連載記事
※毎週火曜日に掲載
中斉拓也建築設計
テーマ vol.4 建築と都市(周辺環境との関係性)
「クライアントと都市に対する使命感」
建築と都市。このテーマを聞いて、まず浮かんだ言葉がありました。それは「建築家 吉村順三のことば100 建築は詩」に綴られているこんな言葉です。
「自分のデザインする住宅1軒から、街並みを変えていくんだよ。それくらいの気持ちでやらなきゃ、何もよくなっていかないよ。建築家には、そういう社会的な責任があると思うね。そして、良いデザインの基本は、プロポーションしかないと思います」
前を通る人々の目にさらされるという意味では、住宅も公共建築であることを気付かせてくれる言葉です。難しいことをあれこれ考えるより、まずはこの気持ちを大切にしたいと常々、私は思っています。建築は都市空間をつくる一つの要素です。周辺を含めた環境づくりに目を向け、“全体”をより良くしていく――。住宅1軒をどんな意識で設計するか、そんな些細なことがパブリックデザインというものに繋がっていくと信じています。
そして、もう一つ言葉を紹介。こちらも「建築家 吉村順三のことば100 建築は詩」の中からです。
「建築家として最も嬉しい時は、建築ができ、そこに人が入って、生活がおこなわれているのを見ることである。日暮れどき、設計した住宅の前を通ったとき、中に明るい灯りがついていて、一家の楽しそうな生活が感じられるとしたら、それが建築家にとっては、最も嬉しい時なのではあるまいか。家をつくることによって、そこに新しい人生、新しい充実した生活が営まれるということ。店舗や会社ならば、新しい繁栄が期待される。そういったものを、建築の上に芸術的に反映させるのが、私は設計の仕事だと思う」
クライアントから夢を託され、都市の中に建築をつくることが私たちの仕事です。大きな使命感を背負いながら、クライアントに寄り添い、それと平行して、周辺環境(都市)にも配慮しながら設計を進めなければいけません。この言葉に都市の中に建築をつくる人間としての心得のようなものが凝縮されているように感じます。
昨今はコロナによって、都市や建築に対する考え方も変容しつつあります。それでも自分のなかで大切にすること、核となる部分は変えることなく、1軒1軒、しっかりとクライアントと都市に対する使命感をもって設計していきたいと思っています。