連載記事
※隔週火曜日に公開
仲建築設計スタジオ
「地表面を活性化させるランドスケープデザイン」
少し前の話になりますが、富山市内に借りていたアパートを引き払いました。富山での暮らしが1年以上にもなっていたので寂しくもありましたが、一方で建築工事に目途がつきましたし、東京にいる長男はあまりしゃべらない間に声変わりをしてたし(軽くショックでした…笑)、次男は次男でやんちゃになってきたので、やむを得ませんでした。
建築の延長としてのランドスケープ
…さて。
この原稿を書いている時点で建築工事は終わり、現場は外構工事が続いています。足場が取れて、3棟の輪郭がしっかり見えます。
9月29日には創業支援センターが報道陣向けに公開され、たくさんのメディアの方がいらっしゃいました。この日は指定管理者を代表して相澤毅さんが運営や目標を語っていましたが、もう期待しかありません。少し前に相澤さんが横浜で運営されているシェアオフィスを見学させていただきましたが、空間がまず、かっこよかったです。軽やかで堅苦しくなく、見た目のシンプルにも気を使っていて。
この手のシェア空間はとにかく、とにかく、「タコツボ感やら内輪感やらが醸し出されること」は避けなくてはいけません。だって、広がりをつくるためにシェアする(share=共有する)のですから。とりわけ今回は都市部から移住してくる人や、あらたに創業する人をターゲットにした新しいイメージの空間なので、「風通しの良さ」はなおさら意識しなくてはいけません。
これまでコラムで散々取り上げてきた「横糸をつくる」というのは、壁構造の団地に対して、そんな風通しの良さを得るためでした。今回のコラムでは、ランドスケープの話をします。建築だけでなく、ランドスケープのデザインも風通しの良さを得ることの一端を担っている、という話です。
建築とともに地表面を活性化する
SCOP TOYAMAのエリア全体でいくつかの「庭」をつくります。平面図を見てもらうと、建物と建物のあいだに「○○の庭」という場所がわかると思います。それらの庭と深く関わるように、「横糸」空間=平面図でオレンジに塗ってあるところ=をつくります。
もともと住宅があったのだから、「庭」なんてあたりまえじゃないか、と思うかも知れません。でも、ここにあったのは、ただの「空き地」でした。この写真を見てください。設計中に撮った写真です。1階は外側に対して閉ざされています。住棟と住棟の間は人気(ひとけ)の無いただの「空き地」でした。ここには人がいる想定ではなかったのです。
どうしてかというと、団地というのはプライバシー確保のためのみでつくられた、いわば居住施設だったからです。施設というと堅苦しい、機械のように感じるかも知れませんが、まさにそうだったわけです。お店であるわけでもないし、庭に開く必要性はありませんでした。
でも、、、新しいSCOP TOYAMAはそうではいけません。相澤さんが前述の記者会見で話していましたが、SCOP TOYAMAには「ひと・もの・こと」が集まり、出会い、刺激し合う、そんな場となることが期待されています。「庭」はそのきっかけとしてとても重要な空間なのです。
具体的に見ていきましょうか。先にあげた平面図もあわせてご覧ください。「エントランスの庭」はライトレールで来る人が馬場記念公園を経由して辿り着く部分です。エリアマップや掲示板を貼るためのコンクリート製の壁を「斜に構えて」配置し、人の流れを創業支援センターに誘おうと考えました。
看板の裏には木陰とセットになったベンチをつくり、落ちついた居場所にします。カフェでテイクアウトしてここで待ち合わせするなんて、良いかもなぁと思いながら、設計してました。
次に、「交流の庭」は創業支援センターと東棟の間にできる芝生広場です。この写真ではまだ芝生を張っていませんが、青々とした芝生の広場になると思います。コモンアーケードをステージと見立ててのイベントも可能です。
コモンアーケードの上階からも庭がよく見えます。歩廊があることで、交流の庭に適度な「囲まれ感」が得られることに気がつきました。適度な広がりをもった囲まれ感が得られるよう、歩廊カーブの具合を調整することに、相当な時間をかけました。
「DIYの庭」は西棟と創業支援センターの間です。大きな作業テーブルとベンチが設えられています。西棟1階のコモンキッチンからテラス経由ですぐに降りていけます。このテラスにはケヤキの影が心地よく落ちます。この大きなケヤキは、もともとここに生えていたものです。
最後に、「畑の庭」は東棟と駐車場の間のことです。畑で育てた野菜や果物を収穫して、コモンキッチンに運び込み、みんなで料理ができたら楽しそうですよね。西棟と同じように、大きな庇のあるテラスは内外を繋いでくれます。
写真のあちこちにでてきますが、建物どうしや庭を結びつけるために、屋根付きの歩廊(渡り廊下)をつくっています。以前、コラムで触れた、「横糸」のひとつです。並行配置された団地の住棟を「縦糸」と見なして、職住融合エリアをとして一体化するために通した「横糸」です。住棟を貫通できるところを結んでいるので、直線状では無く、緩やかにカーブしています。1階平面図をもう一度見てもらった方が分かりやすいかも知れません。
シャギーに浮かぶ外の居場所と歩廊
さて、ここまで来たところで、お気づきかも知れません。舗装が白と黒(数ヶ月のうちに灰色になる)のシマシマパターンになっています。その上に大きなベンチやテーブル、歩廊が横切るように配置されています。
シマシマのラインは、並行配置された団地の角度に揃えています。エリア全体に軽やかさを付けたいと思ったところから発想したもので、「シャギー」と呼んでいます。シャギーの形が出てきたときに、「なんか良いと思うけどなんでだろう」と考え続けたのですが、団地の補助線である並行線を露わにして、その下地の上に、新しい居場所を浮かばせて強調したいと思いました。
シャギーの形や色は、はじめはもっと多彩で複雑だったのですが、新しい居場所を浮かび上がらせる背景に徹すべく、シンプルなデザインにしました。どちらもアスファルト舗装なのですが、骨材として石灰石を混ぜ、舗装後にブラスト加工することで白い範囲を効果的につくっています。
下の画像は西側駐車場です。僕は駐車場には基本設計時にしか関わっていませんが、ここにもシャギーを展開して、エリア全体の一体感をつくっています。
植栽工事はというと、低木地被類の植え込みから始まっています。施工者の皆さんは丁寧に打合せを重ねながら、進めてくださっています。高木も植えられ始めています。高木は日影がほしいところに厳選しました。木の影が建物の外壁に映り込むと存在感が2倍になる気がして、好きです。
夜はまた別の風情を見せます。創業支援センターのコモンテラスと銅板パネルにはライン状のシャープな照明がつきます。照明の色温度は、内部も外部の電球色(2700K〜3000K)に統一しています。エリア全体で優しさに満ちた夜景をつくろうとしてきました。
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蓮町のプロジェクト、例えるなら、マラソンで「競技場に戻ってきましたー」という段階でしょうか。とはいえまだ緊張しています。こんなに夢の詰まったプロジェクトに参加できたことは一生の宝です。外構工事が続いていますので、最後までしっかり役目を果たそうと思います。
冒頭に書いたように、単身赴任生活を終え、東京から現場に通っています。道中、オリジナルトートバッグを持ち歩いて、SCOP TOYAMAを「ひとり宣伝」しています。
※Vol .28 写真提供:仲建築設計スタジオ
目に見える効果は無いかも知れませんね。でも、富山への注目が少しでも増えることを期待して設計してきたので、しばらくやらせて下さい(笑)。東京駅の少し北側にある、富山県のアンテナショップに持っていってみようかな(笑)。
そうそう、10/28オープンの直後、10/30には地元の方々がずっと続けてこられたマルシェがSCOP TOYAMAの一角で開催されるそうです。ぜひ足を運んでいただけたらと思います。
長らく連載させて頂きました。読者のみなさんにはお付き合い頂きまして、ありがとうございました。SCOP TOYAMAが素晴らしい富山の、新しい魅力になることを切に祈っています。