連載記事
※毎週火曜日に掲載
DOKO一級建築士事務所
テーマ vol.3基本構想が生まれるまで(アイデアとの出会い)
「アイデアはふとしたところにある」
設計をするにあたって、基本構想が出来上がるまで様々なことを考えます。
建主の要望・土地の持つ環境等の設計要素、それらを踏まえつつ、まずはインスピレーションで構想を進めます。そのインスピレーションを基に、縦に考え横に考え進めて行く中で断片的なアイデアが生まれ、他の要素が加わり、新たに生まれる小さなアイデアを組み合わせながら、最終的な基本構想が出来上がっていきます。
その小さなアイデアを生む為の元になっているものは、ふとした所にあります。とある街の建物の重なりであったり、空と構造物の境目であったり、目に留まった小さな雑貨のカーブであったり、木の幹の形や偶然にできた物の欠けであったりします。目に入る美しいディテールや面白い形が、アイデアを生む元になっています。
大きなアイデアは、多くの建築家が同じことを言うかもしれませんが、何度でも敷地へ足を運び、何か見逃してないか、その場の空気を感じることで生まれていると思います。
一方で、初めて敷地を見た時、最後まで絶対に揺るがない基本構想の軸が出来ることもあります。その場合は、その軸を中心に基本構想を練ります。一つの例として、「この風景を切り取りたい」という軸が決してブレることがなかったお話をしたいと思います。
建主が生まれるずっと前から存在していた住まい。
長い間歴史を重ねた場所に「梅の木」がありました。毎年実をもたらし、家主は丁寧に実を取り、梅を楽しみます。ですが、「梅の実」を味わうことはできるものの、「梅の木がある風景」を楽しむことができなかった住まいでした。新たに考えた住まいでは、絶対にこの「梅の木」のある風景を楽しんでもらいたい。そう思って基本構想に着手しました。
一つのヒントとなったのは、敷地を見に行く前に目にした桂離宮だったのだと思います。
風景を切り取る、距離を取る、目線の高さを変える。少しずつアイデアを付け足しながら削ぎ落としもします。この住まいの基本構想は、最初から最後までこの「梅の木」が中心に進みました。
今回この文章の依頼を受けて、アイデアの元になるふとした美しいもの、面白いもの、カッコいいものに目を向けて、新しい刺激(アイデアの元)が必要であるし、出会い続けないといけない!と改めて感じました。その時その時で、決して同じではない出会いを大切にしていきたいです。