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ラボ
まずは、坂口さんが大工の道を選んだきっかけを聞かせてください!
坂口さん
高校を卒業し、木材問屋で3年間サラリーマンをしていたのですが、その業界が著しく“下り坂”で(笑)。将来が見えないな…と思っていた時に、父が大工をしていたので相談してみたんです。そうしたら「じゃあ一緒にこの仕事をやろうか」と。
ラボ
では、「大工に憧れていた」わけではなかったんですね??
坂口さん
ですね。幼い頃は材料を運んだりと、しょっちゅう手伝いをさせられていたので正直言うと、大工は嫌いでした。ただ、絵を描いたり、木の端材でいろんなものを作ったりするのは好きだったなあと。最初は、どうしてもやりたい!という感じではなく、やってみても良いかな…という。
ラボ
下積み時代は辛かったですか?
坂口さん
建築系の学校や職業訓練校も行ってないので、全く何もわからないわけです。本当に。父も昔ながらの職人で、「見て覚えろ」タイプですし、職人さん同士の会話も何を言っているか理解できない、さっぱりわからない(笑)。一人前になるまで、他の人よりも時間がかかったと思います。ただ親に「大工をやる!」と言ってしまった手前、やり続けなければいけないという一心でした。3〜4年は、言われたことをただひたすらこなしていましたね。
ラボ
大工の面白さを感じ始めたのいつ頃ですか?
坂口さん
20代半ばですね。今はプレカット(あらかじめ工場で切断した木材を現場で組み立てる方法)が主流ですが、父はカンナやノミ、丸ノコを使った昔ながらの「手刻み」にこだわっていました。私もその技術の習得に励み、「墨付け」や「刻み」の技が少しずつ出来るようになった時に、「もっと手刻みの深み、伝統的な方法を教えて欲しい!」と父にお願いし、気づけば「もっと技を極めなければ」と、そんな気持ちになっていましたね。
ラボ
今の時代にあえて「手刻み」の仕事にこだわる理由は何ですか?
坂口さん
手仕事のぬくもりです。曲がった木の加工や釘を使わない木組み。機械では絶対出来ない技術をあえて「化粧現し」と言って見せることで、素材のぬくもりや人の手が加わった温かみが伝わってくると思います。
坂口さん
プレカットであれば工期も1ヵ月ほど早いですし、コストも抑えられるうえ、さほど技術力もいりません。ですが、それではハウスメーカーさんや他の工務店さんとの違いを出せません。自分自身、大工として生き残るためには他にはない「違い」が大事になってきます。
ラボ
手刻みの一番大変なところはどんな部分ですか?
坂口さん
全て自分で墨付けをして、加工して組み立てる。どの工程においても寸分の狂いも許されない。恐くて眠れない夜もあります。刻みが狂っていると、絶対に建ちませんからね(笑)。よく運転中に、「自分ならできる、できる!」と鼓舞しながら乗り切っていたこともあります(笑)。それだけに無事上棟したときは、嬉しいというよりも「ホッと」するという言葉が近いかもしれません。ただ、この経験が自分の自信に繋がっていくんです。
ラボ
それだけのプレッシャーを抱える反面、やりがいがありそうです!
坂口さん
お施主さんに、梁の丸太を気に入ってもらえて「この丸太を見てるとお酒が進むよ!」と言われたのは嬉しかったですね(笑)。お陰様で今は忙しい日々を送っています。
ラボ
坂口さんは若手大工さんの育成にも尽力されているそうですね!
坂口さん
若い大工さんでも、親方がハウスメーカーの下請けをしている場合、プレカットの組み立てはできるけど、家一棟を自分の力で建てられるようにはなりません。手刻みの良さはそれができるということ。リスクが大きい分、一人で一棟建てる醍醐味を知ってもらいたいので、自分の技術を若い大工さんに伝える場を設けるようにしています。
ラボ
最後に、職人を目指す若者に一言お願いします!
坂口さん
やる気が全てです。僕自身、建築系の学校を出ていないですし、やる気と我慢強さがあれば絶対職人になれます。今はネットで調べれば何でも出てくるので、なんとなくすぐに出来る気がする。けど、実際はそうじゃない。1〜2年で諦めるんじゃなくて、最低3年は我慢して続けて欲しい。大工は手刻みに込める想いや気持ち、面白み、そしてハラハラドキドキ感があります(笑)。家づくりの最初から最後まで見届けられるので、現場管理のスキルと圧倒的な技術を身につけることができる。そこが大工の魅力です!