連載記事
※毎週火曜日に掲載
山田哲也建築設計室
テーマ vol.4建築と都市(周辺環境との関係性)
「街と住まいの境界」
いつもなら締め切り1週間前に編集者からのリマインドがあるので、連絡を受けてから考えようと思っていたら、今回は締め切り当日に連絡があるというまさかの展開で、慌てて考えています。
ネタを探しに皆さんの記事を読むと、「景観・外観」を視点とする方と、「人や街との繋がり」を視点とする方の2つに分けられると思いました。私は今回のお題について、どちらかと言えば後者のイメージが浮かびました。
私は非常講師を務めている大学で、2年生に建築設計を教えているのですが、学生は初めて自分で建築を設計するので、何から手を付けてよいのか分からない学生がほとんどです。
ですので、毎年私が担当した学生には考えるキッカケとして、まずは「関係性」をみつけてもらいます。例えば最初の課題は、金沢21世紀美術館近くを敷地としたギャラリーを併設したカフェで、この中にどういった関係性があるかを問います。すると、「客と店員」「客と客」「敷地とその周囲」…など、いくつかの関係性が挙がります。
それらの関係性に建築がどのように寄り添えばいいか考えて欲しいことと、建築は用途上求められない限り、関係性を「切る」存在であってはダメで、君が設計した建築が一つでも多くの関係を「つなぐ」存在になる事を目指してほしいと伝えています。そして、それは自らの設計においても大切にしている事なので、後者のイメージが浮かんだのだと思います。
設計をしていると、「素材と肌」の小さな関係性から、「建築と周辺環境」の大きな関係性まで多岐にわたります。ここからは、今回のテーマである「周辺環境との関係性」について考えた事に触れたいと思います。
前回取り上げた「笹倉の家」では、住宅の中に土間(みち)を通す事で、住まいと街の境界を曖昧にして、施主と近隣住人に積極的に関係を築けるようにしました。
「布瀬町の家」では、中庭形式の住宅を要求されましたが、密集地でもない場所で周囲と関係を切るような住宅を提案したくなかったので、要求された諸室を分棟配置にして中庭を形成しながら、隙間から少しだけ生活の匂いを感じられる住まいを設計しました。
また、分棟配置にすることで生じた前面道路側のズレの部分には近所の人に開放されたテラスと前庭を設けて、近隣住人との接点を造っています。
笹倉の家も布瀬町の家も手法は違いますが、境界を緩める事で人や街との接点をつくっています。この接点を建築的にどう造るかは大きな課題でもありますが、これがちゃんと解く事ができれば副産物的に存在する街の隙間が減少して、もっと魅力的な街ができるのではないかと思います。
そんな期待を持ちながら、これからも敷地内で自己完結するのではなく、周囲との繋がりを持った建築を設計したいと思うと同時に、最終回の締め切りをスケジュールに登録して今回は終わりたいと思います。