連載記事
※隔週火曜日に公開
仲建築設計スタジオ
「通路と場所」
藤井先生のコラムを読んだり、2017建築甲子園優勝メンバーの座談会を拝見したりして、「イイものにしないとまずいぞ」とプレッシャーを受けています。偶然にも先日、同メンバーのキャプテンだった榊原さんに、本プロジェクトにおける屋根工事の打合せでお目に掛かりました。
さて、今回もロードバイクで富山を走っている話から。砺波平野に続いては、放生津町に行ってみました。
設計期間中でしたが当時の係長から、「内川って知ってます?素敵なところですよ」と言われたことがありました。聞けば、日本のベネチアと言われているとか。僕の生まれは京都なのですが、小学校の時には東京の下町で運河が張り巡らされたところに居まして、住んでいた団地は隅田川というなかなか大きな川の隣にありました。以来、川とか運河が大好きで、それらが埋め立てられた跡すら好きなんです。そんな僕にとって、内川に行かないなんて選択肢はありませんでした。
でも、いろいろ忙しくて。今回ようやく行くことができました。
水面と岸辺の段差が小さく、手で水に触れられるほどです。この町ができたときから、水路は仕事や生活とは切っても切れない関係にあったわけなので、当然といえば当然ですが。今からフェンスなどで仕切るということもありません。水路の両側の家屋が向かい合って開いていて、水路を中心とした景観は、自分が水路に浸っていてどこまでも行けそうな感覚に陥ります。
この、「水の流れに沿った景観がイイ感じかどうか」というのは、僕なりのポイントなんです。「水」好きが高じて、大学での卒業論文では、川の流れる方向に沿った建築の景観について書いたのですが、近代化に伴って水は「管理する対象」となるので、だんだんと流れ方向のイイ感じの景観が減ってくるんです。内川には「東橋」という橋がありましたが、この橋は向こう岸に渡る「通路」であると同時に、内川の軸線沿いの景観を味わえる「居場所」にもなっています。
前回のコラムでは、蓮町プロジェクトは起業や移住の受け皿として、経路が自由に選べていろんな出会いがあるような環境づくりが大切で、そのための設計をした、というようなことを書きました。でも、通路をつくるだけではイイ感じの居場所はできません。動線を滑らかにすればするほど、落ちついた居場所というのは成り立ちにくいものです。この相反する課題を設計でどのように扱ったのかが、今回のコラムのテーマです。
まだ完成していないので、上手くいったかどうかはこれから皆さんに評価されるのを待つより仕方ないのですが、設計というのは思考の塊であるので、まずはココにその想いを書き連ねようと思います。
まず、配置計画上の特徴である歩廊から話しましょう。歩廊とは、屋根付きの外廊下で、3棟及び庭を緊密に繋ぐために新築します。第1回のコラムで、屋外の「横糸」として紹介したものです。歩廊が各棟にぶつかるところは、外壁を解体して建物を通り抜けられるようにします。トンネル状のこの空間をちなみに「貫通路」と呼んでいます。
歩廊の形態は下の画像(画像1)を見ると分かるように、緩やかにカーブしています。外壁を解体してよいところを最短距離で繋ぐと直線状になるわけですが、あえてカーブさせています。
その狙いの1つは、このカーブに沿ってまとまりのある広場をつくれることです。屋外の居場所をつくることができます。2つ目の狙いは、カーブに沿って歩くことで、徐々に正面に見えてくるものが変わることです。例えば、2号棟の貫通路からはまず3号棟のエレベータが見えます。歩いていくとコモンアーケードの店(チャレンジショップ)がいろいろ見えてきて、最後は突き当たりのカフェが印象的に見えてくるでしょう。
もう一つ、この歩廊は3号棟を境に、あえて滑らかに繋げていないことも特徴です。画像1のジグザグ赤線のところですが、コモンアーケードに沿ってわざわざ歩かせています。敷地全体で見たとき、3棟を繋ぐ動線を意図的に雁行させることで、チャレンジショップに人目が触れる機会を増やすようにしているわけです。動線の滑らかさを少し犠牲にすることで、内部の様子が注目される場所として、コモンアーケードの空間をつくろうとしています。
内部における「横糸」の代表例の中廊下は、単調なものにならないよう、ところどころで膨らみを設け、廊下に併設された居場所をつくっています。
また、ガラスの袖壁をつくって、部屋のなかの雰囲気が伝わってくるようにしています。誰がどんなことをやっているのか公開できることは、創業者や起業者にとって重要なことです。ここにオフィスを構えることは、同じ境遇の者同士で交流し、時に切磋琢磨できる環境を求めてのことだからです。一人で仕事をする辛さは僕もよくわかっています。
とはいえ、「居場所感」をつくりこむために、例えば色彩を利用するなどは今回難しいんです。既存建物のつくりやコスト的な理由から、設備配管は露出になります。もちろん、露出配管を目立たせたくはないのですが、例えば電気の金属製モールは小さくていいのですが、その色は事実上白色しかないんです…。この色に合わせるので、壁や天井の色はいきおい同じになりがちです。色の差を用いることで場所性をつくりだすことはできません。これではますます「どこも同じ感じ」になってしまいますよね。
そこで、外部に対して開いているか、閉じているか、の差異によって、つまり空間の開放性によって、多様な居場所感をつくりだそうと考えました。特にコモンアーケードに覆われた2階の居室においては、コモンアーケード先端に設けられる「木製ルーバー」のあり方と連動させることで、この効果を強めようとしています。
画像2はそのためのスタディです。
木製ルーバーがない時にその部屋から「どこまで外が見えうるか」を確認した上で、木製ルーバーの本数によって視界の制限を調整しています。室内から見ると、画像3のような差がでます。
最終的なルーバー本数の決定には、視界だけではなく、外階段からの視認性や、屋根面開口からの採光を加味しています。スタディの結果、画像4のような外観になりました。
木製ルーバーはもともと雪の降り込みを抑制するために設けていて、ところどころ「瞼を開いたような」状態になっているのは、このような操作によるものです。団地の持つ硬さを緩めてくれるような気がしていて、きれいな形で実現したいと思っています。
3号棟の創業支援センターのことばかり話してしまいましたが、2号棟や4号棟の創業・移住促進住宅も同じように、外との関係性を空間づくりに活かしています。前回のコラムで書いたように、 1階のシェアスペースにはコモンテラスを増築しています。ウッドデッキが敷かれ、上部にはそれ以上の大きさの庇を設けています。ウッドデッキからは庭に降りて行くことができるのですが、その先には、菜園やDIYができるスペースが広がっています。外部空間と繋がる空間は徹底的に繋げ、シェアスペースは空間が庭側に膨らんだような印象の空間としています。
リノベーションって、いろいろな意味で難易度が高く、どうしても場所ごとの局所的な対応に陥りがちです。でも今回は、職住融合という大きなテーマでもって、エリア全体が一つになる必要があります。
そこで私たちは、経路の多様さと共存する形で居場所づくりをしています。今回はそのような話を書きました。内部における空間づくりが外観に現れ、その結果として、「硬い」印象の団地が柔らかくなり、外部空間も活性化していきます。たくさんの人が気軽に立ち寄れて、興味を持ったものに近づくことができ、いろいろな交流が生まれるといいなと思います。
いつもの自転車の話…
現場監理事務所へは自転車で通っています。富岩運河沿いの道路を走るのですが、並木越しに運河が見えて、とっても爽やかです。視線を遠くにやると、雄大な山々が連なっていて、朝は逆光ながらも、この季節は少しずつ山が白くなってくるのがわかります。途中、中島閘門を渡るのですが、ここから眺める運河もまた素晴らしい景色です。
水路の軸線に沿った景色というのは、自分が水でいろんな場所に繋がるような、ちょっと大袈裟に言えば、自分が世界の一部であるような、そんな大きな気持ちにしてくれます。
この春から富山に住んでいますが、金沢にも通っています。金沢美術工芸大学の移転に伴い、新しいキャンパスの設計・監理チームの一員なんです。山本理顕さんのところで修行していた同門のSALHAUS、カワグチテイ建築計画とともに、仲建築設計スタジオも設計・監理に携わっています。その金沢市内ではシェア自転車を使って移動しています。
比べると富山は平坦で、運河がまっすぐですよね。河川や運河沿いに素敵な場所がたくさんあるので、富山市内もいろいろ巡りたい場所があります。ただ、これからだんだん天気が悪くなってくるので、今のうちに遠出しようと思っています。富山には自転車のまま乗れる電車があるので(ホント素晴らしい!)、次は黒部の方に行ってみようかなと思っています。
※施設名称の決定に伴い、今回のコラムから3号棟の創業支援施設(仮称)を「創業支援センター」に、2・4号棟のUIJターン者向け住宅(仮称)を「創業・移住促進住宅」と表現します。