連載記事
公共・民間工事ともに幅広い実績を持つ吉岡さんに、
板金ってどんな仕事? その魅力は?ド直球な質問をぶつけてみました!


ラボ
今年で創業101年。板金の歴史をすべて知っていると言っても過言ではないですね!

吉岡さん
そうですね(笑)。曽祖父が創業して、私で4代目になります。その昔は米びつというものがなくて、米を入れるタンクなどの金属板を扱うのが得意で、徐々に屋根を葺く仕事を請け負うようになったと聞いています。おじいちゃんの代で、人も増やして大きくなり、現在の工場へは昭和50年頃に移ってきました。

昨年創業100年を迎えた吉岡板金工業所

11月から代表取締役に就いた吉岡さん

吉岡会長(一番右)と社員の皆さんと

ラボ
まず、工場の広さに驚きました。

富山市赤田にある本社

これだけの設備を整えている板金屋さんは県内で吉岡板金だけ

吉岡さん
板金屋さんの中では、これほど大きな工場を持っているところはあまりないと思います。クレーンも付いてますし、原板の材料をコイル状で仕入れて切ったり曲げたり加工して現場で取り付けるので、どんな要望にも応えられるように一通りの加工機(成型機)を揃えています。

ラボ
そもそも「建築」でいう板金とはどんな仕事ですか?

吉岡さん
薄い金属板を切ったり、変形させたり、貼り合わせたりと加工を施すのが板金ですが、建築でいうとメインは屋根です。あとは外壁、雨といなども板金屋の仕事です。昔は瓦屋根が主流でしたが、金属屋根も増えていますよね。メリットは軽さと、見た目。加工の自由度も高くて、耐久性もあるので今は主流になっています。

ラボ
相当な技術と知識が必要ですね。

吉岡さん
金属には『塑性加工』というものがあって、原板を機械で変形させると、その形をキープしたまま、面材としての強度が上がります。シンプルに縦と横の組み合わせでいろんなバリエーションができるという点では、瓦より屋根材としては有利なんです。

ラボ
なるほど…。奥が深いですね。吉岡さんは家業を継ぐことは小さい頃から決めていたんですか?

吉岡さん
選択肢に全くなかったです(笑)。高校生の時は、バイトで手伝ってはいましたが、「こんなダサいことやりたくない!」と卒業後はすぐに東京に出ました。祖父に建築科に行けと言われましたが、それもイヤで工学部の機械システム工学科に。大学ではCADは使って、都市デザイン・人工知能やインターフェースを学び、パソコンのスキルはすごく上がりましたね。

ラボ
大学卒業後はどんな進路を?

吉岡さん
やはり、その時も会社を継ぐ気にはなれなくて、自分で考え自分で決めたところに行きたいと、静岡県の自動車関係の製造工場に就職しました。スーツは性に合わないと思って、作業服を着る仕事を選びました。その会社は、自動車のボディの外板を作っていて、流線的でデザイン性が問われる仕事。ハイエースのルーフなど数え切れないほど作っていました。

作業服がよく似合う吉岡さん

ラボ
畑は違えど、建築板金に近いお仕事だったんですね。

吉岡さん
3年ほど経ったある日、海外に工場ができるタイミングで、転勤するかどうかの選択を迫られていた時に、祖父が亡くなったんです。僕は3人兄弟の真ん中なのですが、兄は化学系の研究開発をしていて、弟はまだ大学生でした。そこで僕に白羽の矢が立ち、富山に戻ることを決意しました。

ラボ
いざ家業に入り、カルチャーショックはありましたか?

吉岡さん
前の会社では工場勤務でしたが、現場に出て仕事覚えなくちゃいけない。戻ってすぐ、婦中町のイノベーションパークの現場を担当したのですが、雪をかき分けながら、手がかじかみながら板金当てて…めっちゃ寒いなと(笑)。過酷な天気の時期に外に一日いるのはキツかったですが、それも2~3年で慣れちゃいました。

社員を見守る吉岡さん

ラボ
誰もが知っているような建物も担当されていますよね!

吉岡さん
北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅、日医工のラグビーボール型の外壁など、他にも大きな工場なども手掛けてきました。ゼネコンの現場は工期が長く、大変な事も多いですが、そこで鍛えてもらい、色々な現場をこなしてきた事が財産になっています。それらを乗り越えてきたから、今は「どんな仕事が来ても大丈夫」と思えるようになりましたね。

J R黒部宇奈月温泉駅

屋根ってこんな風に運ぶんですね

ラボ
仕事は選ばず、まず受けると?

吉岡さん
住宅は住宅で工期が短いけれども難しいところがあるし、公共・民間問わず、両方できた方が絶対に良いんです。これからも長く会社を続けていかなければいけないので、仕事を求められる先に行ったほうが良いと言うのが私の持論です。最近は設計士さんからの意匠系の案件が増えてきていますね。

富山地鉄ホテルロビー 【菱葺き+斑紋純銀色】 吉岡板金工業所×モメンタムファクトリー・Orii ©トロロスタジオ 谷川ヒロシ

富山市の堀川保育所。外壁を板金で

ラボ
板金で大事なことって何ですか?

吉岡さん
私たちは「納め方」と呼ぶのですが、最終的な仕上がり、着地点をどう持っていくかはやはり大事です。板金と一言で括っても、雪の多い地域と日差しの強い地域では、施工の仕方は変わります。段取り8割という言葉通り、現場でスムーズに仕事を納めるために、段取りの段階でぴったりの寸法で作るのか余裕を持たせるのかを考え、精度良く加工することで粗方は決まります。
当社には長い歴史の中で、木造から鉄骨。豊富なノウハウのストックがあります。伝統の技術を大事に継承しつつ、新たな商品を上手く取り入れていきたい。屋根、壁、縦葺き、横葺きなど様々で、加工も自由にできる。周りの時代・情報・価値観などが変わるから、こっちも常に変化に対応しなければならないなと。

吉岡板金ならではのオリジナルティを追求している

ラボ
職人を目指す若者に一言お願いします!

吉岡さん
「職人は石の上にも3年」とか堅苦しいことは言わないので、気になったら現場を見に来て欲しいですね。インスタグラムでもバンバン発信しているので、板金に興味持ってぜひ調べてみてください。金属でどんなことができるのか、びっくり仰天させてあげる自信はありますよ(笑)。
自分が携わった建物を見るたびに、「あの時は…。」と感慨深くなりますね。そして、晴れの日や雨の日で屋根の表情は変わります。そんな日々変化する屋根を、僕はいつも愛おしく眺めています。