連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第1弾のテーマは「建築設計との出会い」です。
※毎週火曜日に掲載
深山知子一級建築士事務所・レトノ
テーマ vol.01建築設計との出会い
「Don’t think, feel!」
私が「建築」というものに出会って、とても衝撃を受けたのは、高校2年生の頃、富山市立図書館で「谷村美術館」のモノクロ写真がいくつか展示してあり、それを見た時でした。
建物のフォルムが今まで自分が知っていたものとは全く異なり、そして写真がモノクロだったこともあいまって、地中奥深くから立ち上がるかのようなその建築に、ただただ感動しました。本当にその写真が素敵だったのです。
それだけが理由ではありませんが、そんな経緯もあって大学は建築学科に進みました。現在の建築学科で、このような考え方がまだあるかどうかはわかりませんが、設計課題の時にはいつも、コンセプトが大事だと先生方から教わりました。授業を通して日本や世界の建築家たちの作品に触れていくのですが、どのようなコンセプトで設計していたのか、建築雑誌に書いてある内容を何度読んでも、当時はその深い意図をほとんど理解ができなかったです。
そうして社会人になり、実際に設計という仕事を通して初めて、本当の意味での建築設計というものに出会うことになったと思います。もともと、心を扱う領域に興味があったため、建築の仕事をする中で「建築が心にどのような影響をおよぼすのか」これが私のテーマとなっていきました。
現在、事務所では住宅の設計を依頼されることが多いのですが、クライアントからお話をお聞きする中で、住宅に対する要望は実に様々なものが出できます。多岐にわたる要望に対して、最適解を見つけ、顕在意識ではなく潜在意識の中にある人間共通の願いや望みを建築によって満たすことができる。
別の言い方をすれば、常に変動する顕在化された要望をさらりと満たしながら、潜在意識下にある魂の願い、それを満たすエッセンスを建築にちりばめる。そんな素敵なことが、建築設計の魅力の一つではないかと思います。
私の思い入れのある「谷村美術館」は新潟県糸魚川市にあり、富山から近いこともあって度々訪れています。その空間はいつも穏やかで、曖昧な境界線により身体が優しく包みこまれる感覚にさせてくれます。この感覚を言葉で伝えようとすると、私の思いとはうらはらに空間の良さが全く伝わらないような気がしますので、やはりここは実際に訪れてみることをおすすめします。
「Don’t think, feel!」
建築設計とはまさに感じる(feel!)ことからがスタートなのかもしれないです。