連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第2弾のテーマは「完成までのプロセス~人との出会い~」です。
※毎週火曜日に掲載
三四五建築研究所
テーマ vol.02完成までのプロセス
~人との出会い~
「組織設計の日常と
設計における対話の意味」
第 1 回目のテーマ「建築設計との出会い」について、十人十色のストーリー性があって、興味深かったですね。普段ご一緒する身近な設計者や、同年代の建築家のエピソードはとても刺激を受けました。今回のリレーブログでは、いわゆる、アトリエ事務所と組織設計事務所の方が混在して記事を書いているところが面白いと思います。
今回のテーマは「完成までのプロセス〜人との出会い〜」ということで、私の普段の仕事にグッと引き寄せて、「組織設計の日常と設計における対話の意味」について、書いてみたいと思います。
まずは、私の所属する組織設計事務所について。
設計事務所を大雑把に分けると、アトリエと呼ばれる建築家の個人名を冠した設計事務所と、会社的な組織設計事務所に分かれます。アトリエは創作的な性格が強く、雑誌などで目にするカッコイイ建築は、アトリエのものが多い傾向にあります。一方、組織設計はビジネスの側面が強く、多用途や大規模建築に対応し、事務所規模も大きくなりがちです。
また、組織設計に求められる建築の評価軸は規模が大きくなる分、多様化しがちです。建築デザイン、機能性、コストなどに加えて、地球環境への配慮、セキュリティ、BCP(事業継続計画)、最近ではジェンダー対応など多岐にわたります。
それらの評価軸に対し、全項目で 80 点以上の優等生、多角形チャートで示すと正円に近いものを求められます。一方アトリエでは、どこかの項目で突き抜けた提案を行い、魅力的な建築や新たな価値創造を求められます。
東京のアトリエ事務所で実務経験を積んだ後、富山に移住する際「地方の組織設計でも、もっとイケてる建築がつくれるのでは!?」と意気込んでいました。しかし、組織での仕事を開始すると、その甘い考えを徹底的に懲らしめられました……。
組織設計の施主は、官公庁や大きな企業である場合が多く、厳しい要望に対応するための資料作成や複雑な行政手続き、頻繁な連絡会議など、設計の質を高めることとは別の膨大な業務に追われます。
また、守らなければいけない仕様書や面積・コスト制限など、経済合理性や前例主義による機能的なジャッジが働き、そこに空間的新しさの入り込む余地は少ないのです。そもそものスタートとして、無駄なく・使いやすく・安いが至上価値にあり、デザイン性を求められていない仕事も多々あります。
このように組織設計は、様々な側面から、建築の新たな価値創造や空間の質を高めるという点でかなりの苦戦を強いられています。悶々とした数年間を過ごした後、ある一つのプロジェクトがきっかけで、様々な気づきがあり、モヤモヤが晴れていきました。
それは大学の新校舎を中心にキャンパス全体を再構築するプロジェクトで、設計プロポーザルから現場監理まで、5年近くを費やしました。その過程ではたくさんの人との対話があり、その上で「建築が成り立つ」経験をしました。その経験とは、対話の中から単純に目の前の要求に答えるのではなく、抽象化されたモノゴトの本質をつかみとる重要性です。
公共建築の施主=ユーザーではありません。設計打合せで対話する職員の方々は立場や経歴、熱意も様々です。また、年度をまたぐと担当者が変わる、上司が変わる、トップが変わる。計画がまるまる変更になるというドラスティックな展開は未経験ですが、今まで良しとされていた建築の価値観が 180 度かわるということは珍しくありません。
このプロジェクトでも、計画の大きなコンセプトであった吹抜け回廊空間について、プロポーザル審査員には大きく評価されました。しかし、いざ設計打合せを開始すると、安全面や機能面でのチェックから反対意見が多数あがりました。
自分達の案の意味を考え、繰り返し提案をすることで、微調整はしつつも何とか実現に漕ぎつけました。その空間は出来上がってみると、自分たちが意図していた学生の交流が生まれ、新たな価値づくりに寄与できたのではないかと思います。
様々な意見に耳を傾けながら、常にバランス良く、多方面に自分の思考を張り巡らせて考えることが重要です。そうする事で、ようやく目の前の個別解に答えるだけでなく、普遍的な解答が出来るのではないか、それが設計における対話の意味だと思います。
偉そうなことを書いていますが、今のところ、打率2割程度でしか上手くいっていません(笑)。これからも引き続き、チャレンジすることが大切ですね。