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ラボ
早速ですが、「鳶(とび)」のお仕事のルーツを教えてください!
利根川さん
鳶の言葉が生まれたのは江戸時代と言われています。その頃から建築現場で足場の仮設や棟上をしていましたが、「火事と喧嘩は江戸の華」と言うように、火事が起きると火の広がりを止めるために、一番乗りで駆けつけるのが鳶だったんです。
ラボ
江戸の町では、まさに“花形”だったんですね。
利根川さん
命知らずのイケイケな奴が揃っていたので、梯子に登って火の元を見つけたら、他に燃え移らないように屋根に上がって、周りの家を壊していくのが鳶の主な仕事でした。他の男たちが怖がるようなことをなんでもやる、粋な奴らが鳶に集まっていたんです。
ラボ
いま現在の鳶のお仕事とは?
利根川さん
鳶職人にも色々なジャンルがあり、重量、鉄骨、足場、立ち前、橋梁など…。本来は何でも出来るのが鳶職人と言われるのですが、今は「足場屋=鳶職人」が主流ですね。当社も足場の組み立て・解体がメイン。住宅の新築や塗り替えの際に必要な足場や山岳地の法面の足場など様々です。
現在は、富山駅前で建設中の10階建てホテルの足場工事を請け負っています。工事の進行と同時に、足場を崩しては組み立てる。この連続なのでウチの職人は毎日現場に張り付いています。
ラボ
利根川さんにとっての鳶の魅力を教えてください!
利根川さん
住宅や橋の塗装であれば、ペンキを塗り終えたら足場を壊します。その瞬間に家や橋のキレイな姿が露わになる。せっかく苦労して組んだ足場なので取っておきたいんですけど、足場を壊すことによって全てが完成する。少し儚いんですけど、そこに美学があります。大きな建築や橋を見て、「あの足場はどうやって組んだのだろう?」と想像してもらうのも面白いかなと。自己満足の世界かもしれませんね(笑)。
ラボ
鳶の職人技とはどんなところですか?
利根川さん
組みやすい場所から進めると必ずどこかでつまずくので、まずは完成図を描く力が必要です。そこから逆算していかに作業を進められるかがポイント。山間部であれば、自然との戦いが待っています。今年の冬は一晩で47cm降った日もあったので、除雪した後に足場を組んで、またその夜に45cm積もって…の繰り返し。辛いですが、それでも仕事としてやらなければいけません。前進あるのみです。
利根川組に入社して15年目の室川拓也さん。社長の右腕として現場を取り仕切っています。「この10階建てのホテルは、建物の基礎部分と地下を支えるための地中梁を採用した工事で、着工から1年以上経過しています。鉄骨が建ち上がってきたらバラして、また新たに組んでいきます。多い時は足場工事だけで15人体制です。
中心街の限られたスペースの中で、いかに安全かつスムーズに工事が進むかを考えながら施工しています。現場によって条件・環境が違うのでそれぞれの難しさがあります。足場をバラした後に全体を見渡した時、『仕上がったな』と達成感が湧いてきます。足場に登って、自分達にしか見ることの出来ない景色があります。これも喜びの一つですね」。
ラボ
鳶職人として、大切にしていることを教えてください。
利根川さん
鳶の世界には、「義理と人情とやせ我慢」。こんな言葉があります。人に対して暖かく接したり、人からの無理難題な頼まれごとも自分の気持ちを押し殺して「やります!出来ます!」と返事をした方が相手も気持ち良いじゃないですか?こうした昔からの粋な精神を大切にしています。
ラボ
利根川さんが考える「良い足場」とは何ですか?
利根川さん
私たちの仕事は、(職人の)皆さんが安心安全に仕事をするための現場の要だと思っています。建物と足場の離れは基本30cmですが、出窓や室外機がある時は、図面を見て先に想定しながら組んでいく。足場を利用するのが大工さんなのか、板金屋さんなのか、塗装屋さんなのか。誰がどう使うかをイメージしながら常に足場を組んでいます。
ラボ
私は高所恐怖症(※職人タイムスVol.1参照)なので、高い所で仕事をする鳶職人にはなれそうにありません…(苦笑)。
利根川さん
大丈夫ですよ!私も高いところ大嫌いなので(笑)。観覧車ですらダメですから(汗)。
ラボ
意外ですね!?(笑)。利根川さんは若手鳶職人が集まる「若鳶会」の会長をされていたとお聞きしました。お祭りなどで梯子の上に登り、難易度の高い技を披露されていると。
利根川さん
若鳶会の会長は10年間務めましたが、毎週いろんな会社の職人が集まって梯子登りの練習をしています。高所なので危険は伴いますが、万が一落ちた際の対処も全て事前に決めているので大丈夫です。元々、目立つことが好きなので楽しいですね。全国に組織が広がっており、災害時など困った際はお互い助け合い、仕事を超えた繋がりが出来ています。
ラボ
今後の夢を聞かせてください!
利根川さん
私がそうだったように、若者には将来こうなりたいという夢があるはずです。社員が年齢を重ねて肉体的に現場を離れなきゃいけない時、当社が母体となって社員の第2の人生をサポートし、それぞれの夢を応援してあげたい。ずっと付いてきてくれたスタッフたちに「自分と出会ってよかった」と思ってもらえること。それが私の夢ですね。
ラボ
最後に職人を目指す若者に一言お願いします!
利根川さん
どんな人も“天職”がいきなり降ってくることはまずないです。興味が無くていざ飛び込んだ世界でも、その世界のイイところが見えてくる。入ってみたら意外と「いいじゃん」と。まずは興味を持って、自分が決めた世界に飛び込んでみること!コレが大事じゃないかなと思います。