザーを購入しました。3,600万円くらい。従来機の倍以上ですが、「買っちゃえ!」って感じでしたね(笑)。やってみないといいも悪いもわからないですから。
ラボ
その話を聞いた久木部長の率直な感想は?
久木部長
現在、国交省関連の工事ではICT施工が当たり前になっていますが、当時はそれほど名前も認知されていませんでした。ただ、効率がよくなることは直感でわかったので、遅かれ早かれ覚えなければいけないと思いました。何より機械を買っちゃったわけですから、やるしかないだろうと(笑)。
松原社長
便利になるというのが確実にイメージできたのは大きいです。当時は国交省でも試験的なものばかりで全国的にも珍しかった。北陸で導入しているところはなかったのですが、大規模な造成工事の下請けなどで積極的に使っていきました。富山市発注の工事では、ICT施工の理解を少しでも深めてもらうために、市の職員さんを招いて現場見学会も開きました。
土木は女性が活躍する時代
ラボ
ICTを導入した効果はすぐに見られましたか?
松原社長
従来の工事と比べてこれだけ利益が上がったよ、ということを明確に示すことができて、社員の理解を得るのも時間はかかりませんでした。会社としても与えられた仕事をこなすという縦割り体質ではなく、各々できる仕事が増えてワークシェアリングができるようになってきましたね。
久木部長
ドローンやレーザースキャナーが入ってきたことで、遊び感覚で楽しみなが技術を学べるのは、とても良いことですね。私たちが入った頃には考えられなかった(笑)。事務職にも現場の書類をちょっとずつ覚えていてもらっていますし、現場でドローン撮影してきてもらうことも多々ありますよ。
ラボ
確かに男くさい“ガテン系”のイメージは皆無ですね。社屋も本当に綺麗でオシャレ。驚きました。
松原社長
汗まみれ、泥だらけという土木のイメージを変えたいという思いが一番ですね。うちは基本的に現場への直行直帰はさせず、会社でのコミュニケーションを大切にしています。ICTを取り入れてからはさらにPCでの作業も増えましたし、女性がモチベーションを持って活躍できる企業でありたいと思っています。