連載記事
テーマに沿って、12名の建築家が建築設計に対する想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
2周目のテーマは、「完成までのプロセス(人との出会い)」です。
※毎週火曜日に掲載
法澤建築デザイン事務所
テーマ vol.2完成までのプロセス(人との出会い)
「意をもって匠となす」
意をもって匠となす
専業化が進む現代。私たち「建築家」の職能の存在価値は、デザイン性の良い建物を創造する、という点にあると考えています。私が恩師から頂いた言葉の中に、「デザインの訳語は設計にあたるが、<意をもって匠となすこと>の意味も含まれている。これを忘れてはいけない」という教えがあります。意をもって匠となす、すなわち「意匠」です。言い換えるなら、私たち建築家は、単に「図面を描き」をするのではなく、意=「アイディア」とそれを具現化するための匠=「技」や「術」について研鑽をつまなければならない、ということになります。とても明晰な観点で、設計活動の中で悩んだ時、私は常にこの言葉に立ち返るようにしています。
人との出会い
今回のテーマは「完成までのプロセス 〜人との出会い〜」です。もちろん「人との出会い」なくして、建物がつくられることはありません。冒頭に「デザイン」の話をさせていただいたのは、誰の「アイデア」を形にするのか、について考えてみたかったからです。建物の完成には多くの人が関わってきます。
なかでも建築主の存在は大切です。建築主は多くのアイデアを建物に抱きます。例えば、色や形の好み、夢や思い出、材料や性能、ライフスタイル、そして、建築費…。こうしたリクエストを、構想段階からできるだけ多く聞き出し、一つずつ形にしていくことが建築プロジェクトの大きな命題になります。
一方、建設段階において重要な役割を果たすのが、職人や現場監督など、いわゆる現場サイドの存在です。新工法や釘の留め方、壁の塗り方、施工手順や工程など、現場方は単に作業を行うだけではなく、どうすればより良い品質・精度・仕上りをつくれるかと考えながら仕事をしています。時には私たちの知らないアイディアを持っていることもあります。建築主のリクエストを叶えるために、休憩時間に現場につめかけ、職人方と詳細図のエスキスをする。時にはこんな方法も必要だったりします。
初期構想(ファーストスケッチ)をつくるのは建築家の仕事。しかし、それだけで完成した建物はあっさりとしすぎていて、趣がありません。一方、良い建物・良いデザインには、このような建築主・職人・建築家の対話の形跡がたくさんあると私たちは考えています。
建物は「完成」するのか?
さて、建物に「完成」はあるのでしょうか。建築工事には完成=「竣工」はあると思います。しかし、竣工をもって建物の「完成」というのは、少し残念な気がします。私たちは建物にも「人生」のようなものがあると考えています。
竣工は人生に例えるなら「誕生」。そして、私たちの人生が「完成」することがないように、建物にもまた「完成」というものはない。建物の人生をどれだけ有意義なものにできるか。それが建築家の<デザイン>の課題になります。前述のように、構想・建設段階においては、建築主や職人と対話し、さまざまなアイディアを形にしていくことが必要です。
しかし、竣工後、時代とともに建物の所有者が変わることは多々あります。そのような状況においても、新たな所有者が、新しいアイデアを抱き、それを受け入れるための余力を残しておく。これからの時代、このようなデザイン的観点を持つことも必要になってくるのかと思います。
「クラハウス」築110年の蔵を住宅に改修するリノベーションプロジェクト。所有者は代々変わり、建物が受け継がれてきた。今後100年先も残ることを考え、現代的な価値観・アイディアを介入させる。