連載記事
テーマに沿って、12名の建築家が建築設計に対する想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第1弾のテーマは「建築設計との出会い」です。
※毎週火曜日に掲載
(有)青山建築計画事務所
テーマ vol.1 建築設計との出会い
「小学生の時に出会った一冊の雑誌」
人生がおもしろいのは様々な出会いがあるからです。出会いに導かれて人は自分の中の節目を作っていくのだと思います。
55年前、私が育った家はいつも木を刻み加工する音が聞こえる大工の家でした。父は新しい時代の家を作りたいと当時「新住宅」という住宅雑誌を定期購読して新しい建築文化を学んでいました。どの家も同じ形の伝統的家屋が当たり前だったその時代に「新住宅」誌には真っ白でモダンにデザインされた住宅や屋根が平らな家など、私が見たこともない家が掲載されていました。新潮流の新しい住宅が載っていたのです。小学生だった私はこの雑誌が届き、今度はどんな家が載っているんだろうと新号が届くのがとても待ち遠しかった。これが私にとっての最初の建築設計との出会いでした。新しい見たこともない形の家を見つけることが楽しく、雑誌の隅から隅まで読みました。もちろん小学生ですから難しいことは分かりませんでしたが、建築デザインという世界に魅了された小さな自分がそこにいました。
ある日、近所に水道局の新しい建築ができているのを発見しました。何んと!それは「 新住宅」誌で見た真っ白で直線的で屋根が平らな建物だったのです。雑誌で見たものと同じ実物の建築を見たことに興奮して毎日々々、学校帰りに立ち寄って建物をゆっくりと眺めて、とても幸せな気分で満たされた記憶があります。
車や電化製品のデザインを見るのも好きでした。小さいときの好みは無意識に感受することが多いので、デザインの何たるかも知らなくても私はデザインされた形を見るのが好きだったのでしょう。その延長線上に建築設計があり、大学は建築学科に進学しました。
建築設計は設備や構造、法律や経済性など様々な要素のバランスが大切で形態的なデザインが他より優先されるものではありません。後々分かっていくのですが、建築設計でもっとも大切なことはクライアント(注文主)の利益を最大にするだけではなく社会的利益にも合致するアイデアを実現することなのです。そのことに気づかされた出会いも後年たくさんありましたが、若い時期の経験でもう一つ上げるとすれば、それは大学時代のことです。
学年が上がるごとに建築の楽しさに魅了された大学時代、3年時に友人2人と当時の建築設計界のレジェンド今井兼次先生の講演会開催と全著作集の編纂に取り組みました。半年ほど資料集めに飛び回り、資料の編集やその読み込みにかかりきりの毎日を過ごしました。
一人の建築家が辿った思想と建築を成す行為の記録を前にして、建築と建築家が成し遂げるこの仕事に大きな醍醐味があることを初めて深く感じたのです。大きな体験でした。
これまでいくつもの出会いに導かれ自分の節目を作ってきました。
若年時の出会い、修業時代の出会い、熟年時の出会いなどどれも大切な想い出となっています。これからも出会いの気づきを感受するセンスを持ちながらまだまだ成長したいものです。