連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第1弾のテーマは「建築設計との出会い」です。
※毎週火曜日に掲載

神田謙匠建築設計事務所
テーマ vol.01建築設計との出会い
「転機は原体験の中に」
私は自然豊かな野山に囲まれて育ちました。一家で工務店を営んでおり、生活の傍らにはかっこいい道具とそれを自在に操る大工さんの姿。ワクワクしながら作業場を覗いては、その仕事と腕っぷしに憧れていました。そんな環境の中で一転して〝設計〟を意識し、現在につながっているエピソードがあります。

遊びまわった野山や川
あれは小学校2年生だったか、3年生だったかの夏休みのこと。私は宿題の工作をこなすため、人生初の設計図を描いていました。作りたかったのは鳥の巣箱。当時は建築というより生き物が好きで、その中間を選び取ったのは自然なことだったのかもしれません。作業場にあった図面を借りて横に置き、そして図鑑で鳥の生態や大きさを調べながら、夢中でそれっぽい設計図を描き上げました。
いざ図面を形にするべく、そして友達に自慢できるクオリティを求めて、手伝いと引き換えに父の半日を手に入れました。そして、ちんぷんかんぷんであったであろう設計図からは想像できない、だけど思い描いた通りの巣箱が完成しました(今でも思いますが、大工さんの意図を読み取ったり聞き出す力はすごい!)。
2学期を迎えた私は、持ち帰った巣箱を裏山に取り付けました。すぐに入居者が現れるはずと観察していましたが、雪が降っても鳥が住み着く様子はありませんでした。野生相手では何が問題かもわかりません。
そして巣箱への関心が薄れきっていた次の年の春のこと、ふと思い出したように見に行くと、なんと1匹のヤマガラが丸い孔から顔をだしているではありませんか!あの瞬間はシビレました。自分の設計がなんだか認められたようで、とても嬉しかった記憶が焼き付いています。
そこからはヤマガラのことが気になって仕方ありませんでした。寒くないだろうか、狭くないだろうか、ヘビは登ってこないだろうか…。心配をよそに、子育てを終えたヤマガラは再び旅立っていきました。もぬけの殻になった巣箱の中は、合格の判のように散らかっていたのが印象に残っています。
巣箱は建築と呼べないかもしれません。しかし今振り返ると、あの巣箱には建築設計に大切ないくつかの過程と楽しさが詰まっていたように思います。単純な性格の私は、このたったひとつの体験に惹きつけられて大工ではなく建築家を目指しました。

私にとっての幸せを運ぶ鳥
高校からは山を抜け出して、建築学科に進学しました。(ラグビー漬けでさっそく建築は二の次だったんですが、それはまた別のお話)大学では建築を語らう仲間ができ、知識やテクニックを蓄え、そして師匠に出会って一気に建築設計の道が拓けました。
ラグビーボールさながら未来はどこに転がっていくかわかりません。しかし、こうして昔のことを思い返していると、あの頃に描いた巣箱の設計図から地続きの今があるのだと感じてなりません。
進路に迷っていたり、これからターニングポイントを迎える方には、将来像を描くことと一緒に、自分のルーツも探ってみてほしいと思います。私にとってのヤマガラとの出会いがそうであったように、もしかすると原体験の中に人生を変えるきっかけが見つかるかもしれません。