連載記事
テーマに沿って、12名の建築家が建築設計に対する想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
2周目のテーマは、「完成までのプロセス(人との出会い)」です。
※毎週火曜日に掲載
水野建築研究所
テーマ vol.2完成までのプロセス(人との出会い)
「住まい手、職人と考える『かたち』」
2002年に富山へ拠点を移した折に、設計活動の軸足を住宅設計に置くことにしました。1995年に阪神淡路大震災が起きた時、大阪に住んでいましたが、仕事で震災直後の神戸のまちを歩いた際に見た多くの倒壊家屋に心を痛めました。そして、その大部分が木造であり、耐力不足や施工不良などが散見され、このままではアカン…と、正しい木造知識を身につけたいと思うようになりました。
ちょうどその頃、妻の務めていた事務所が主催メンバーとなって木造住宅の勉強会を開くことになり、私も数年通いつめました。その際に得た知識や交流を持った方々とは現在も交流があり、私たちの設計の応援をしてくれています。
分野は構造、環境、木材など多岐にわたり、困った際には気軽に相談に応じてもらえる仲となり、定期的に連絡を取り合うことで新しい技術や知識の情報をアップデートしています。おかげで地方に活動の場を移しても、時代の波に乗り送れることなく安心して活動することができています。
さて、住まいの設計についてですが、どのように進んでいくのか?という質問を受けることがあります。まずは生活者である住まい手を知ることから始まります。初めてお会いした際に感じたこと、ご自宅に伺い暮らし方を見て感じたこと、敷地を見て感じたこと、頂いた要望書などをもとに、一つの案(場合によっては複数)を作り上げます。
この案は、私たち設計者の感じた優先順位で作り上げられているので、住まい手の要望と全てが合致することは稀です。最初のプレゼンテーションで見た図面や模型をもとに、住まい手が感じたことなどをまとめ、再度要望書として出してもらいます。
それをもとに修正して理想の形に近づけていくためのキャッチボールを繰り返し、設計図書を完成させていきますが、ここに住まい手の個性をどれだけ色濃く出せたかが鍵となります。こうして傍目では皆同じような雰囲気で見える空間も、住まい手にとっては自分の個性がしっかり出ている唯一無二の住まいとなっていきます。
そして、住まい手と考えてきた「かたち」を実現するために、施工者に発注しますが、私たちは殆んどの場合、工務店を単独指名して依頼しています。建築物の殆どは現場で作業する職人の手に負うところが大きく、彼らとの信頼関係が重要だからです。特に複雑な木構造の加工をする場合には、そのスキルに応じた大工さんを選ばなければいけませんし、彼らとの共通認識を深めていくことで、思い描いた形に近づいていきます。
そういう点では、私たちの図面への理解度が高い現場監督も重要です。さらに板金や塗装、左官など、個々の職人や家具屋さん、建具屋さんなどの面々も大切です。指名する工務店によって出会う職人は変わりますが、概ね知っているメンバー。このメンバーたちとの意思疎通を密にすることで思い描いていた「かたち」が完成していきます。時には職人たちが出してくれる図面以上の回答を楽しみながら、住まい手以上に完成を楽しむ傍観者となることもあり、つくづく、この仕事に出会えてよかったと感じます。