連載記事
テーマに沿って12名の建築家が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第1弾のテーマは「建築設計との出会い」です。
※毎週火曜日に掲載
dot studio一級建築士事務所
テーマ vol.1 建築設計との出会い
「自分の思いを形にしてくれた建築士さん」
中学2年生の頃、実家を新築したことがありました。建築士さんとの打合わせにも時々参加させてもらい、自分の部屋の収納レイアウトなどを考えさせてもらっていました。自分が使う収納については、子供ながらに制服はハンガーにかけたい、コートはここで、下着類はここの引出しにといった具合です。ですが、出来てみて気づくことが多々あり、とても使いにくい部分もありました。
設計の最終段階で、建築士さんから「他に何か欲しいものあるかな?」と聞かれ、反抗期だった僕は両親に「星が見られる天窓があればイイ子になるわ」と言った記憶があります。父親からすれば、3人兄弟の僕の部屋にだけ天窓をつけるわけにもいかず、各部屋に天窓をつけることになり大変な思いをしただろうと思います。
ただ、それが完成した時は、本当に天窓がついたことにただただ感動し、建築士さんが何でも叶えてくれる魔法使いのように感じました。これが僕の建築士を志すきっかけとなりました。
今思うと、建築士目線ではその収納は使いにくいし、その大きな天窓は日差しで暑いなど気付くこともあったかもしれないし、親には伝えたかもしれません。でも当時の僕にとっては使いにくさと寝起きの日射しの暑さよりも、とにかくそのまま形にしてくれたことが嬉しかったのです。
その後、大学の建築学科に進学しました。学生時代に恩師と共に取り組んだ設計コンペで、茨城県の桜川市にある真壁伝承館(図書館・集会ホール・歴史資料館の複合施設)の建替え計画に取り組み、自分たちの提案が選定されました。その後、恩師の設計事務所に入所してそのまま設計・現場監理を担当しました。
建物完成後、近所の小学校で子供たちに建築士の仕事を紹介する機会を頂いた際、真壁伝承館を毎日のように利用しているという小学生の中で数人の子が建築士になりたいと言っていました。僕が「天窓」から影響を受けたように、公共の建物がその町の子供たちに建築設計との出会いを与えているのかもしれないと感動したことを覚えています。
今僕たちの事務所は3人のメンバーで設計活動をしています。全員大学の同じ研究室出身ですが、その後はそれぞれ異なる経験をしてきました。dotstudioのプロジェクトは全て初期段階からコンセプトを共有しながら進めています。
建築はつくるうえで様々な過程があり、たくさんの人たちが関わる仕事です。
いろんな視点からの意見が入ってくることが難しく感じることもありますが、迷ったときは常にチームで話し合います。やっぱり一番大事なことはクライアントの思いを丁寧に聞いてそれを形にしようと、初心にかえってシンプルに考えることだと思います。