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連載記事

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わかもん

富山工業高校生のプランが基になり、全国に先駆けて整備される職住一体の施設「富山県創業支援センター / 創業・移住促進住宅」が今年秋にオープンします。「わかもん〜高校生のプランが現実に〜」は、「建築家 仲俊治✖️富山工業高校教諭 藤井和弥✖️とやま建設ラボ」の3者によって、この施設の完成までを綴るコラム連載です。

※隔週火曜日に公開

富山工業高校建築工学科科長

藤井(ふじい) 和弥(かずや)


「ワークショップ」

ふと気付いたんですが、僕以外の”わかもん”のパート、大体皆さんが「月間MPV」を獲っているんですよね。僕も月間MPVが欲しすぎて、奇をてらったようなタイトルをつけたりしてみましたが、努力の甲斐もむなしく…。

どうしたらいいでしょう。結局中身で勝負ということでしょうけど、”身内”なんだから富工生もっと読めよ!と言いたいです(笑)(完全に逆効果)

そしてそんな矢先、母親からLINEで、「建設ラボ見とるよ!!」と唐突に宣言されました…。建設業界とは無縁の60代半ばの母親が、建設ラボをどこでどう知ったのか??(建設ラボの影響力すごい…)。そして本当の”身内”に読まれているとなると、(この歳になって)顔から火が出るほど恥ずかしい(笑)。

つまり、ラボの月間MPVは獲れないけど、母親にはちゃんと読まれているという、何とも言えない2つの重圧に押しつぶされそうになりながら、バナナに白目をむいて引き続き頑張りたいと思います。(毎回こんな出だしですいません)

さて…(笑)。

いよいよ今年2022年に施設の完成、そしてオープンです!

完成イメージ(提供:仲建築設計スタジオ)

“その日“が近づくにつれ、前々回のコラムが県創業・ベンチャー課の野村さんのインタビューだったり、運営の指定管理者が決まったりと、本事業に関わるプレイヤーが続々と登場するようになってきましたが、こういう流れが今とても嬉しいです。

出自や所属、年齢を超えて、本当に数多くの方々が本事業に関わり、実現に向け尽力して下さっています。また、そんな皆さんと様々な意見交換ができて大変勉強になりますし、そこから生まれたたくさんの想い入れが「建築」に詰まっていることも皆さんに知ってもらえたらなぁと思っています。

高校生のワークショップも当然その一つ。生徒らの頑張りももちろんありますが、たくさんの素敵な方々が監修者やアドバイザー、素材提供者として関わっていただいています。

 

トップランナーとの協働

ワークショップは、仲さんから課せられた「カフェをつくろう」のお題のもと、創業支援センター(旧北3号棟) 1階、チャレンジショップのカフェのインテリアデザインをメインとして製作を行なっていますが、高校生らが素晴らしいものづくり体験が出来るようにと、各業界で活躍するトップランナー3名を仲さんが招集してくださいました。(前回の僕のコラム冒頭でもデザイナーの皆さんの話がありましたが、改めてご紹介させて下さい)

昨年度、富山市民プラザで行われたワークショップ最終講評会の様子

 

まずは家具デザイナーの「藤森泰司」さんです。

様々なトップアーキテクト、ハイブランドとのコラボレーションの実績があり、公共施設、オフィスなどスケールや領域を超えて家具デザインの新しい在り方を目指して活動しておられる家具デザイナーの第一人者です。

藤森泰司アトリエHP  https://taiji-fujimori.com

 

次に照明デザイナーの「岡安泉」さんです。

個人宅から大型施設まで多様な建築・商業空間の照明計画、照明器具のデザイン、ときにはアートインスタレーションなど、光にまつわるあらゆるデザインを国内外問わず幅広く手掛けられている照明のスペシャリストです。県内ではTOYAMAキラリの照明計画も担当されました。

岡安泉照明設計事務所HP  https://www.ismidesign.com

 

そしてグラフィックデザイナーの「中尾千絵」さんです。

東京オリンピックのピクトグラムでも有名な廣村デザイン事務所ご出身で、エディトリアルやパッケージ、サイン計画などを中心に活動をしておられるグラフィックデザイナーです。本事業では3棟あわせたエリア全体のロゴデザインやサイン計画にも携わっていただいています。また、今年度は施設のネーミングワークショップにもご参加いただきグラフィックデザイナー視点でのアドバイスを高校生らにしていただきました。

ちえのわデザインHP  http://chienowadesign.com

 

こんな豪華なメンバーが、昨年度からワークショップのたびに富山に来られて、直接高校生らを教えていただけるのは本当にすごい事です。。カフェのインテリアを高校生らに委ねてもらえることも含め、仲さんでないとここまで濃いワークショップは実現出来なかっただろうと思います。(こうしたジャンルを越えた繋がりが深いところも”建築家”という職能のスゴイところだなぁとつくづく感心していますし、これだけのトップランナーを集められる仲さんもスゴイ!)

昨年度富山市民プラザで行われたワークショップ最終講評会の様子

 

障壁を乗り越え成長する

その一方で、成果物に求められるクオリティも必然的に高くなるわけです。教職員の緊張感は毎回ものすごいことになっていて、宿題を出されるたびに(生徒らに見えない所で)皆で白目をむきながら、下準備に奮闘してきました(笑)(デザイナーの皆さんから発破をかけられているわけではなく、自分たちで勝手にそうなっているだけです。。)

もしかしたら教職員の方が生徒たち以上にワークショップによってポテンシャルを引き出してもらっているかもしれません(笑)。

昨年度初めの頃の照明チームの生徒と教職員のミーティング風景。なぜかこちらを見ている山崎さん(現在:くみあい建設で勤務)。指導にあたっていたのは渡辺先生

昨年度初め頃の家具チームの生徒と教職員のミーティング風景。悩みすぎて頭が沈む桑山さん(現在:前田建設勤務)。指導にあたっていたのは大橋先生

「カフェをつくろう」のワークショップでは、カフェ店内で使用されるイス、テーブル、ペンダント照明、壁面グラフィック、トイレのピクトグラム、看板といったバラエティに富んだアイテムをつくることが題材です。これらのアイテムの詳細は仲さんを中心に各デザイナーさんに設定いただき、生徒らは自分の取り組みたいアイテムを選択してチームをつくり、各デザイナーさんから指導をいただく形で昨年度から進めてきました。

しかし、良いものを作るにはワークショップという限られた時間内ではとても間に合いません。加えて、一昨年度末からのコロナ禍で学校の授業や部活動など、日常の活動そのものが普通に行えないという大変な時期もあり、製作期間に大きく影響を与えました。

各チームは授業時間だけでなく、毎日の放課後や夏休み・冬休み期間も利用しながら、その都度情勢にあわせて製作を進めるという努力をしてくれました。

昨年度の放課後の製作風景

今年度の製作風景

また、デザイナーの皆さんの拠点が東京にあるため、富山に来て直接ご指導いただくにも回数に限りがありました。

限られた期間、富山と東京の距離、そしてコロナ禍。様々な障壁を乗り越えるため、デザイナーの皆さんには生徒らとメールやzoomで頻繁にやりとりしてもらったり、教職員と生徒の間でも、県から支給されたタブレットや自分達のスマホをフル活用して、グループチャットやテレビ会議、データのチェックバックを行うという、デジタルツールの活用が盛んになり、副次的なICT教育の効果が生まれました。(県下で最もデジタルツールを活用していた学校・学科だったのでは??)

富山と東京の離れた2つの場所でも、難なくコミュニケーションが図れることを高校生らが体感出来たのも、地域に根ざした人材育成の上では意味が大きかったです。

zoomを使ってブラッシュアップ方法を検討している家具チームの様子。指導にあたっているのは山口先生。zoomのお相手は藤森アトリエスタッフの小久保さん

小久保さんにはかなりの頻度でディティールなどの細かい相談に乗ってもらっています

 

自分以外の誰かのために

また、チャレンジショップのカフェをつくるというお題ですが、そもそもチャレンジショップって何だろう?との視点もワークショップを進めていく上で重要でした。

チャレンジショップとは、「これから商売を始めたいけど経験がない人」「最初から独立した店舗で始めることが難しい人」に対し、一定期間スペースを貸し出し経営支援を行う仕組みです。チャレンジショップをきっかけに、独立して開業するプレイヤーを創り出し、地域に根ざした店舗を増やすことで街の賑わいをも創り出していけます。

しかし、チャレンジショップの特性上、ワークショップ立ち上げの段階で事業者が決まっているわけではないし、施設がオープンしカフェを運営する事業者が決まったとしても、一定の期間でその店主が変わる仕組みということにもなります。

昨年度ワークショップのキックオフ会。仲さんよりチャレンジショップのカフェについて説明いただく

実際に現地で説明を聞き、より体験的に理解を深める

店主の好みも分からないし、どんなお客さんが来るのかも想像つかない…。そのため、デザイナーの皆さんや創業・ベンチャー課の皆さんに助言をいただきながら、事業者が誰であっても気に入ってもらえるようなデザイン、施設の顔としていろんな世代の利用者に受け入れられるデザインをみんなで意識し、模索しながら進めていきました。

また家具、照明、グラフィックのそれぞれのデザインの方向性がバラバラにならず、インテリアとして調和がとれるように、チーム間での密な連携も大切にしてきました。

普段の高校の授業内で行われる「ものづくり」では、わかりやすい評価基準がある上で、課題のための課題をこなしていく場合が多いと思います。だから、このような「自分以外の誰か」を意識し、リアリティを持って想像することはやろうと思ってもなかなか機会はありません。

実際に実現するプロジェクトだからこそ、作り手が一方的に自己満足してしまうのではなく、まだ見ぬ利用者や事業者を真剣にイメージしながら、そして地域の人たちや発注者である県の方々、先輩や後輩のこと、デザイナーの皆さんなど、たくさんの人たちの顔を思い浮かべ、一生懸命課題に向き合ってきました。(前回コラムの教育の効果③に繋がるわけです)https://www.kensetsu-labo.com/series/3244

昨年度富山市民プラザでの最終講評会。様々なアイテムを並べて実際に近い空間をつくってみる

 

デザイナーの教えは生きる力になる

生徒の考えを真剣に聞き入るデザイナーの皆さん

「使う人はどう感じるだろう?」

「もっと良くなるにはどうしたらいいだろう?」

生徒らの製作した試作品や発表を聞いて、デザイナーの皆さんがよく仰る言葉です。否定でも肯定でもないコメントですが、決して高校生に“答え”を与えるような助言はされません。きっと生徒達だけだったら、「これで良くない?」という考えで終わってしまいそうになるところを、より深いところまで掘り下げ誘導していく感じです。

そうすると思わぬ発見があったり、まだまだ改善の余地があったり、良いものにつながる道筋がぼんやりと浮かび上がってきます。

試作品の椅子について見て感じたことを話しておられる藤森さん

分かりやすくなるよう図を描いて話を進める岡安さん

「次は何をしたらいいですか?」

これは学校生活の中で生徒からよく聞く言葉です。言われた通りにやる、という試行錯誤との逆の発想に近いかなと思います。最短でゴールに辿り着けるし、それが正しいと思っている生徒も多いかもしれません。

でも今僕たちは、様々な変化に対応できなければならない時代に生きています。そこには必ず「決まった答え」があるわけではないので、普段から色々な物事に対して問題意識を持つことや、考える習慣を身につけてもらいたいなぁと日々感じています。

このワークショップを経験した生徒らが、デザイナーの皆さんとの対話によって「考える力」を養い、ひいては「生きる力」を身につけていってくれると嬉しいです。その先にはきっと輝かしい未来の富山のものづくりや建築の世界があるのだと思います。

 

最後に告知があります!

来る2月4日金曜日13時より、富山県教育文化会館ホールにて、これまで進めてきたワークショップの最終製作発表会を開催いたします!!

富山工業高校生が制作したフライヤーです!

先輩から後輩たちへ受け継がれながら、約2ヵ年にわたる製作の軌跡と、試行錯誤しながら完成したアイテムの数々を、是非多くのみなさんに見て知っていただきたいです。お申し込みは不要です。

この蓮町プロジェクトに興味のある方、建築・建設業界の皆さま、デザイナーの皆さま、保護者の皆さま、教育関係の皆さま、どうぞよろしくお願いします!

藤井和弥

PROFILE

富山工業高校

藤井和弥

富山工業高校建築工学科科長
1982年生まれ。富山県高岡市出身。
2016年・2017年に出場した建築甲子園で、同校の監督として2連覇に導く。
2017年の優勝作品「夢を描きながら住まうこと〜地域を創るわかもん団地〜」は、富山市蓮町の県営住宅を改修して行う「創業支援施設・U I Jターン者等住居事業」として実現する。2022年春に完成する予定。
横山天心氏との共同設計「街のヴォイドに開く町屋」は、2020年度グッドデザイン賞を受賞

富山工業高校建築工学科 Instagram
https://www.instagram.com/tomikoarchitects/