連載記事
※毎週火曜日に掲載
法澤建築デザイン事務所
テーマ vol.5 建築設計の楽しさ
「『楽しい空間づくり』を愉しむ」
「楽しい空間」
空間にはいろいろなキャラクター(性格)があります。カッコいい空間。心地よい空間。神秘的な空間。エキゾチックな空間。シンプルでモダンな空間。古来より建築家は設計プロジェクトの中で、どのような感情を使用者に抱いて欲しいのかをイメージし、空間の性格を峻別してきました。
すなわち「空間」には、建築家(設計者)の理念や趣向が表現されています。私たちの事務所は、「楽しい空間をつくること」をモットーにしています。言い換えるなら、息の詰まるような窮屈な空間、何の出会いもない退屈な空間づくりは絶対にしてはならないという想いで設計をしています。
何が空間を楽しくさせるのか
私が最も「楽しい」と感じた建物は、オランダのロッテルダムにある「マルクトハル (Markthal)」(MVRDV 設計)です。中央にマーケット(市場)を設け、これを取り囲むようにカマボコ形に集合住宅を配置した建物です。私がこの建物の設計案を見たのは、マルクトハルの斜め向かいにあるベルラーへ・インスティテュートに留学している時の事で、このようにシンプルで、明快で、そして「楽しさ」に満ち溢れた建物のデザインに大きなインパクトを受けました。
では、何がその空間を楽しくさせているのでしょうか。窓を開けると、そこにマーケットがあり、その楽しさが建物全体にまで行き渡るようにデザインしているからだと思います。マーケットの各店舗の配置も、単調にならないように不整形で配置されており、その「動き」が「活気」を演出しています。
それぞれの店舗には旬な食材や商品が並べられ、「品揃え」は日々変化します。建物は動きや変化を包み込む「大きな器」として、独特のカマボコ形の形状になっています。まさにマルクトハルはヨーロッパ都市の伝統である広場の魅力やダイナミズムを建物の内部に表現した建物です。とりわけオランダは寒い地域なので、屋根付きの広場があることは市民にとっても喜ばしいことではないでしょうか。
デザイン・コンセプトは異なりますが、富山市の総曲輪グランドプラザもまた、上記の点でマルクトハルに共通している点があり、魅力的な都市建築の事例であると思います。このような楽しさの演出は、マルクトハルのような都市的スケールの建物に限ったものではないと感じています。例えば住宅のような小さな建物においても、「動き」や「変化」を内包した空間づくりは十分可能です。楽しさをつくるために、そこに内包される各要素、そして空間の形をスタディすることが重要なポイントになると思います。
楽ではない設計業務。しかし、愉しむ心が大切。
前述のとおり、空間には設計者の理念や好みが自ずと現れます。したがって、「楽しい空間」をつくるためには、何よりも設計者である私たちが設計業務を楽しむことが必要になってきます。
しかし、実際の設計業務をみてみると「楽しい」と思える仕事は全体の2〜3%程度で、「楽らく」ではない仕事(図面描き、各種調査、各種申請、積算等)が大半を占めています。そこで重要になってくるのは、設計を「楽しむ」ではなく、「愉しむ」ことではないでしょうか。
すなわち、受け身で「楽」を求めるのではなく、「楽しい空間をつくる」という目標のもと、その仕事を愉しむ心を養うことではないかと思います。苦労や苦難は多々ありますが、これらを乗り越えた時に得られる達成感や感動は、設計者としての大きなやりがいです。