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連載記事

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ケンチクノワ2

富山を拠点に、県内外で活躍する個性豊かな建築家・建築士10名によるリレーブログ。
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第2弾のテーマは「完成までのプロセス~人との出会い~」です。

※毎週火曜日に掲載

神田謙匠建築設計事務所

神田(かんだ) 謙匠(けんしょう)


テーマ vol.02完成までのプロセス
       ~人との出会い~

「雨にも負けず」

まず、令和6年能登半島地震により、犠牲となられた方々に謹んでお悔やみを申し上げますとともに、被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申し上げます。また、被災地域の皆様の安全と、一日も早く日常生活を取り戻されることをお祈り申し上げます。

この記事でも触れていますが、能登半島と富山は古くから縁故がありました。同じ北陸に生きる建築士としてできることを実施し、微力ながらご支援できるよう努めてまいります。

 

富山県でもリノベーション【建物を改修して価値を高める工事】した素敵な建築がたくさんできています。社会的要請も相まって、古民家や町家、空きビル活用への関心の高まりを感じます。今回はそんなリノベーションの設計から、完成までのプロセスとして大切にしている視点について書こうと思います。

長年雨風吹き込む漁具倉庫。それでも健全なのは…?

 

こんな古い建築の調査をしていると、当時の時代・生活背景を映したような珍工法や材料によく出会います。一見すると現代的発想の外にある、読み解きが難しい技法です。しかし見方を変えると、未来につながる知恵の原石なのでは?と思うことが時々あり、その発見がリノベーションの設計において大切な視点を与えてくれています。

また、リノベーションと言っても、完成までに施主、施工者、設計者の3者の想いや関係づくりが大切なのは新築と同じです。違うのは過去に一度は完成を迎えた建築が既に有ること、つまりその建築をつくった職人の仕事が残っていることです。まさに第4者目の存在です。そんな先人達との出会いにスポットを当て、最近発見した原石を紹介することからお題を掘り下げていきます。

漁具倉庫内部。開口部に建具は入っておらず、外気に開放されている

 

まずは始めに載せた写真の、射水市の漁師町にある漁具倉庫です。雨風が吹き込む、まさにあばら屋の佇まいです。驚きなのが、大正期からこの姿のまま建っていたにも関わらず、構造に痛みがないことです。気になり建築当時の背景を探ってみると、漁場の関係で能登半島との交流があったことがわかりました。

そうなると「能登ヒバ」の使用に行きつきます。ヒバは高い強度、防腐性、耐湿性を持つことで知られている材料で、現在の状態にも納得できます。また、高い通気性が長寿命化に作用していることは明らかで、その重要性を再確認させてくれます。

高耐久で規格化された現代の建材はたしかに便利だし、性能を担保する上で不可欠です。その一方で、材料の特性を理解し、風土に適応させる先人の知恵や態度に見習うべき点は多いでしょう。時代の生き証人として、この姿のまま残していきたいと思う建築でした。

古い筋交(すじかい)。鴨居溝が見て取れる

 

これは富山市にある昭和初期の住宅建築で、廃材のリサイクルでしょうか、鴨居が筋交に転用されています。確かに柱を柱として、梁を梁として、鴨居を鴨居として使う必要はありません。材寸的には必要十分な役割を果たしており、木材の柔軟性の高さがよく表れています。

こうして木が大らかに応用されている様を見ると、先人の頭の柔らかさに感心します。さらに現代的な観点に置き換えてみると、古材活用に通じるサスティナブルな手段と言えるかもしれません。この筋交は交換せず、補強して役目を全うしてもらおうと思います。

さて、今回は2つだけ紹介しましたが、こうした不思議な技法は古い建築にはたくさん転がっています。これらを覆ったり交換して、刷新する方法ももちろん有ります。しかし、建築に宿る先人の含意を汲み取る視点を持つことで、そこにポジティブな意味を見出すこともできます。

リノベーションには住宅ストック活用や資源循環といった目下の社会課題に応えるだけではなく、建築文化や都市景観の保存・継承という、建築が大きな時間軸を備えているからこそ持っている価値もあります。

そこに私が介入できるのはほんの一瞬ですが、先人が残した雨にも風にも負けないあの漁具倉庫のように賢明に、未来につながる建築を導き出していきたいと思います。

神田謙匠

PROFILE

神田謙匠建築設計事務所

〒930-0063
富山市太田口通り二丁目5-1 サワダビル2F
Tel. 076-464-0722 / Fax. 076-464-0723
https://kanda-archi.com/

神田謙匠

1988 Ι 富山県滑川市生まれ
2013 Ι 金沢工業大学大学院 修了
2013 Ι 濱田修建築研究所
2021 Ι 神田謙匠建築設計事務所 設立

一級建築士
日本建築家協会 会員