連載記事
※毎週火曜日に掲載
studio SHUWARI Inc.
テーマ vol.4建築と都市(周辺環境との関係性)
「つくらない建築」
「建築と都市」というテーマをいただき、自分たちが住む富山市という都市について考えるとき、大規模な開発や大きな建築をつくることとは少し違った都市へのアプローチができるのではないかと考えるようになりました。
それは、既存建物の使い方を工夫することで建築と都市の新しい関係性を生み出す試みです。まず手始めに、路面電車沿線にある自分の事務所の1階に大きなキッチンを設置し、「RAIL SIDE TABLE」と名付け誰でも利用できるように開放してみました。プライベート空間をセミパブリック空間に変えて路面電車と接続するイメージです。
これまでにパーティーや会議、お花の教室、料理教室、テレビ番組の収録など様々な使い方をしていただいています。また、ここでの会合の後、路面電車で移動してまちなかに飲みに行くなどの新しい動線も生まれ、まさに小さな古ビルが都市と接続された感覚を味わうことができます。https://www.railsidetable.com/
また、今年の3月に「イノスペ(TOYAMA INNOVATIVE SPACE DAY)」というイベントを富山市主催で開催しました。富山市内の住居でも店舗でもない、新しい価値を生み出している5つの空間を路面電車とオンラインで繋ぎ、講演やワークショップなどを行うというものです。第1部では、株式会社ロフトワーク代表の林千晶氏にRAIL SIDE TABLEでご講演いただき、他会場へオンライン配信をしました。大きな会場での講演とは一味違い親密な雰囲気の講演で、質問なども沢山出ていたように思います。
第2部は各会場でミニイベントを実施、それぞれ工夫を凝らし、施設毎の個性が最も表現されていた時間だったと思います。第3部では全ての会場をオンラインでつなぎ、一つのテーマについてのワークショップを実施しました。面白かったのは会場によって参加者の取り組む姿勢や出てくる意見の内容が全く違ったという点で、空間の質が人の心に与える影響の大きさを感じました。これも大きな会議室などでは味わえない体験だったと思います。
このイベントを通して、目的や機能、集う人々の人種も異なる5つのスペースが路面電車によって繋がることにより、一つの建築のようになりました。
https://sketch.lab.city.toyama.toyama.jp/special/isd2021
富山市内は空き家や老朽化し建物も多く、安全性や社会性の観点から更新することが急がれていますが、全てが画一的なマンションや商業ビルへと更新することが良いと感じられないし、その脆弱性を近年目の当たりにしています。
私たちが今都市にできることは、次世代に真の賑わいやカルチャーが詰まった豊かな都市を残すための種まきなのではないでしょうか。そのためにこのつくらない建築をどのように拡張していくか、今まさに模索中です。
最後に、誤解なきように記しておきますが、私は開発を否定する訳でもリノベーションを推進したい訳でもありません。中身の詰まった面白いプロジェクトは是非やりたいのでお仕事お待ちしております!