連載記事
※毎週火曜日に掲載
本瀬齋田建築設計事務所
テーマ vol.3基本構想が生まれるまで(アイデアとの出会い)
「風景を翻訳しデザインする」
私が初めて富山に訪れてから、気付けば間もなく10年が経つ。県内において、今でも尚、心躍る風景や構造物と多く出会えている。最近では、横江頭首工(立山町)を訪れた。特に、水に関連する自然地形や土木構造物は、建築スケールとかけ離れた構造物の迫力やチカラの流れを目の当たりにでき、新鮮な空間体験が多く得られるため好みである。
風景や構造物を“カッコイイ”と感じるとき、その魅力が何によってつくられているのかを分析できれば、空間のデザインに活かすことができる。場所や地域特有の“カッコイイ”との出会いこそがアイデアの源でもあり、昨今我々は、その魅力を建築や空間へ翻訳したデザインに関心がある。それらの出会いから基本構想が生まれたプロジェクトを紹介する。
「消滅集落のオーベルジュ」
多雪地域では、“雪割”や“雪囲い”など特有の設えが用いられる。また、斜面の隙間に連なる山間部ならではの建ち方は、地域ならではの魅力ある街並みをつくりだす。これらの風景を翻訳し、特徴的な屋根形状をもつ分棟配置を採用することで、かつての集落の風景や周辺環境との親和性が高いオーベルジュのデザインを試みた。また、集落で使用された家具や建具、外装材等を使い直し、間仕切りやカウンターに用いることで、この地での生活の記憶が感じられる空間を実現した。
「サンカクジム」
立山連峰の稜線は美しく、直接的なモチーフとしてデザインに採り入れられているものを散見する。ここでは立体的に連なる山々の隙間の空間を翻訳して再現することを試み、幼少の頃に憧れた“西遊記”の絵本の孫悟空のように、山から山へと跳び回る遊具のデザインとして採り入れた。同時に、冬季の風物詩でもある雪つりをモチーフとした構造にすることで、大きな立体遊具でありながら住宅の庭先のような、親しみやすいランドスケープデザインを実現した。
「郷の納骨ロッカー」
より小さなスケールの風景として、既存建物との出会いがアイデアにつながる場合もある。ここでは“端正な垂木”と“反りのある屋根”という寺院建物の特徴を翻訳し、外観と調和する内装デザインを試みた。宗教的なモチーフではなく、建築的な言語を翻訳したデザインにすることで、慰霊空間の格式を保ちつつ、敷居を下げる、人々が集いやすい空間を実現した。
場所や地域特有の魅力を翻訳し採り入れることで、その地域性を活かした、富山や北陸らしい「地域ならではの風景づくり」につながる建築や空間デザインを目指している。
冒頭の横江頭首工も、いつか翻訳と建築化を実現させてみたい。