連載記事
※毎週火曜日に掲載
水野建築研究所
テーマ vol.3基本構想が生まれるまで(アイデアとの出会い)
「アイデアの引き出し」
見るものすべてが真新しかった学生時代は、雑誌を見ては自分がその建築家になったつもりで設計していました。一人の建築家の作品集を何度も見直し、この空間をつくるには彼だったらどうするのかなどと考えながら回答を探し出す。そこで行き詰まったら他の建築家の作品集を見る。。。この繰り返しだったと思います。そうこうしているうちに、自分の好みもはっきりとしていき、現在の基礎を作っていったのかなと思います。
実社会に出てある程度経験を積んでからは建築家ではなく、技術力の高い組織事務所やゼネコンのディテールの作り方などに興味を持ちました。入社してすぐに「ディテール」という雑誌を50冊ほどまとめ買いし、傍らにおいては設計の際に参考としていました。また、その頃は一般的な建築雑誌ではなく、海外の本を中心に読んでいました。自分に足りないものを補って、常に刺激を受けるような環境にしていたのだと思います。
こうして、せっせと引き出しにため込む作業をすることで、必要な時にアクセスし、アイデアが出やすくなるような地盤を作っていきました。普段は設計条件などをもとにクロッキー帳で手描きのスケッチなどをしていますが、あるとき良い案が突然ひらめくことがあります。さらには寝起きだったり、入浴時だったり、運転中だったり。大胆なアイデアは、ふと気が緩んだ時に浮かぶことが多いようです。
そして、その時のアイデアを忘れることが無いように身の回りにはメモを取れるようにしています。もっとも最近ではスマートホンやタブレットである程度のことができるので助かっています。このパズルが解けたときのような爽快感がこの仕事を続けられる源かもしれません。
最近はネット環境の発達が著しく、スマートフォンで検索すると、様々なデザインにたどり着くことが出来ます。しかし、そこには設計者の意図が書かれていなかったり、書いてあっても断片的で設計意図を十分に知ることができないことがほとんどです。自分の嗜好を見つけるための検索ツールとしては申し分のないデバイスですから大いに利用し、検索した後のフォローとして、書籍などを通じて設計意図なども含めた知識として皆さんの引き出しに保管して下さい。その方がアイデアとして呼び戻しやすくなります。
最後に紹介する「ななめ壁の家」はコロナ禍において設計が一時中断し、その間を利用して再計画した住宅です。ほぼ図面は完成していましたが、一旦計画を白紙に戻し、そこから新しいアイデアが生まれ1か月で再計画できたのも、自分の引き出しがアイデアの素で満たされていたからに違いありません。