連載記事
※隔週火曜日に公開
「場づくり」
今回のわかもんVol.27は、SCOP TOYAMA(以下=SCOP)の運営者である「蓮町創業支援拠点運営共同体(株式会社バロン・合同会社シェアライフ富山・合同会社plan-A TOYAMA)」から、主に創業支援センターの運営を携わられるplan-A TOYAMAの相澤毅さんと田中優子さんにインタビューを!
SCOPは10月28日にオープンします。SCOPはどんな施設になるのか?創業支援とは?誰が利用できるの?こんな素朴な質問から施設の内容までを相澤さんと田中さんにお聞きしました。富山県創業・ベンチャー課の野村さん、山本さんにも同席いただきました!
ラボ
plan-A TOYAMAさんは、SCOPの運営になぜ携わられることになったのでしょうか? この事業を知ったキッカケも教えてください。
相澤さん
いきなり難易度が高いですね(笑)。私は思いっきり横浜市民なのですが、ご近所に横浜市在住で、日本橋の「とやま館」で働いている方がいるんです。その方と私はもの凄く仲良しで、その方を通じて富山の情報を得たり、富山を訪れるキッカケにもなりました。
富山に来てからは前田薬品工業の前田社長をはじめ、富山の方々と沢山お会いしました。地域で活動をさせていただく際に大事なのは、とにかく「人」に会いまくること。
どこの地域においても横の繋がりが存在しますが、富山の場合は人の繋がりがクモの巣みたいになっていて、ある一定の瞬間から知っている人みんなが繋がっていたりします。こうした繋がりから、気づけば運営に携わる事になりました。
行政がつくる事業として、今回のSCOP(創業支援、移住促進)のような事業は見たことがありません。創業支援、移住促進、チャレンジショップ…ここまでワチャワチャに盛り込まれた施設は初めて見ましたし、これを行政が仕掛けるのかと!率直に驚きましたね!
ラボ
SCOPの創業支援センターは、一体どんな施設になるのでしょうか??
相澤さん
SCOPは職住融合の拠点であり、「創業支援」「移住促進」「働ける場」「住む場」になります。4つの要素がギュッと詰まったとんでもない施設です。
これを運営するには、4つの要素を全て専門的にやっている人(企業)が一人(1社)で運営するのは不可能なので、この4つの要素を「横串」で運営できる人が必要です。この施設の運営は半分が不動産業の要素ですが、創業支援もあります。この時点でいわゆる一般の不動産業者では厳しい。
たまたま、私の前職が不動産業でもあり、今横浜でスタートアップ支援の事業をしていることもあって、plan-Aであれば横串で運営できるかもと思いました。ただ、plan-Aは宅建をしないと決めているので、パートナー企業が担ってくれます。
日本全国を見ても、SCOPのような複合要素でなおかつ自治体が運営している施設はまずないです。ある意味、SCOPが日本で最初の先例になることは間違いないのである種の使命感を感じています。事業者と伴走し、丁寧に寄り添って運営を進めていくつもりです。
相澤さん
加えて、富山は「人」の独特な安定感があるように思います。それは就職率の高さにも現れているかもしれません。私の知る限り、富山は「創業」「起業」の選択肢があまりなく、就職して安定的な生活を送ろうとする方が多いのかなと。ただ、それはそれで間違ってはいないです。
しかしながら、富山は製造業が盛んで就職率の安定に結びついていますが、どこかでゲームチェンジが起こり、製造業の拠点撤退を余儀なくされる選択も生まれてきます。そうなれば今は安定的な就職率にも影響が出てきて、富山県の経済が不安定になる可能性も起こりうると思うのです。
例えば、自分自身の生き方の中で、「もう一つ自分に何か出来るかもしれない」と緩やかな第2、第3の選択肢を持つような文化を作っていく。種まきに始まり、水をあげて自分だけの芽が出るかもしれない。こうしたチャレンジをしてもらう環境をSCOPで作っていきたい。本業を全うしつつも、何かに関われるようなライト感が良いんです。この表現が相応しいかはわかりませんが、「頑張らないように頑張る」を大切にしていきたいですね。
ラボ
田中さん、お願いします!
田中さん
まずは私の自己紹介を(笑)。私は東京都内在住で子供が2人いて、前職はデベロッパー・建築の業界です。約2年前に退職して創業しました。独立して様々な仕事をしていますが、plan-Aはその仕事の中の一つになります。
SCOPは私の憧れの場と言いますか、自然が豊かで、住宅があり、仕事も出来てチャレンジ出来る環境があるので、素晴らしい場所であると感じています。知識とやる気があっても「場所」がなければ挑戦するハードルはすごく高いですし、逆に場所があっても「何をやればいいの?」とのハードルもあります。
これらのハードルを超えるためのサポートをはじめ、創業支援のコンテンツ内容の企画、SCOPを使って何が出来るか?を考える仕事をしていきます。
相澤さん
自分自身が繋がっているコミュニティのチャンネルを増やしておく。こんな仕事があるんだ、こんな生き方があるんだと、選択肢の拡張が生まれればいいですね。何かをやりながら違う領域、違う人たちに繋がることは、人生の選択肢が増えます。
田中さん
ただ、「世界を広げっぱなし」では何を選んで良いか分からなくなるので、1歩目の具体的なアクションが起こせたり、何歩か歩んだけども方向性を変えることも出来る。そんな様々な事例を見ることが出来る場にもなるかと思います。幼児や児童向けのワークショップも展開したいですね!
野村さん
ワークショップアトリエ、チャレンジショップやイベントスペースもあります。いろんな方にまずはこの施設に来てもらうことが大事かなと思います。
ラボ
建築甲子園での日本一。約3年にわたるWS。高校生やデザイナー、様々な人が携わる「SCOP」ですが、どのようなご感想をお持ちでしょうか?
野村さん
設計者の仲建築設計スタジオさんやデザイナーの方々と富山工業高校建築工学科3年生の生徒が4年間かけてワークショップ(以下= WS)に取り組み、椅子や照明、エクステリア、チャレンジショップカフェの壁面グラフィックなどを仕上げてくれました。
※わかもんVol.11「ワークショップ」参照
https://www.kensetsu-labo.com/series/3427
田中さん
このWS自体も「創業」の一つですよね。ある意味、作品を仕上げて納品したという。一つの実績として、こうしたWSも出来るんだということも伝えたいですよね。
野村さん
学校の授業では椅子、照明などを作る機会はなく、デザイナーさんらのお話を生徒さんはもちろん、先生も熱心に聞いてくれて活動してくださいました。生徒さんにも先生にもチャレンジングなWSだったのではないかと思います。
田中さん
まさに創業の一歩は、こうした取り組みや活動が挙げられます。WSの経験を、SCOPの「WS」として展開して欲しいですね!高校生に講師をお願いしたいです!
相澤さん
「建築甲子園日本一」が単純に凄いね!で終わることがなく、形にしようと事業化になり、現実になって間も無く完成を迎える。ワー!っと盛り上がって意気消沈することなく、富山県の「本当に形にしてしまう」ところが凄い。もちろん、事業化するまでに様々な苦労はあったと思いますが、現実化すること自体が一つの「県」としての強さを感じます。こんなパワーを持っている自治体はこれまでに見たことがないです。
田中さん
本当にそうですね。見たことないです。
相澤さん
建築甲子園で日本一に輝いた4人の生徒さんと先生については、そもそもこの蓮町団地を題材にされたことが素晴らしくセンス良いですよね。
相澤さん
いくつかの要素を複合化していく趣向も先見性があり、何がこれから先の時代が必要なのか包括的に見ていますよね。そしてWSを4年間続けてこられたこと。
これは冷静に考えると、先輩がやっていることを後輩が引き継がなければ成り立ちませんよね。これは高校の伝統、もしくは文化になっている。本当に凄い!
野村さん
この4年間はコロナ禍でありますので、デザイナーの方々は来県出来ず、オンラインで繋ぎながらの技術指導も大変だったと思います。
田中さん
一流のデザイナーと触れ合うこと、デザイナーの振る舞いを知ること自体が勉強になりますよね。ただ、WSや建築甲子園など様々なことがあった影響で、SCOP自身が地に足が着いている施設だと感じています。
これから初めてSCOPを知る人もこうした経緯を感じながら、活動してもらえればと思います。私自身も全国様々な施設を見ていますが、SCOPみたいな施設は初めてです。
野村さん
WSの作品には、高校生一人ひとりの想いが宿っています。そして、藤井先生をはじめ富山工業高校の先生の熱意なしではここまで来ることはできませんでした。
ラボ
仲建築設計スタジオさんの設計では、「縦糸と横糸」などのコンセプトを掲げていらっしゃいました。これは運営する立場とってどう捉えていらっしゃいますか?
相澤さん
これは偶然かもしれませんが、私がこれまで運営に携わっている施設はあらゆる価値と人を結節させる機能を果たすため、常に議論を重ねている場所です。ですので、仲さんがお考えの「縦糸と横糸」や人が行き交うようなコンセプトに全く違和感はありませんでした。
SCOPは団地構造なので、人と人を結び付けようとしてもそこに「壁」が立ちはだかります。場をつくる運営の立場としてハードルが高いなと思っていましたが、現場を見学した際にその団地を横一直線にぶち抜いている光景を目の当たりにしてビックリ!(笑)。ストレスなく人が行き交う環境が出来ると感じました。
ラボ
最後に創業を目指す学生さんや若者に向けて、メッセージをいただけますでしょうか?
田中さん
創業って勝負だったり、大成功するためのもの。そんなイメージがあるかもしれません。もちろんその側面もありますが、自分自身の安定した仕事や暮らし、生活をするためのものでもあります。自分の好きなもので人の役に立ちたい、誰かを喜ばせたい。創業は目的を間違えなければ、そんなに恐ろしいものではないですし、特別な人がするものでもないですよ!
相澤さん
創業は「小さな自己実現」。例えば今時ですと、あわや幼稚園児でも動画の編集が出来たりします。ただ、私みたいな昭和世代だと、動画編集に二の足を踏んでしまいます。
若い世代の人達がなんて事なく普通にこなす事が、他の世代にとってはとても価値のある事だったりします。その事に気づかせてくれる人が身の周りにいるかどうかで考え方は変わる。創業=「新たな発見をしなければならない」なんて事はないんです。
創業支援センター1階に「物販」が出来る小さなスペースがあります。そこに自らが開発、デザインした商品を並んで販売・展示する事が出来ます。お店を出店したり、ネット販売する前の試験的な取り組みがこのスペースで出来ます。これこそが小さな自己実現です。
山本さん
plan-Aさんは、私たちよりもSCOPの先を見据えていらっしゃるなと感じます。我々もそのビジョンに追いつけるよう、これからも頑張ります!!!!
相澤さん
SCOPの事業は県庁をはじめ、設計者、施工者…。これまで数あるプロジェクトを見てきましたが、良きチームだと感じます。それぞれの目標値が明確であり、利益だけを追求するわけでなく、使命感すらも感じます。このチーム感が外ににじみ出て、大きく輪が広がっていけば良いかなど感じます。
ラボ
ありがとうございます!オープンが楽しみです!
相澤さん
はい、楽しみと同時にプレッシャーが…(苦笑)。