MENU

連載記事

連載記事

わかもん

富山工業高校生のプランが基になり、全国に先駆けて整備される職住一体の施設「富山県創業支援施設・U I Jターン等向け住居等(仮称)」が来春オープンします。「わかもん〜高校生のプランが現実に〜」は、「建築家 仲俊治✖️富山工業高校教諭 藤井和弥✖️とやま建設ラボ」の3者によって、この施設が完成されるまでを綴る期間限定連載です。

※隔週火曜日に公開

富山工業高校建築工学科科長

藤井(ふじい) 和弥(かずや)


「建築甲子園」

はじめまして。富山工業高校の藤井と申します。私は「高校生に建築を教える」ことを仕事にしています。

いつもラボを見ておられる方には、高校生だけでなく、大学生や実務の第一線で活躍されている方もたくさんおられるため、この連載のお話をいただいてからというもの、高校教諭の私如きに一体何が語れるのだろう、と大変ナーバスになっていました(日常では高校生を相手にマウントとってばっかりいるのが自覚され辛いところです…) 

しかし、一人でも多くの方にこのプロジェクトを知ってもらいたい、これから建築業界へ飛び込んでいく若い世代(わかもん)を応援して欲しいと思い、この連載を頑張ろうと決めました。普段文章を書くことがないので、上手く伝わるか分かりませんが、どうか「生暖かい目」で見守っていただけたらと思います。

さて、この連載には「わかもん」とタイトルが付けられています。このワードは、今工事が進められている「富山県創業支援施設・U I Jターン等向け住居等(仮称)」の元になった高校生コンペ作品のタイトルにも使われていました。

そのコンペ作品が、第8回高校生の「建築甲子園」(2017年)で全国優勝した作品「夢を描きながら住まうこと〜地域を創るわかもん団地〜」です。第1回目の私のパートは、このコンペの話をさせていただきます。

第8回高校生の「建築甲子園」優勝作品「夢を描きながら住まうこと〜地域を創るわかもん団地〜」

 

建築甲子園とは

まず事業化のキッカケとなったコンペ(高校生の「建築甲子園」)は、公益社団法人日本建築士会連合会・都道府県建築士会が主催する高校生対象の建築の設計競技(コンペティション=コンペ)です。

魅力的な建築を提案する点においては他のコンペと同じですが、「野球の甲子園」と同じように、学校を代表する「チーム」での参加であり、県予選を勝ち抜いたうえで全国大会に出場できること。そして、全国大会では各都道府県代表による「トーナメント方式での審査」となる点が他のコンペと異なります。

また参加する生徒は「選手」、指導する先生は「監督」としてエントリーします。何だか、本当の甲子園を目指す高校球児のような「青春」を味わえたり、全国優勝すると「凄いことを成し遂げた」とフワフワしてしまうくらい、周囲からお祝いのお言葉をいただきました。「甲子園」の名前のおかげもあって、私たちの全国優勝した作品も色々な所で取り上げていただき、注目され事業化に繋がったと言えます。(勿論これには多くの方のご尽力があってこそでした)

全国優勝時、校舎に掲げられた懸垂幕

表彰式での一枚(左から榊原さん、高柳さん、新村さん、早野さん)

知事表敬での優勝報告

2017年 第8回 高校生の建築甲子園 審査結果発表 | 公益社団法人 日本建築士会連合会(kenchikushikai.or.jp)

https://www.kenchikushikai.or.jp/torikumi/kenchiku-koshien/2017/kenchiku-koshien-kekka.html

 

地域のくらし

建築のコンペでは、審査委員長なる方からお題(テーマ)が出され、それに沿って魅力的な建築を紙面によって提案することが一般的です。そのお題は、回や年ごとに異なっていくものなのですが、建築甲子園では、第1回目から一貫して「地域のくらし」がテーマになっています。第6回目からは副題が追加され、「地域のくらし〜空き家を活かす〜」となり、第9回まで続きました。(第10回からは副題が「これからの地区センター」に変わりました)

「地域のくらし」や「空き家を活かす」といった毎年変化のないお題に、当初は全く指導のモチベーションが上がらなかったのですが、「地方都市ならではの問題」に目を向け、生徒とともに「地域」を再考することは、地元富山の未来を創ることと同義であり、建築を子どもたちに教える人間にとって、この上ない重要なマインドだと感じました。(知らないうちに審査委員長の思惑にどっぷりとハマってしまっていたわけです)

以来、この「地域のくらし」というシンプルなお題の根っこにある精神は、建築甲子園に関係なく常に大切にしていますし、現在の蓮町の事業にも受け継がれていると言えます。

 

チームづくり

建築甲子園への参加は、前年度(2016年)に引き続き2年連続でしたが、実は前年度も全国優勝しているんです。(甲子園2連覇しているのは富山工業だけ!私は監督として2連覇したので、一時期はまるで名将のような扱いでした笑)

最初のメンバーは、私が担任している2年生の生徒4人で取り組みました。この4人は入学した時から個人でもコンペに取り組んできた熱心な生徒たちで、全員が有志による参加です。

初めて全国優勝した時は、学校関係者だけでなく建築業界の色々な方に祝福していただき、「努力が報われて良かったなぁ」と思う一方で、タイトル獲得のまま勝ち逃げフェードアウトしたい気持ちでいっぱいでした。しかし、周りからの強いプレッシャーにより、2連覇を目指して再び監督をすることになり、翌年選手を集めはじめます。

前年度メンバーの4人がそのまま3年生でしたので、その4人で「2連覇目指しましょう」になると思っていたのですが、前年の監督(自分)の指導がちょっと?強すぎたためか、4人中2人には断られてしまいました。

いつもコンペをやっている他のメンバーに声を掛けて回ったところ、2人が新たに加わり新チームが出来ます。キャプテンの榊原さん、早野さん、そして連続参加の新村さんと高柳さんの女子生徒が4人揃いました。(意図的に女子生徒を選んでいるのかとよく聞かれるのですが、本当にたまたまなのです)

作品の模型を囲むメンバー

しかし、この女子だけのグループだったことが、繊細かつ新鮮な気付きやひらめきをコンペ案にもたらしてくれ、2連覇に繋がったと言えます。

 

夢を描くこと

コンペの進め方は週に一度、この4人と私でミーティングの時間を作り、ひたすらディスカッションしました。(このディスカッションを1番大切に進めていきます)

しかし、全員が2連覇を意識しまくっていて、プレッシャーのあまり思考停止状態でした。そこで地元富山をどのように思っているのかをぶつけ合うことから始め、「地域のくらし」につなげようと舵を切ります。

すると、生徒たちは声を揃えて「富山は微妙」と言うのです。理由は「遊ぶ所がない」「楽しくない」とか…。大人になるにつれ、都会にはない富山の良さが分かってくるのですが、今思い返すと自分も若い頃はその魅力に気付けていなかったと思います。ディスカッションではよくみんなで富山ディスりをしていました(笑)

中でも印象的だったのは、富山にいても「夢が叶えられない」とみんなが思っていたことです。夢を叶えたい本気の人は東京に行くんだと言います。そして逆に富山で働くということは会社勤めになり、夢とは無縁になることだと。それに自分たちは「女だから…」と、結婚してしまえば、夢を追う事や男性のように思い通りに働くことも出来ないだろうと言うのです。(当時はコロナ禍前であり、北陸新幹線も開業間もない頃だったので、今の子たちはまた少し違うことを言うかもしれません)

「夢」というと、儚げなものに感じてしまいますが、人が真に野望や目標のようなものを持つのは何歳からだって良いわけです。ただ、富山ではそれがきっと叶えられないんじゃないか。私はこんな考え方は悲しいことだと思いました。それからみんなで話し合った結果、今回の甲子園は「富山の若者」が「夢を描くことができる」そんな素敵な建築を提案しよう!と決まりました。学生コンペだからこそ夢を見たっていいだろう、と。

この時は、当然実現化されるなんて思っていなかったので、富山県が力を入れている「創業支援」や「UIJターン」という文脈を全く意識していませんでした(私が無知だというのもありましたが。。。)

しかし今思うと、「富山で夢を描きたい」との若い高校生たちの想いが、少しずつこのプロジェクトを引き寄せていったのかもしれません。そう思うと、あの時の彼女たちとのディスカッションが思い返され、とても感慨深い気持ちになります。

次回は実際に提案した建築甲子園の全国優勝プランと実現化までの道のりについてお話ししたいと思います。

藤井和弥

PROFILE

富山工業高校

藤井和弥

富山工業高校建築工学科科長
1982年生まれ。富山県高岡市出身。
2016年・2017年に出場した建築甲子園で、同校の監督として2連覇に導く。
2017年の優勝作品「夢を描きながら住まうこと〜地域を創るわかもん団地〜」は、富山市蓮町の県営住宅を改修して行う「創業支援施設・U I Jターン者等住居事業」として実現する。2022年春に完成する予定。
「街のヴォイドに開く町屋」は、2020年度グッドデザイン賞を受賞

富山工業高校建築工学科 Instagram
https://www.instagram.com/tomikoarchitects/