連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第1弾のテーマは「建築設計との出会い」です。
※毎週火曜日に掲載
三四五建築研究所
テーマ vol.01 建築設計との出会い
「建築を通して、人や社会と向き合う」
私にとっての建築設計との出会いは、何か決定的な出来事があったわけではなく、様々な人との出会いの中で、大きく影響を受けながら、気づいたら出会っていたという表現が当てはまるように思います。深く知れば知るほど、どんどんハマっていく、そんな出会い方かもしれません。
色々と昔の記憶を辿っていくと、根幹として、私の家族からの影響が大きいように思います。
私の父は家具やインテリアを扱う仕事をしていました。その関係で、子どもの頃から家には綺麗にデザインされた家具や照明があり、なかでも、プロダクトデザイナーがつくったダイニングテーブルが子どもながらに大好きでした。普通の長方形ではなく、当時にしては珍しいビーンズ型のテーブルで、座る場所やテーブルを囲む人数、シーンによって団らんの形が自在に変化していく。デザインという概念が身近にあり、その面白さを知らず知らずのうちに体験していたように思います。
ファッション・インテリア・プロダクトなど、デザイン関係の仕事に憧れていましたが、1人暮らしがしたいという安直な理由で大学を選んでしまい…。案の定、入学後に自分は将来何になりたいのか、深く悩み込んでしまいました。
その頃、たまたま実家に帰省すると、姉が建築の専門学校に楽しそうに通っていて、設計課題で模型やスケッチを描いたり、授業と称して建築ウォッチングで旅行に行ったりしているのを見て、「なんて楽しそうなんだ!」と、建築設計という仕事に一気に興味が湧きました。
建築設計について、姉に色々教えてもらったり、自分で本を読んで調べたりする内に、ただの設計士ではなく、建築家とよばれる人達がいるらしいという事を知りました。建築家は、カッコいい建物をつくるだけでなく、建物を通して人や社会、歴史に向き合う職業だという事をおぼろげながらに理解しました。その頃何度も読み返していたのは、安藤忠雄さんの本でした。安藤さん独特の熱い語り口に感化されて、そこからは建築家になりたいと強く思うようになりましたね。
その後、大学卒業後に大阪の建築専門学校に再入学しました。日中は実務を覚えられるように設計事務所でアルバイトをし、夜間に学校へ通う日々でした。課題や製図はとても楽しく、学校生活は充実していたのですが、アルバイト先の設計事務所はマンション設計専門だったり、建売住宅の下請けをしていたりで、なかなか思い描いていた建築家に出会うことはありませんでした。
そろそろ卒業間近の頃、就職先も決まらず、のんびりしているのを見かねてか、姉からWIZ ARCHITECTSの吉井歳晴さんという建築家を紹介されました。この方との出会いが、私にとっての本物の建築家との出会いでした。「進路を決めかねているなら、しばらくウチに来て視野を広げてみれば?」ということで半年程、アルバイトでお世話になりました。
一緒にご飯を食べにいったら、「なぜ今日はざるそばを選んだのか?」をコンセプト化して、理論立てて、建築的な説明を求められたり(笑)。建築だけでなく、デザイン全般や社会、スポーツのことまで、夜な夜な話をされる深い知識が全て建築につながっていたり、関西の様々な建築家を紹介してくれたりと、非常に濃厚な時間を過ごさせてもらいました。
その頃に教えて頂いた「抽象化思考」、「社会との関係性をデザイン」、「建築の理念性の獲得」というキーワードは20年近く経った今でも、日々の仕事をする上でとても大切にしています。
「建築自体を目標にするのではなく、建築を通して人や社会と向き合う」
様々な出会いの中で見つけた、私が大切にしているケンチク理念です。人からの影響を大いに受けやすい私ですから、今後も新しい出会いの中で常に変化や成長を楽しみたいですね。