連載記事
※隔週火曜日に公開
富山工業高校建築工学科科長
「白目とバナナ」
コラムの連載を始めてからというもの、「締め切り」の言葉を聞くたびに目が白目を剥くようになり、最近では朝ごはんにバナナを見ただけで(建設ラボの黄色を思い出して)震えが止まらなくなってしまいました。文章を書くのは本当に難しいです…。
しかも締め切りに何とか間に合ったと思ったら、また次、次といった具合なので、息継ぎがうまくできず溺れてしまいそうです。仲さんに追いていくだけでも必死(文章の中身はレベチ笑)ですが、何とか最後まで泳ぎ切りたいと思います。今回もどうか、「生温かい目」でよろしくお願いします。
さて、先日も富山工業高校では、建築工学科の3年生を対象に蓮町の事業に関わるワークショップが開かれました。建築家の仲さんを筆頭に、家具デザイナーの藤森泰司さん、照明デザイナーの岡安泉さん、グラフィックデザイナーの中尾ちえさん。業界のトップランナーの皆さんが工業高校に結集し、3年生の生徒らと通年でものづくりをおこなっています。
今回は、建築甲子園優勝からカタチを変え、先輩から後輩へ受け継がれているこのワークショップについて書きたいと思います。
ワークショップは今年で2年目の事業になりますが、正確には設計プロポーザルで仲建築設計スタジオさんが特定された年(2019年度)から出前授業の形でスタートしていただいているので、富山工業高校の3年生は、3代に渡ってデザイナーのみなさんや県の方々にお世話になっています。
本プロジェクトは、職住一体の新たな拠点を整備する(しかも団地のリノベーション )という、全国に先駆けた先進的な取り組みというだけでなく、地方の高校生と様々な分野のトップデザイナーが協働し、交流を深めながら実際に施設で使われる様々なアイテムをデザインする。まさに「産・学・官の連携」を地で行く壮大なプロジェクトでもあります。
こんな画期的なことが実現できているのも、富山県創業・ベンチャー課(旧経営支援課)と仲建築設計スタジオの皆さんが、常に出発点である建築甲子園のプランや高校生の想いを大切にし、富山の未来を創ろうという熱い想いで業務にあたってくださっているからに他なりません。事業化が決まった際も(高校生の代弁者として)僕のいろいろな意見や要望をプロポの要綱に取り入れてくださったり、審査の場にも加えていただきました。
また計画・設計段階から施工においても、毎週の定例会に出席させていただき、高校生の想いや学びが反映されるよう尽力していただきました。常に本気で何でも意見を求められ、言ったことを真剣に受け止めたり、面白がって一緒に考えてもらえます。ただでさえ前例のない・時間もない・大変なこと尽くしの事業なのに、高校生の想いを少しでも形にしようと更に手間暇かけてもらっているわけですから、これは本当にすごい事です。
ワークショップと偏に言っても、建築家が利用者や運営者とプロセスを共有しながらつくりあげていくもの。建築家と他分野の専門家との協働によるものなど、メンバー構成や目的、意義などそのスタイルは様々です。(ワークショップの歴史は深い…)そんな中で「建築の専門的な学習をしている高校生」と「様々なジャンルのトップデザイナー」が協働する今回のスタイルは、他とは一線を画すものだと思います。
一般的なワークショップのように、プロジェクトのPRや当事者意識、協力関係や達成感を得られることも勿論ありますが、ここでは更に大きな「教育の効果」が期待できると思っています。僕なりに整理してみると、次のような感じでしょうか(違っていたらごめんなさい)。
① 日頃から建築を学んでいるため、より専門的なアプローチが可能になる(高いクオリティの作品が期待できる)
② 教科書にはない授業の枠を超えたものづくりによって、予定調和でないリアルさ・生々しさ・臨場感を体感できる(変化に対応する柔軟な考え方のトレーニング)
③ 仮想ではない本当の事業であるため、実際に使う「誰かのため」を考えることができる(デザインの本質を知る)
④ 生徒の多くが建築業界へ進むため、未来の富山のものづくりリテラシーを上げることにつながる(未来創造)
といった感じです。特に最後の④については、蓮町のプロジェクトや個人の成長だけではない、建築業界や未来の社会に還元できる事なので、「本当にそうなったらいいなあ」と僕の願いでもあります。
富山工業高校の建築工学科の生徒は、1クラス40人(男女比は半々程度)で構成されており、その進路状況として、ほぼ9割は建築関係に進みます(就職が30名程度、進学が10名程度)。年によってバラツキはありますが、担い手不足が著しいこの業界にとって、宝物を預かっているような気持ちでいます。
「国家百年の計は教育にあり」
大学時代、教員になるか実務の道に進むか悩んでいた時に先生にかけていただいた言葉です。これを聞いて、建築をつくるより、「教育の方がすごいじゃん!」と単純に決断して今に至ります(笑)。ちなみに大学の先生には、私はそんな事絶対言っていないといつもはぐらかされますが…。
実務の世界で勝負しなかった僕にとって、生徒はもう一つの世界線にいる分身のようなもの。生徒たちのものづくりや建築に対する意識が高まる事は、富山の発展に必ず繋がると思っています。
ワークショップの中で行われているものづくりの詳細については、また今度お話ししたいと思いますが、その他にもみんなで施設(エリア)の愛称を考えようというネーミングワークショップをやったり、生徒みんなで現場見学をさせていただいたり、着工前の蓮町団地を題材にしたフォトコンテストを開催したりと、施設ができるまでのストーリーを大切にしながら、みんなで愛着が持てるよう、楽しいなと思える事を前提にいろいろやっています。(このワークショップ関連の話は、ボリュームが多く一度で伝え切ることができないため、今後何回かに分けて話していきたいと思います。)
最後に以下のリンクから動画をみてもらいたいと思います。
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これは初期の頃、プロポーザルで選ばれた仲建築設計スタジオ案に対する理解度を深めるため、「エリアのロゴやサインを考えてみよう」と課題を授業で出したところ、生徒らが作ったプロモーションムービーです。ストップモーションアニメと言って、少しずつ糸を動かしてコマ撮りした画像を、パラパラ漫画のように繋いで一つの動画にしています。
案のコンセプトである「暮らしを編む」の言葉にインスピレーションを受け、糸をモチーフに。それがニョキニョキ現れて3人の人型になり、手を取り合って最後は3棟が並んだシルエットを象るという楽しげなストーリーになっています。あくまで授業の課題なので採用には至りませんが、仲さんや宇野さんにも見てもらえて今後の協働事業が楽しみになるような、そんな成果物でした。
この動画を作った生徒たちは現在社会人2年目で、甲子園優勝メンバーの2歳年下。現3年生の生徒から見ると2歳年上です。学年を超え、一つの事業にたくさんの高校生が関わり地域社会と繋がっています。
こんな風に伝統が受け継がれているのって素敵じゃないですか??