連載記事
※毎週火曜日に掲載
studio SHUWARI Inc.
テーマ vol.3基本構想が生まれるまで(アイデアとの出会い)
「アイデアはどこから来るかわからない」
今回の「アイデアとの出会い」というテーマをいただき、正直困ってしまいました。なぜなら、自分がどのようにアイデアを出しているのか、考えても心当たりがないのです。クライアントとお話ししている時、敷地やその周辺を歩いている時、Pinterestで事例を収集している時などはもちろんですが、寝ている時や、家族で出かけている時にアイデアが生まれることもあります。
僕がまだ勤めていた頃、遠い昔のプロジェクトのことをふと思い出しました。「Osteria LIU(2008年)」というイタリアンレストランで、店舗の内装からグラフィックデザイン、メニュー表のデザインまで手掛けました。
その店舗は半地下にあり、緑に囲まれたガラス張りのテナントでしたが、フロアの真ん中に太い柱があり、せっかくの開放的な雰囲気を阻害する要因となっていました。その太い柱の存在をどうにか消す方法はないかと考えていた時、一枚の絵画に出会いました。
羽ばたく鳥のシルエットの中に、青空が広がる空間の構造にヒントを得ました。柱に樹木のシルエットを型取ったミラーを設け、周辺の緑を写し込むことで、柱の中にさらに緑が感じられる空間構造を作りました。これにより太い柱の存在感がなくなり、小さな中庭のような実在しない空間が店内に生まれました。
この時に感じた建築意外の領域からもアイデアのヒントが生まれる体験が、今の自分の発想のルーツのような気がしています。ちなみに「Osteria LIU」は名古屋市にあり、今ではなかなか予約の取れない超人気店となっています。
私が独立して間もなく、東京の代官山にてチーズショップをデザインする機会をいただきました。デザインをする中で、カットして店頭に並ぶ前の丸のままのチーズの形状がとても愛らしいと思うようになり、店内で使用するチーズ形の椅子を、黒部の倉井家具工房さんに製作してもらいました。
その名も「Fromage」というスツールで、シナ合板を積層し旋盤で削り出すことでチーズのように滑らかで愛らしい形状にしました。このスツールは工芸都市高岡クラフトコンペティション2016にて入選し、今でも受注販売を受付けています。
今回挙げた2つは特に極端な例かもしれませんが、日常のどんなところにアイデアの種が埋まっているかわからないということを伝えたいと思いました。
新しいプロジェクトが始まったら、まずは要望や敷地条件などを頭に入れた状態でしばらく日常を過ごすことにしています。プロジェクトのことを考えながら日常を過ごすことにより、日常のすべてがアイデアの種に見えてきます。また、様々なプロジェクトを同時進行することでアイデアがクロスオーバーすることもあります。
これから建築を志す皆さん、建築の知識だけでなく、アートや日常の些細なことにも関心を持って過ごすこと、そこで得た経験を編集し、自分のオリジナルな空間に落とし込むことを心がけてみて下さい。日常がより楽しいものになるのではないかと思います。