連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第1弾のテーマは「建築設計との出会い」です。
※毎週火曜日に掲載
HAJIME YOSHIDA ARCHITECTURE
テーマ vol.01建築設計との出会い
「一冊のポートフォリオ」
手縫いで制服を改造したり、服のリメイクをしたり、グラフィックTシャツを製作したり、ファッションが好きでものをつくることの楽しさを知りながらも、将来何をしたいのか分からず過ごしていた高校時代。大学受験はなんとなく済ました。
入学した学科は2年生から4つの専攻を選べるところだったので、その時もなんとなく建築を選び、そこで初めて建築と出会った。
たまたま選んだ建築という分野だったけど、ものづくりが好きだった僕にとって設計課題は楽しく、夢中になり、ずっと製図室で過ごしていた。当時の有り余るエネルギーをひたすら創作活動にぶつけていたが、時に服をつくったりアートをつくったり図面を刺繍したり、お堅い大学の中で人と違うことばかりしていた僕はほとんど評価されなかった。
そんな感じだったので、正直建築を辞めようかと迷っていたが、とりあえず納得のいく自分の作品集(ポートフォリオ)をつくり、それから卒業後の進路を決めようと思い、卒業前の一年間はひたすら自分の作品に向き合っていた。
日本では一切就活をせず、ずっと憧れだったフランスの巨匠ドミニク・ペローの事務所にポートフォリオを送ることにした。自分のエネルギーを表現するには普通のファイルのものでは収まらず、本のつくりを研究し、自分ですべて製本した図鑑のようなポートフォリオを送った。
英語がしゃべれない、海外留学経験などもない僕が、いいポートフォリオを送れば就職できると思い込んでいる能天気さは今思うと笑えるが、送った1週間後にメールが来て本当に採用された。面接もなかったので、英語が話せないことはバレなかった(笑)。
その後契約書が送られてきて、ビザをとって、大学院を卒業してすぐに渡仏した。ふざけた建築学生だった僕が初めて評価してもらえた気がして、建築を辞めようと思っていた気持ちは無くなった。一冊のポートフォリオが人生を変えた。
それから僕はドミニク・ペロー事務所で仕事をしながらたくさんのことを学んだ。形をつくるのが得意だった僕はコンセプトをつくる仕事、基本設計をメインにし10カ国21のプロジェクトに関わり、師匠がどのようなプロセスでデザインをつくっていくかをずっと側で見れたことが今の自分の仕事に活きている。
好きなことだけ好きなようにやっていた学生時代だったが、偉大な師匠のもと、優秀な同僚たちのもとで設計の基礎を学び、パリで過ごしながらたくさんの建築や芸術と触れたことは、学生時代とは違うリアルで本物の建築との出会いだった。
そして師匠と比較することや外から日本という自分の国を見れたことで、自分が何に向き合うかということも自覚できた。
独立した今の自分も学生時代のように建築をベースにしながら様々な創作活動を行っている。今はパリで学んだ大きなものが僕の中にあり、あの頃は想像もしなかった地元で活動し、変わったようで変わらない気持ちでいられるのは、一冊のポートフォリオのおかげだと思う。