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第6回目は、建築士や職人からの信頼も厚い前田建設株式会社(富山市)の谷川竜太さんです。
現場監督一筋18年の谷川さんに、若手時代の苦労や仕事の魅力などをじっくりと伺いました。
今回は、富山市下大久保にある「大久保小学校耐震補強工事」の現場にお邪魔させていただきました!
設計は北電技術コンサルタント。施工は前田建設・スター総合建設・牧野工業JVの現場です。
ラボ
まずは、谷川さんが建設業の道を志したキッカケを教えてください。
谷川さん
普通科の高校に通っていて、将来何をしようかと考えた時に、福祉系と建築系の二択で迷っていたんです。自分は何が好きかを考えた時に、幼稚園の頃に“大工さんになりたい”と書いていたなと思い出したんです。秘密基地を作ったりするのが楽しかったからかな…。先生と話をして、「福祉も良いと思うけど、自分の楽しいと思う方向に行ったほうが良い」と言われて、東海大学工学部の建築学科に進むことにしました。
ラボ
なるほど。大学でみっちりと専門の勉強をされたんですね。
谷川さん
んー、自分なりには頑張りましたけど、所詮は座学なのであまりリアルではなかったですね。建築学科の中でも設計、構造、施工など分野が別れていて、設計は花形でカッコいいんだけど、自分はセンスないし意匠系ではないなと(笑)。ゼミでトラス構造の研究に行ったら面白くて、構造・力学など物理的なものに興味を持ちました。割り箸で橋を作るんですが、同じ材料でこの箸をどう組んだら強くなる、理屈でこれだけ強度が出るんだとか。自分の好きな分野を見つけた気持ちになりましたね。
ラボ
新卒で前田建設に入社されたんですか?
谷川さん
そうですね。大学は神奈川でしたが、富山には帰るつもりでした。元々、私が子供の頃に親が8回も転勤しているんです(笑)。富山は中学から高校卒業まで長くいて、友達もたくさんできました。転校しすぎてあちこちいくのが嫌で、一つの場所で根を下ろしたいと地元企業への就職しか頭になかったです。大手のゼネコンに進みたいといった進路よりも、小さな規模でも住宅や公共施設にじっくり携わりたいといった想いがあったので、この会社に決めました。
ラボ
住宅も現場監督として担当されているんですね?
谷川さん
住宅は建築士さんと一緒に組んでやることが多いですね。皆さん自分にないものを持っているし、それに応えたいと思っています。出来上がっていく過程も、完成した姿を見るのも誇らしい気持ちになります。当然、建築士さんの設計をもとに施工するわけですが、それ以上に施工部分で自分のこだわったところがハマることもある。それが共有できると面白いですよね。メンテナンスにも関わってくるので、図面にないことも先回って抑えるようにしています。
dot studio一級建築士事務所の沼俊之さんとタッグを組んで、谷川さんが施工を担当した「花水木ノ庭」(富山市南田町)。
https://www.instagram.com/hanamizuki_no_niwa/
「何度か沼さんと仕事をしていたので、どういうものが好きか感覚的なものはわかっていましたし、とりあえず沼さんの好きにやってと(笑)予算的な制約もある中で、どうすれば沼さんのイメージを具現化できるのか。意匠性を保ちつつ機能的で壊れにくいものをつくることができるのか。この2点は自分なりに工夫しました。周囲からの評価も高く、印象に残る仕事になりました」
ラボ
今日の現場は公共工事ですが、いつも心掛けていることはありますか?
谷川さん
例えば幼稚園や小学校の工事では、子供が使うので「何が起こるかわからない」を前提に考えることが大事だと思います。足を掛けそうなところは強度を持たせたり、子供がぶつかりそうなところは丸みをつけたり、ボルトの出っ張りをなくしたり。当初の注文にない部分にも細かく気を付けるようにしています。
谷川さんのもと、同じ現場を担当する前田建設の柳田涼太さん。富山クリエイティブ専門学校・建築学科出身で入社1年目のホープです。現在の仕事や目標などを聞いてみました!
入社1年目から耐震補強工事といった変則的な現場に入ることになりました。正直に言うと、新築のほうをやりたくて入社したので、「んー…」という気持ちはありましたが、徐々に色々な知識を身に付けていっている感覚はありますし、こうした工事を経験する機会はあまり多くないので、貴重な経験をさせてもらっています。
最初はわからないことだらけでしたが、谷川さんは同じ事を聞いても怒らずに「ドンドン聞け」と言ってくださるので、質問もしやすく、本当に助かります。当面の目標は、早く2級建築士の資格を取ること。僕も谷川さんと同じく「福祉」と「建築」で進路を迷い、建築の道を選んだので、保育園などの建設に是非とも携わってみたいです。
ラボ
現場監督人生を振り返って、大変だった時はありましたか?
谷川さん
この仕事に就いて18年になりますが、一番キツかったのは2年目ですね。1年目は入社したばかりで周囲も優しかったのですが、2年目からは、JV(共同企業体)の大きな現場で部長と私とJVの方とで3人で任され、補助輪をいきなり外された感じでした(笑)。今思えば愛のムチなんですが、“これくらいわかるようになれよ”のパスが毎日連続してやってくる(笑)。ただ、私はそんな器用じゃないので、どんなにキツくても辞めて次の道に…なんてことは考えなかったし、とにかくやるしかなかった感じですね。
ラボ
その大変な時期を乗り越えての今、なんですね。
谷川さん
今思うと、先輩方に鍛えてもらえて良かったです。「ここまでやるのが普通なんだ」ということを2年目で教われたわけですから。次の年は、別の現場で建物の図面を任されるようになり、わからないなりに描いて、チェックしてもらっての繰り返しでしたが、凄く勉強になりました。毎年、毎年ステップアップしている感覚はありましたが、とにかく夢中でしたね。
ラボ
今、現場監督として数々の現場を指揮されている中で、大切にされていること何ですか?
谷川さん
現場に関しては、“楽しく、真剣に”というテーマでやっています。自分はサッカーをやっているので、サッカーに置き換えて、「どうすれば皆のパフォーマンスが上がるか」を突き詰めて考えています。険しい顔をしてやっているより、“楽しくいこうぜ! ”のモチベーションで臨めば凄い力を発揮するんですよね。自ら真剣に、作ることを楽しむこと。それが職人さんにも伝わるようにしています。みんながWINWINの関係になるよう、一緒に良いものを作ろうという雰囲気作りを心掛けています。
ラボ
建設業を志す若者へ、メッセージをお願いします!
谷川さん
どの仕事でもそうだと思いますが、やらされているのでは面白くない。スキルが身に付いてきて、職人さんとも対等に話せるようになり、自分で采配できると面白くなってくる。そのレベルに達してないうちは、先輩の理不尽も糧になると思って乗り越えるしかないでしょ(笑)。あれこれ言っても、自分で覚えないとわかりませんし、技術的な事は会社に入らないとわからないことが多いです。学生のうちは沢山の友達と仲良くするとか、人間関係を広げて色々な経験を積める人になるのが、一番大事だと思います。