連載記事
テーマに沿って、12名の建築家が建築設計に対する想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
2周目のテーマは、「完成までのプロセス(人との出会い)」です。
※毎週火曜日に掲載
本瀬齋田建築設計事務所
テーマ vol.2完成までのプロセス(人との出会い)
「人とアイデアと出会いながら設計する」
現在私達は、本瀬と齋田にスタッフ2名を加えた、4人で設計をしている。以前所属していた隈研吾建築都市設計事務所でも、隈さんを含み4人以上のプロジェクトチームが組まれ、設計を行うことが多かった。
「担当者」がバリバリと手を動かしたアイデアは、デザインや進捗を管理する「主任」のエスキスで磨かれ、プロジェクトを複数統括し事務所の品質を保つ「室長」の精査を受ける。そこに隈さんが、本当に細かい部分まで目を通し、アイデアやディテールを示した。在籍当時は200人近くのスタッフがおり、チームは流動的に組織され、プロジェクト毎に異なるメンバーで取り組むことが多かったため、柔軟性が高い設計スキルが求められた。
このような事務所では、日々の洪水のようなアイデアの掛け合いによってデザインが磨かれるため、多様性の高いアイデアを示せるほうが採用される可能性が高かったように思う。しかし、時にアイデアを活かすため、個人の強いデザインや極端な判断が必要とされる場合もあった。
ある地方で、交流センターと博物館、広場をつくるプロジェクトでのことである。敷地は、建築用地、駐車場、広場が連続した細長い形状で、山並みがキレイな緩やかな斜面に沿っていた。眺望を取り込みながら2つの施設を上下階に配し、2階建ての建物をつくる計画であった。
担当の私は、与えられた条件下で広く可能性を探り、夜な夜な重ねた打ち合わせでは、3桁に届きそうな数の検討案を作った。しかし、隈さんは「この場所なら丘みたいな空間だともっと良いよな」とこだわる。それを受けて上司は突然に「敷地を替えよう」と言い出した。
常識では起こりえない判断に耳を疑いながらも隈さんに意見を求めると、「いいじゃん」と即断。まさかの展開に困惑しながら資料をまとめ上げると、上司はそれを受け取り、見事に施主や住民を説得してきたのだった。急激で柔軟な方針転換の結果、敷地は入替わり、建物から広場、更には周辺の山並みまで連続する、地形のような建物が実現されたのである。
プロジェクトに対し客観的なアイデアを示せると、極端な判断にも踏み切ることができたり、発見を生むことができる。小さなアイデアを積み重ねられれば、全てを一個人で設計する必要はないし、初志貫徹のアイデアやコンセプトに頼る必要もない。プロジェクト毎に、人やアイデアと出会いながら磨き続ける、新しいデザインを発見できる設計にチャレンジし続けていきたい。
(「下関市川棚温泉交流センター(2009年・山口県)」筆者撮影)