連載記事
※毎週火曜日に掲載
本瀬齋田建築設計事務所
テーマ vol.5建築設計の楽しさ
「世界にさわる」
ケンチクノワもいよいよ最後になりました。今まで富山の様々な世代の建築家の方々のお話を読むことができ、読者としても楽しみにしていたので名残惜しいです。対面でお話ししてもなかなかお聞きできない内容ばかりで、活字の力を感じました。この場が次の若い世代へと繋がっていくと良いなと思います。
富山で建築の仕事をするようになってから、今まで設計事務所がやらなかったような仕事に取り組むことが増えました。それは、駅などの公共施設への飾り付けや結婚式の設え、展覧会の会場構成などの仕事です。
これらは、建築に比べて短期間しか使わない仮設的なものですが、既にそこにある空間をどう使うかという「つくる」とは逆の「つかう」視点から考えるのが面白く、誰でも簡単に組み立てと撤去ができて、安全なものである必要がありますし、出たゴミをどうするかなど、色々と工夫する余地があり、建築設計と変わらないモチベーションで取り組んでいます。
仮設物は建築よりも頼りないものなので、周囲の影響を大きく受けてしまいます。例えば、屋根付き広場で行った屋外の写真展では、風の影響が大きく、大きなパネルを立てると倒れてしまい、紙のみで掲示すると歪んでしまいました。写真をどのように支持するか、現地に写真を持って行って色々と実験しました。
最終的には写真の上下にバーを挟んでクリップで留めることで上手く展示出来たのですが、実際の会期中には想定以上の強風が吹き、写真がバタバタと動いてしまい、揺れ留めの重りがすぐに絡んでしまいました。次の開催時には写真の固定を少しだけ強くして、風の影響が少なくなる配置にするなど、毎年、展示方法を少しずつ改善していきました。
こうした仮設の仕事では、周りの影響が大きい分、そこにどんな人達が行き来しているのか、どんな風が吹くのか、太陽がどう動くのかをより強く感じます。そして、それらをデザインに落とし込むことを通して、その場所や人についてより良く知ることができると思います。
これと同じようなことが建築の設計でも言えると思います。施主との話し合いや敷地の観察をしながら、設計やデザインを考えることによって、使う人がどんな人なのか、そこがどんな場所なのか、自分の先入観やデザインの定石を超えて、より良く知っていくことが建築設計の楽しさの一つだと思います。
そして、自分の思い通りにならない時ほど、自分の殻を破って、外の世界に触れることが出来る良い機会だと思います。先生に作品を分かってもらえない。施主と意見が合わない。というような悩みを持つ人もいますが、そんな時こそチャンスです。先生や施主、自分とは違う意見の中に、今まで知らなかった世界がきっとあるはずです。