連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第1弾のテーマは「建築設計との出会い」です。
※毎週火曜日に掲載
dot studio一級建築士事務所
テーマ vol.01 建築設計との出会い
「秘密基地へ」
神奈川県横須賀市に、私の名前をつけてくれた人がいる。遠い親戚で工務店を営んでおり、幼少期に何度か遊びに行ったことがある。
母屋の前に木材を加工する工場があり、木材、ベニヤ板、大小様々な工具が行儀よく並べられていた。日中は大工さんが加工してくれた木片を積み木のようにして遊び、夜はそれらをお湯に浮かべて船にして遊んでいた。自宅から2時間半、誰も知らない特別な秘密基地に来たような気がした。成長と共に訪れる機会は減ったが、いつまでも遊んでいられるおもちゃをつくってくれる大工さんに、憧れを抱いていた。
中学に上がると、自宅が新築されたことをきっかけに、大工さんが家を建てるための図面、さらには図面を描く建築家という存在を知り、ぼんやりと、将来の夢にした。
高校では建築学科のある大学へ進学する為に、苦手な理系を選択した。大学へ進学してからは劣等生だったが、仕事として建築に携わりたい気持ちがあり、当時は設計職であれば大学院に進学する人が多かった為、私も大学院の意匠系の研究室に所属した。大学院では研究室での活動に加え、アルバイトで様々な設計事務所を訪れた。それぞれ雰囲気もやり方も異なり、多くの先輩に色々なことを教えてもらったし、別の大学の生徒との交流も多かった。大学院生活はあっという間だった。
在学最後に修士設計に取り組むことになるが、テーマが決まらず悩んでいた時、なにげなく読んでいたフランク・ロイド・ライトの書籍に、彼が幼少期に積み木などの玩具で遊んでいたということが書かれていた。
そのとき、幼い頃に秘密基地で小さな木片で遊んでいたことをハッと思い出し、テーマを玩具にすることに決めた。生意気にも、「設計者は空間体験に起因した純粋な思考を置き忘れてしまっている」などと語り、玩具的建築思考と名付けた積み木のような玩具に起因した設計手法を提案した。
アルバイト先の所長に「将来、設計を続けていくなら学生最後の修士設計は、今後の自分の設計手法のベースになり得るものだよ」と言われたことがあったので、自分なりに懸命に取り組んだ。そのまま、その設計事務所に4年弱勤めた後、現在東京を離れて富山で設計を続けているが、修士設計での提案が、今の自分の設計手法ベースになっているのかはわからない。
ただ、遠い昔に、時間を忘れて木片で遊んでいた時の心弾む気持ちは今でも大事にしているし、アイデアに煮詰まったときなどは、あの頃の秘密基地へ想いを巡らせている。