連載記事
※隔週火曜日に公開
富山工業高校建築工学科科長
「製作アイテム(椅子編)」
2月4日、富山県教育文化会館にて、富山県創業ベンチャー課と富山工業高校によるワークショップ製作発表会が行われました。
ついに集大成となる晴れの舞台。「ようやくここまで来れた。。。」という想いからガッチガチに緊張していたのは僕だけで(前半の記憶がほとんどない)、生徒たちは対照的に堂々と立派なプレゼンテーション。壇上でスポットライトを浴びるみんなの凛々しい姿に終始感動させられました。
これまでも蓮町の事業とは関係なく、卒業制作発表会(課題研究発表会と呼ばれています)は毎年開催してきました。
建築甲子園優勝や本ワークショップなどを通じて年々作品のレベルも上がり、学校内だけで終わらせるには勿体ない、外部の方々にも生徒の頑張りを見ていただく機会はないだろうか、とずっとこのような発表会を夢見てきた僕にとっては、また違った意味での感動や達成感といいますか、今の3年生の立派な姿にこれまでのたくさんの卒業生の頑張りが不思議と重なって見えてしまい、何度も涙が出そうになりました。
世の中が大変な時期での開催でしたが、YouTube配信も含め本当にたくさんの方々に見ていただくことが叶い嬉しく思います。本当にありがとうございました!
見逃してしまった方は是非、アーカイブ配信をご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=CE_TCRGw7TI
さて、今回から僕のパートでは生徒らがワークショップで製作したアイテムを数回に分けて紹介していきたいと思います。僕のコラムを通じて各アイテムの注目ポイントを少しでも知っていただければ、施設が完成しカフェに来ていただいた時のちょっとした楽しみが増すかも⁉︎
「椅子」について紹介する前に
家具づくりは藤森泰司さんに監修していただいていますが、藤森さんの他にも素敵な方々が講師としてサポートしてくださいました。まずは藤森泰司アトリエのスタッフである「小久保竜季」さんです。
小久保さんは優しく穏やかな人柄で、どんな些細なことでもいつも丁寧に相談にのってくださいました。特に高校生らとZOOMを使ったやりとりが頻繁にあったのですが、デジタルツールに慣れてない彼らのテンポにも合わせつつ、「うんうん」と頷きながら一通り聞き入って、それから一呼吸置いてゆったりと語り出す姿が印象的でした。
具体的な方策を示すというより、考えるためのヒントを与えていろんな可能性を広げてもらえます。これによって生徒らは、自分たちでアイデアを検証して納得しながら製作を進めていくことができました。どの作品も粘り強く鍛え抜かれているのは小久保さんのおかげだと思います。
僕もなるほど!と思うことばかりで、「教え方・導き方がうまい!」。とても勉強になりました。
また2年目からは、強度・安全面にも目を向けた“実際にカフェで利用できる椅子に仕上げる”という題目が追加されましたので、県内で家具製作の会社を主宰しておられる中嶋工芸社代表の「中嶋誠」さんに、テクニカルアドバイザーをお願いしました。
本当にたまたまの話なのですが、中嶋さんのご出身が蓮町という、何とも不思議なご縁がありました。更に中島工芸社の事業所も富山工業高校に近い富山市四方ということで、製作段階では放課後などに軽いフットワークで学校に立ち寄ってくださり、進捗状況を見守ってくださりました。構造や強度面でのアドバイスはもちろん、生徒と一緒に手を動かしながら技術指導も。やって魅せる!背中で語る!を実践していただきました。
このように藤森さん、小久保さん、中嶋さんの熱いご指導により4脚の椅子が完成しました。何よりも生徒とのやり取りをみなさん楽しんでくださっていたのが印象的で、とても嬉しかったです。
藤森泰司さんからのお題
椅子製作にあたって、家具デザイナーの藤森泰司さんから出された“初年度“のお題は、次のようなものでした。
・県職員住宅をリノベーションした空間(カフェ)にフィットする椅子とは?という“問い”を自分たちの視点で考えること。
・4チームに分かれて、それぞれ1脚ずつデザインし、製作をすること。
・椅子はスツールではなく、背もたれ付きであること。
このお題を受けて昨年度の生徒たちは、4つの個性あふれる素敵な椅子をデザインしました。
1. 曲げ合板を使った「curve chair」
2. 綿ロープを使った「結」
3. 糸が繋がっていくイメージから出来た「gather」
4. 団地の廃材を再利用した「緒」
それぞれの椅子には良いところもあれば改善すべきところも当然あったり。そこで“2年目“のお題は、「ブラッシュアップ」がテーマになります。
・昨年の先輩たちがデザインし、一次試作まで製作した4つのチェアを自分たちの視点でブラッシュアップし、実際にカフェで利用できる椅子に仕上げること。
・4チームに分かれて、それぞれ1種類ずつ検討の上、製作すること。
・最終製作台数は2脚ずつとすること。
このように、2年にわたる試作とブラッシュアップを経て高校生らの力作が出来あがりました。製作者のみんなは、僕の説明が間違っていたら指摘の連絡の方よろしくお願いします笑
1. Curve chair
「視覚的に軽く曲線美のある椅子」をコンセプトに製作されました。全体的に丸みを帯びたフォルムとすることで、カフェの空間になじむ優しい椅子になっています。
丸みのポイントとなる背もたれには、シナベニヤを積層させた「曲げ合板」を自分たちで製作して使用しています。この一本の曲げ部材と真ん中の丸棒という最小限のパーツによって背もたれが形成されるため、そこから「視線の抜け」が生まれ、狭小空間が広く感じられるようになっています。
樹種については、背もたれの曲げ合板の積層面との相性から座面にもシナ合板を採用し、真ん中の丸棒、補強材、脚部には広葉樹の「栓」を使用しました。シナ材と栓は、優しい色味が近いことから、椅子全体のデザインに統一感をもたらします。
2年目に施されたブラッシュアップでは、座ったときの「滑る、横揺れする」などの問題点を解消するため、座面、前脚、背もたれなどの傾斜角度を改良し、座り心地を大幅に改善しました。横揺れに対し安定感を与えるため前脚を外側に広げたり、背もたれの角度を100度から104度にする事でフィット感を向上させました。
また前脚の長さを15mm高くする事でお尻が下がり、より身体をホールドしてくれます。一方、脚の高さ・角度を変えたことによって座面下の受け材が見えてしまうようになりました。そこで受け材はクロス配置にすることで、なるべく見えなくなるように工夫してあります。
藤森さんからは、「このチームのブラッシュアップは、椅子の歴史をなぞるようで感動する。椅子らしきものから椅子らしくなる、まさにスツールから発展したウィンザーチェア※の形式そのもの。それを君たちが体験していることが素晴らしいことなんだ」という感想をいただきました。(製作という体験を通じて椅子のルーツにまで迫れていることに感動して震えました)
※17世紀にイギリス ウィンザー地方でろくろ職人や農民などのために作られてきた実用家具「カントリーチェア」が起源とされている。
見た目だけでは変化が分かりづらいのは、この班の子たちの先輩へのリスペクトが大きかったからなのだと思います。見た目を変化させずに、座り心地だけ向上させようとする方向性は思いのほかレベルの高い作業で、かなり難しかったようです。
しかしこれぞ、正統派ブラッシュアップでした!
2. 結
この椅子は、建築の設計コンセプトである「暮らしを編む」から連想し、人と人、建物どうし、街と人の繋がりを、「糸=ペーパーコード」を使って表現しようとしています。ペーパーコードによって、座る人の身体を柔らかく受けとめる事ももちろんですが、Curve chair同様に椅子の向こうに視線が抜けることで、空間が広く感じられるような効果も期待しています。
また、椅子全体のフォルムも小さく華奢につくりあげています。これも出来るだけ空間を広く感じられるようにするための工夫であり、それが可愛らしく人懐っこい表情をつくりだし椅子の個性になっています。昨年度の3年生が製作した「結」では、このコンセプトがそのまま純粋な形となって表されており、高評価のポイントになっていました。
一方課題点だったのが、どうしても椅子の身体に当たる部分に痛さを感じてしまうこと。また、綿ロープを巻きつけた座面の厚さにより椅子全体にやや重たさが表れてしまっていることがありました。
座面の幅の見直しやR加工、糸は綿ロープからペーパーコードに変更し編み方などを変えて柔らかく身体を受け止められるようにすること、座面に軽快感を与えることをブラッシュアップの目標に製作をはじめていきました。
生徒たちは編み方の検討に執念深くこだわっていました。採用された編み方では小さな隙間が糸と糸の間にうまれ、視線の抜け感だけでなく民藝的な素朴さも感じさせてくれます。
背もたれの部材では、上端の部材は湾曲させ、下の部材は直線にしました。 それにより糸を編んだ際に三次元的曲面が形成され、糸が身体を包み込む、そんな安心感のある背もたれにすることができました。
ペーパーコードが巻かれる背もたれの縦材は、ペーパーコードの太さぶん欠きこんで面を揃えています。座面に軽快感を与えるため、座面を構成する貫を1本から2本へと変更しています。上の1本にペーパーコードを巻き付け、下の1本が構造上脚部をつなぐ重要な役割を担います。
これにより横から見たときに糸の巻きつく面積が小さくなり、座面が薄く軽快に見えるようになっています。
藤森さんからは、「ペーパーコードを使った椅子は手間がすごく掛かるぶん、その力強さが魅力的。そして奥行きが狭いのに幅が広いという絶妙なスケール感もいい。細く華奢に作ることや背もたれの微妙な曲率の調整まで最後までしっかりこだわれたこと。そして、編み方も平面編みで終わらせず何度も研究を重ねオリジナリティが現われる所までよく粘ったこと。これらを自然に良くまとめてあることが完成度の高さを引き出したのだ。大人だ!」という感想をいただきました。(最後まで粘った甲斐があったね!)
生徒たちはペーパーコードを編む際にそれらが絡まらないよう、校舎の長い廊下を利用して自分たちが糸を持って行ったり来たりしながら編み込んでいくという、何とも気が遠くなる作業を続けてきました。ペーパーコードを途中で結んで編みこむとできるのですが、どうしても途中にできる結び目が気になってしまうということで、なんと約200mのペーパーコードを1巻でやりきるわけです。これはなかなか真似できない。努力の結晶だと思います。
追記
ちょうどこのコラムの締め切りの日(3月1日)は、富山工業高校の卒業式でした。
高校生活の3分の2がコロナ禍により活動が制限されていたこともあって、高校生らしい思い出を満足に作ることが出来なかったかもしれないけど、ワークショップや最終発表会での生徒らの姿は本当に立派でした。仲さんやデザイナーのみなさん、創業ベンチャー課の皆さんのおかげで、高校時代にこんな贅沢な体験させることができました。本当にありがとうございました!