連載記事
※毎週火曜日に掲載
dot studio一級建築士事務所
テーマ vol.5建築設計の楽しさ
「つくる喜び、見る幸せ」
約1年間続いてきたケンチクノワの連載も今回でいよいよ最後となり、寂しくもありますが、どこか気分は爽快です。
建築設計の仕事は、クリエイティブな構想をする時に楽しさを感じますが、地味な事務作業をしている時もクリエイティブのための時間と思うと不思議と楽しく、「苦しいな」と感じることはごく稀で、振り返ると辛い記憶はほとんどありません。中学2年生で建築設計を仕事にすることを志し、これまで25年ほど建築設計と向き合ってきました。
ただ、学生時代は本当に苦しい時があり、何度か別の道に進もうかなと思ったこともありました。しかし、仕事として建築設計と向き合い始めてからは不思議とその想いは消えました。今考えると、その差はプロジェクトを一緒に動かすクライアントや仲間、チームがいることかもしれません。
学生時代は建築家の思考を学ぼうと沢山の本を読み、いろんな空間を体験して周りましたが、有名建築家の圧倒的な空間を目にした際、建築家への道の果てしなさを感じて挫折しかけたこともありました。
ケンチクノワの1回目でもお話しましたが、実家の建設計画で自分の部屋に天窓をつけてくれた建築士さんがいたことがこの仕事に興味を持ち始めたシンプルなきっかけだったのに、いつの間にか建築設計を学ぶにつれて、大きいことを考え過ぎて勝手にプレッシャーを感じていました。
こうした時期も乗り越え、実務を初めて14年。今では建築設計の仕事と共に、日々とても楽しく過ごしています。
「建築設計の楽しさ」は色々とありますが、自分の経験から鮮やかに思い出すのは、設計した場所を実際に利用してもらっているシーンを見る時かなと思います。敷地を初めて見た時から、人がこの敷地に来る場面を想像して図面を描き始めるので、それが形になって利用されているのを見ると非常に幸せを感じ、その場でこれでもかと言うくらいの時間を過ごしてしまいます。
今富山では、高校生が自分たちで構想したプロジェクトが世代を超えて継続し、実際の空間が生まれようとしています(※蓮町の富山県創業支援施設・UIJターン等住居整備)。大学でも毎年シェルターを実際に制作したり、実際の建物を題材にしたリノベーションプロジェクトや街に対して提案したものが実現するゼミプロジェクトもあります。
学生時代に仲間やチームで実際の空間を実現する体験が出来ることは、自分の学生時代を考えみても本当に羨ましいです。完成した際には、実際に利用者が入る場面を見に行って幸せを感じて欲しいと思います。
今のところ、この「幸せ」を感じることが、僕にとって一番楽しいことかなと思います。