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連載記事

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ケンチクノワ2

富山を拠点に、県内外で活躍する個性豊かな建築家・建築士10名によるリレーブログ。
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第2弾のテーマは「完成までのプロセス~人との出会い~」です。

※毎週火曜日に掲載

荒井好一郎建築設計室

荒井(あらい) 好一郎(こういちろう)


テーマ vol.02完成までのプロセス
       ~人との出会い~

「愛される建築を目指して」

私たち設計者はモノヅクリに携わっているので出来上がったモノで評価をされるのは当然なのですが、私はそのモノがどのような過程・方法で出来上がったのかというプロセスも大切だと思っていまして、それが最終的に建築主(住宅であれば住まい手となる方)の満足度を高めることに繋がると考えています。

ですから、私の設計活動でのテーマは「プロセスを如何に楽しむか」で、モノヅクリだけでなくコトヅクリにも力を入れており、設計プロセスと同じくらい建設プロセスも非常に大切な要素となっています(私は住宅設計を主として業務を行っていますから、住宅規模の建築工事が前提であることを先にお伝えしておきます)。

私が大学を卒業して以来、国産材や地元産材の活用と共にいかに住宅を長寿命化するか?という部分に問題意識を持って建築設計という仕事に取り組んできました。そして14年前に長期優良住宅認定制度という仕様規定から住宅の長期利用化を促進しようと考える国の制度が開始されることになったのですが、これには非常に疑問を持っていました。住宅の短命の核心はもっと別の部分にあると思っていたのです。

そんな折、世界的建築家の坂茂さんの講演を聞く機会がありました。その講演の中で、阪神大震災で焼けてしまった教会の仮設建物としてつくった「紙の教会」にまつわる話をされたのが印象的で、当初は数年間の使用予定だったが結果として10年以上も神戸で使われることになり、更にその後同じく被災した台湾へ渡ることになったという内容でした。

そこから坂さんは、単なる金もうけのための商業建築はたとえコンクリート造でも愛されることなく壊されて、言わば仮設建築みたいなものとなってしまい、一方弱いと思われている紙でつくっても、人が愛してくれたら建築はパーマネントになり得るんだということを感じたというのです。

2013年10月に富山県民会館で開催された坂茂氏の講演会

私はこれを聞いて、「やっぱりそうだよな。持ち主や利用者に建物自体を大切にする心がないと長く使われることはないはずで、建て方を変えることよりも意識を変えることの方が重要だ」とモヤモヤが晴れる思いがしたのでした。

ではどうすれば良いのか?と自分なりに考え、行き着いたのが「設計者も建築主も人任せな姿勢ではなく自分でつくる・参加するという意識を強く持つ仕組み」を完成までのプロセスに組み込むというもので、何となく王道の設計事務所らしい姿から外れていく自分を感じていました。

ケンチクノワ2の第1回目テーマの建築家10名のブログからは、それぞれのまったく異なる背景から生まれる多彩な考えや想いが伝わってきて、建築家としての活動方針・姿勢においてもまた建築家の数だけ答えがあるのだろうなと思いました。

つまりそこに正解なんかは存在しなくて、自分の心に素直に聞いてみることが大切です。こんなことをしたら設計事務所らしくないとか、建築家とはこうあるべきみたいな発想は意味がないと思っています。

そういう私は普段から「設計事務所らしくない代表」であると豪語しておりまして、車の中には工具や養生材などが常に溢れている始末。

現場が好き、職人が好き、自分で手を動かすことも好き、な私は設計監理業務だけではなく、もっともっと現場の職人さん達と関わって、自分がこの建物をつくったんだ!という実感を強く持ちたいと常日頃から考えています。

車に積み込まれた工具類

そんな私が、先に述べた「設計者も建築主も自分でつくる・参加するという意識を強く持つ仕組み」を実践しようと考えた時、設計事務所として設計監理をしながらコンストラクションマネージャー(以下CMr)を兼任するという「CM分離発注方式」を選んだのは必然だったと言えます。

設計監理者としての目を持ちながらもしっかりと現場に関わることができるというのが性格に合っていますし、この方法では建築主と設計者と職人との距離感が非常に近くなり、皆で一緒に一つの目標に向けてモノヅクリをしているという意識になることができるんです。

そんな中でも設計事務所として「中立な立場」でいることも重要視する私としては、工事業者とお金の関係をつくらないためにも設計施工ではなく、分離発注であることが大切でして、そのポイントが守られていれば後はまぁ、ナンデモアリなんですね。

現場の手が足りない時や工程を考慮した時、大工さん・電気屋さん・塗装屋さん・左官屋さん等の手伝いを率先して行っていますし、建て主さんと一緒のDIY作業なんて何のハードルもない訳です。

「CMrは施工者ではないので現場のことには手を出すべきではないというのが基本的な考えなので、実はCMrの中でもやはり私は異端であると言えそうです。

分離発注では建て主さんがより積極的に工事に参加できる

工事に参加すると自分の家へ愛着が深まる

「CM分離発注方式」でもう一つ重要なポイントは、その契約体系にあります。設計者や専門工事業者(職人)は全て建築主との直接契約関係にあるため、工事に関わる全員が建築主の方を向いているというのが大きな特徴で、元請けの顔色を伺いながら仕事をする必要はないわけです。

もちろん設計事務所ともお金の関係がありませんから、設計者と職人は対等に意見を交わせる間柄となります。判断基準はたった一つ。建築主にとって不利益はないか?喜んでもらえるものになっているか?そんな意識の中、現場関係者皆で対話を重ねながら建物をつくり上げる作業には清々しさがあります。

デザイン・工事費・人間関係が無駄をそぎ落としながらしっかりと整理されて質の高いものになるのは何よりも建築主にとっては喜ばしいことのはずです。

図から発注方式によって専門工事業者の位置付けが変わるのが理解できる 工事業者は意識的にも脱下請けを目指すべき!

ということで「CM分離発注方式」との出会いが紛れもなく私の設計者としての分岐点となっていて、更に「CM分離発注方式」導入後の第1号物件である「インナーパティオのある家」が富山県建築文化賞をいただけたことがすごく励みになりました。

【富山県建築文化賞受賞者インタビュー】
住宅部門優秀賞 「インナーパティオのある家」https://www.kensetsu-labo.com/article/1795

応募資料には建設方法についても記載しましたから、その点の評価もされての受賞だと認識していまして、自分の信じる「プロセスを楽しむ」ということが「愛される建築の創出」につながる可能性があることを実証できたような気がしましたし、実際に一括元請業者なしで建築をつくり上げた経験は何物にも代えがたい財産となりました。

「インナーパティオのある家」外観1

「インナーパティオのある家」外観2

「インナーパティオのある家」内観1

「インナーパティオのある家」内観2

日刊建設新報に受賞記事を掲載していただいた時には、担当の森口さんが私の想いを汲んでくれ、施工業者に全関係工事業者名を記載してくださいました

 
・CMrでもある設計者は「自分がこの建物をつくり上げた」と強く実感できます。
・建築主と設計者に近くなった職人は、誰のためにつくっているのかが明確になり、しっかりと自分の仕事が見られているという意識が強まります。
・そして現場と職人に近くなった建築主は、つくる苦労と喜びを共感しやすくなり、それが建物への愛情を深めることとなります。
 

最終的にはこの取り組みが建物の寿命を延ばすことにまでつながれば嬉しいなと考えますが、その答えが出るのはまだまだ先の話。

愛される建築をつくるためには、その建築に関わる全ての人が自分の立場や仕事に誇りを持って取り組むことが大切で、そのためにはそれぞれにしっかりと光が当たらなくてはいけないと考えています。

もちろん何事にも一長一短ありまして、「CM分離発注方式」も決して完璧とは言えないのですが、少なくともその点においては大きな可能性を秘めていると思っています。

さてこんな建築のつくり方、皆さんはどう思われるでしょうか?

荒井好一郎

PROFILE

荒井好一郎建築設計室

富山市水橋山王町262-1
http://arai-arch.net/

荒井好一郎

1976     富山県生まれ
2000     職業能力開発総合大学校 建築工学科 卒業
2000-2004 市川総合設計室(東京都)
2004-2011 草野鉄男建築工房(富山市)
2011-2013 株式会社 創建築事務所(高岡市)
2013-    荒井好一郎建築設計室(富山市)
2019-    富山国際職藝学院 非常勤講師

一級建築士
2級福祉住環境コーディネーター
2級電磁波測定士