連載記事
※毎週火曜日に掲載
中斉拓也建築設計
テーマ vol.3基本構想が生まれるまで(アイデアとの出会い)
「アイデアを丁寧に紡ぎ合わせる」
私は2012年に事務所を立ち上げてから今年で9年目を迎えています。この間、多くのクライアントに出会い、住宅・店舗・オフィスなど様々な設計をさせてもらいました。
どのプロジェクトにおいても最初にヒアリングがあります。この時に使っているルーズリーフタイプのメモ帳は真っ白なページがなくなるたびに紙を買い足し、1軒目のヒアリングからずっと使い続けている大切なアイテムです。僕にとっては、これまでのクライアントの想いがたくさん詰まっている宝物のようなもの。要望は基本構想の礎です。このメモ帳を携えてのヒアリング時には、全集中でクライアントの要望を聞きながら、一旦、自分の中で整理して、短い言葉で端的に記していくことで、プレゼンまでの約3週間、ほぼすべての要望を頭の中に記憶しながら生活します。
そして、ここからプレゼンの準備へと向かうわけですが、ヒアリングと現場調査が終わって数日は、あえてなにも考えずに過ごします。そこから少しずつ、考えを巡らせていきます。大まかなコンセプトやアイデアがパッと思い浮かぶときは、大抵シャンプーをしている時か車を運転しているとき。この閃きが基本構想の軸になることが多いですね。
その後で、初めてペンを持ち、芽生えた考えをエスキースで何本も線を描きながらまとめていきます。ただ、壁にぶち当たり、白紙になることもよくありますが、そこで粘らずに手を止めます。机の上で長時間、頭を悩ませながら考えこんでも閃きには出会えないので、一旦机から離れます。この過程を繰り返しながら、少しずつカタチが見えていき、最後は一気に描き上げます。
しかし、たった1回のプレゼンをして、基本構想が決まるわけではありません。そこからまたクライアントとの会話を重ねていくなかで芽生えてくるアイデアや生活のなかで出会うアイデアの種を大切に、一つひとつを丁寧に紡ぎ合わせながら、時にそぎ落とすこともしながら、基本構想が完結していきます。
最初に着想したアイデアからぶれることなく、発展的に巧く結実した事例をいくつか紹介します。
「アーキテック新社屋」
「美乃鮨」
「旭町の住居」
アイデアとの出会いは、いろんなところに潜んでいます。クライアントとの会話の中、敷地環境や歴史はもちろん、日頃の生活の中、自分の体験体感、自然など、その在り処は様々なので、自分の中で感度のいいアンテナを立てながら生活することがとても大切だと思います。でもずっとアンテナを立てっぱなしというのも疲れますよね。
僕自身のアンテナも、時々、感度が落ちたり、圏外になったりすることもありますが、そんな時間も含めてすべてが必要な過程だとも思います。
すべてはクライアントの夢の実現のために。