連載記事
※毎週火曜日に掲載
青山建築計画事務所
テーマ vol.3基本構想が生まれるまで(アイデアとの出会い)
「十人十色」
一つのテーマで12人の設計者が語るケンチクノワもいよいよ3週目。今回のテーマは、「基本構想が生まれるまで(アイデアとの出会い)」です。
例えば同じ条件で建築の設計を10人の設計者が作ったとしたら、恐らく、一つとして同じものが出てこないはずです。10人の設計者なら10通りの案が(きっと)出てきます。いったいこれはどういうことでしょう?
どの設計者も建物を設計するときには①建主さんの要望②その建物が建つ土地の環境③法律の制約④基本的な計画論−のいずれもが叶う案を考えるはずです。しかし、同じ設計要素なので同じものが出てくるかというとそんなことはありません。みんな独自の案で出てきます。面白いですね。
考えられることは、①〜④の設計要素の理解や重点をどこに置いて案を考えるかがそれぞれ異なるからだと思います。①〜④の設計要素だけでも分解すると相当な数になりますから、その組み合わせだけでも何通りもの案が生まれるという訳です。
どの設計者も、①〜④の設計要素をどう取り入れるかそれぞれのあんばいで、「こんな風な建物にしたい」という基本構想を練り上げます。それを元に具体的な案を作り上げるのです。元となる基本構想の善し悪しが建物の出来を決める一番のポイントです。つまり基本構想こそが建築設計の核心なのです。10人の設計者が考え出す基本構想が異なるのは、それぞれの感性も反映していると思います。つまり①〜④+各々の感性=基本構想ですね。
もう一つ。素敵な建物だなぁと思う建物には必ず考え抜かれたアイデアが詰まっています。それを読み解くことができると、「なるほどそういうことなんだ!」と同じ設計者としてその案に納得と敬意が生まれます。これだ!というアイデアが生まれ基本構想がまとまる瞬間が設計という仕事のもっともワクワクする瞬間でもあります。
それでは基本構想を生み出すアイデアを実例から参考に一つ。桜並木のある堤に面する素敵な土地だったのですが、色々と問題がありました。建主さんからは、桜並木と一体になったLDKが可能ならこの土地を買いたいという話しがあり、私は「もちろん、大丈夫です」と自信たっぷりに返事をしましたが、実はヒヤヒヤものでした。それに応えようと提案したアイデアがこれ↓
カーポートを前面において、その後ろに住宅。これが一般的な提案だと思います。実際、その土地のお隣りもそうした造りです。道路向かい側に素敵な桜並木があり、何とか取り込みたいけれども、普通にプランを作ると住宅は敷地奥になって桜並木を家の中に取り込むことは出来ません。
さらに、西陽対策が出来ないという難題も抱えていました。しかし、敷地に三角地があることで、思わぬ形で思考のブレークスルーを可能にしてくれました。三角地に階段室を半島型に突き出すことで、LDKを桜並木側に近づけるプランが可能になり車の駐車スペースも生まれるといったアイデアを思いついたのです!
このアイデアを元に基本構想がまとまりました。今回のこの住居の基本構想は、不利な敷地条件を魅力的なプランに変えてしまう逆転の発想が核心となりました。
この基本構想を元にプランの各部を詰めていくことで、従来にはない新しいことが生まれました。何かにチャレンジすることは成長を実感するもので、とても楽しいことですね。