「お抱え職人文化を再興する」

普段取材を受ける機会も多いのですが、今回とやま建設ラボさんから寄稿のご依頼をいただき、改めて「建築と自分」について考えるきっかけにしようと思います。何も脚色しない等身大のままお伝えしますので、おそらくご覧いただく方によっては全く面白くない文章になるかもしれませんがご容赦いただければ幸いです。

思い返してみると、私の建築設計やデザインに対する興味は母が定期購読をしていた婦人生活社が発行する「私の部屋」という雑誌が原点かもしれません。

小学生の頃、私は野球やサッカークラブに打ち込んでいる友人をよそ目に、毎日のようにオタク仲間と共に友人宅に集まってはテレビゲーム三昧でした（今でこそゲームは市民権を得ていますが…笑）。ただ、母は非常に厳しい人で門限があり17時までには帰宅しなければならず、家に帰っても毎日暇に過ごしていました。

私の部屋

そこで両親の部屋で見つけたのが「私の部屋」という雑誌。現在は廃刊になっていますが、「本当の豊かさは自分自身の中にある。かけがえのない私の部屋を作ろう」というメッセージのもと日本の美しく豊かな暮らし方やインテリアをはじめ、工芸品や家庭用品までカラフルな写真で表現されていました。

私は、その色とりどりの世界に魅了され、毎号食い入る様に見ては自分の部屋の模様替えをしたり、「目の保養」という名目で出かける母のウィンドウショッピングについて行きました。そこから様々な婦人雑誌に興味が湧き、町の図書館に行っては片っ端から婦人雑誌を読み漁る小学生で、司書の方からは異様な小学生だと思われていたと思います。

私は、一般的なサラリーマン一家の次男として育ち、特に不自由なく高校に進学、アルバイトに明け暮れ、稼いだお金は全てファッションにつぎ込むという、ありがちな「モテたい病」の男子高校生でした。

ただ、小学生からの習慣なのかブランド品の服を買う際も毎回、デザイナーは誰なのか、どういった経緯でつくられたブランドなのか、ストーリーはどうなのか等、インターネットもない時代にファッション誌を読み漁っては「買って良かった」と自己満足するネタを探していました。おそらく教科書よりもファッション誌を読んでいたと思います（笑）。

筆者の大学時代

そんなろくでもない青少年時代から改めて読み取れるのは「モノとそこに秘められたストーリー」に執念に近い渇望があったことは、おそらく私の建築設計業の根底に流れている様に思います。

私たちコラレアルチザンジャパンは「お抱え職人文化を再興する」という、建築設計事務所らしからぬビジョンを掲げて活動をしています。日本は明治時代に入り、西洋から建築家という職能が持ち込まれて以来、アカデミックな道を進んできました。時に建築家は発展途上国の大きな都市計画まで携わる様になり「先生」という名前で呼ばれる様になります。

しかし、都市にはじまり建築、家具から家庭用品まで、すべては個の「つくり手」から生まれます。いわゆる学歴とかブランドとか、わかりやすい「お題目」の信用が薄れている現代、使うことに喜びを感じる手触り感のある建築（または都市）はつくれないか？そういう想いから、つくり手である日本の職人たちと健やかな関係を築き、ヒエラルキーのないフラットな関係性で自分たちの暮らし方を築いていけたらと思って活動しています。

職人さんとの打ち合わせ

次回は、私自身の建築をつくるプロセスについて考察していこうと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました。呪文や暗号のような言葉ばかりを使う建築「学」の先生等に嫌気がさしてきたうつ気味の学生にとって、少しだけでも勇気を持ってもらえたら幸せです。